SENTIMENTAL JAZZ DIARY

感傷的ジャズ日記 ~私のアルバムコレクションから~

CARSTEN DARL「Will you make my soup hot & silver」

2007年03月30日 | Piano/keyboard

最近やたらと気に入って何度も繰り返し聴いているのがカーステン・ダールだ。
本当はこの初期のアルバムよりも「マイナー・ミーティング」での演奏が好きでご紹介したいところなのだが、残念ながらまたもやジャケットデザインが悪いのだ。「内容が良ければジャケットが多少悪くたっていいじゃないか」といわれるかもしれない。でもそうはいかない。私の場合はいい作品の絶対条件としてジャケットがあるのだ。どんなジャケットなのか見てみたい人は、ご面倒でも調べてもらうしかない。見ればたぶん納得していただける。

カーステン・ダールの気に入っているところは3つある。
1つ目はバド・パウエルに通じるノリの良さ。それはバド・パウエル同様の唸り声からもわかる。しかしこれが全く気にならない。それどころかある意味快感だ。おいおい、いい加減にしてくれといいたくなるようなキース・ジャレットの唸り声とは全然違うのだ。
2つ目はヒヤリとした硬く冷たいピアノタッチ。これが北欧ジャズの魅力だ。澄んだ音色は水琴窟の響きにも似て奥が深い。
3つ目は誰でも知っているスタンダード曲の選曲の多さである。しかもかなりコテコテの有名曲ばかりだ。このアルバムでも「枯葉」や「テイク・ファイヴ」など、普通の人ならちょっと躊躇しそうなものを好んで取り上げるのが彼の特徴だ。それだけチャレンジ精神とサービス精神が旺盛だということかもしれない。
後はいいジャケットデザインに恵まれるかどうかにかかっている。

SONNY ROLLINS 「NEWK'S TIME」

2007年03月29日 | Tenor Saxophone

ソニー・ロリンズ、満を持しての登場になる。
どうだと言わんばかりのこの表情、王者の風格たっぷりだ。
本場アメリカのジャズはイコール、ブルーノート・レーベルのイメージだといっても過言ではない。もちろんプレステッジやリバーサイドなどの有名レーベルもあるにはあるが、やはりブルーノートにはかなわない。こちらも王者の風格たっぷりなのだ。
このレーベルの親分はアルフレッド・ライオン。彼はカメラマンでありマネージャーでもあったフランシス・ウルフと組んで数々のヒットを生み出す。「ライオンとオオカミ(ウルフ)」という曲までできるくらいだから、この二人は業界の野獣コンビだったのだ。

このアルバムはそんな輝かしいブルーノート4000番台の最初を飾る記念碑的な作品だ。
アルフレッド・ライオンは、この重要なポジションにブルーノートのイメージを決定づける王者を位置づけたかったのだ。それにはソニー・ロリンズ以外には考えられなかったのだと思う。このアルバムの中の「Surrey With the Fringe on Top(邦題:飾りのついた四輪馬車)」を聴けば誰でも納得する筈だ。ドラムだけを相手に、延々6分以上も豪快にアドリブを吹き鳴らす。こんな芸当ができたのはこの時期の彼だけだ。しかもこの曲はジャズには珍しくフェードアウトしているところを見ると、おそらくロリンズはこの後もまだまだ吹き続けていたのではないかと思われる。何とも恐ろしいヤツだ。
ニュークス・タイム(ニュークは彼の愛称)、正に彼の時代だったのだ。

RITA REYS「Marriage in Modern Jazz」

2007年03月28日 | Vocal

本作はリタ・ライスとピム・ヤコブストリオによるドラムレス編成のヴォーカルアルバムだ。
タイトルからもわかるように、この作品が発表された年(1960年)にリタ・ライスとピム・ヤコブスは結婚している。ジャケットを見ても幸せいっぱいという彼女の喜びが伝わってくる。リタ・ライスは1924年生まれだから歳は既に30代半ばを過ぎていたわけで、それも当然のことだろう。
因みにピム・ヤコブスは、リタ・ライスの死別した夫のバンドマンであったらしい。

リタ・ライスはヨーロッパにおいては大変有名なジャズヴォーカリストだが、この日本では今ひとつ知名度が低い。
私も彼女のことを知ったのは、ピム・ヤコブストリオの「カム・フライ・ウィズ・ミー」に感激して、彼のことを色々と調べる中でその存在を知ったに過ぎない。だからこのアルバムもリタ・ライスを聴きたいというより、ピム・ヤコブスのピアノを聴きたいがために手に入れたものだ。
彼のピアノは実に気持ちよく転がっている。ある意味ジャズピアノの一番美味しいところを押さえた弾き方だといえる。タイプとしてはベツレヘムの専属ピアニストであったラルフ・シャロンに近い。両人とも歌伴を得意としていた職人肌のピアニストで、決して目立ったことはしない人たちだった。
リタ・ライスやクリス・コナーが光り輝いたのも、こうした影の存在があったればこそなのだ。
ジョン・レノンではないが、いつの時代も愛がすべてということだ。

PHIL WOODS 「WOODLORE」

2007年03月27日 | Alto Saxophone

1955年、フィル・ウッズ、若干24才の録音である。
アルトがもっともアルトらしい音色で軽快に響く。
この時代のウッズによるワンホーンの作品といえば「WARM WOODS」と本作になる。両方とも私の大のお気に入りではあるが、何といっても本作には「On a Slow Boat to China」が入っている分、どうしてもこちらをターンテーブルに乗せることが多い。
「On a Slow Boat to China」(邦題:中国行きのスローボート)という曲が一躍有名になったのは、ソニー・ロリンズのデビューアルバム「ソニー・ロリンズ・ウィズ・ザ・モダン・ジャズ・クァルテット」での名演があったからだ。おそらくフィル・ウッズもその演奏を聴いて「よし! オレも」と思ったに違いない。結果はソニー・ロリンズに負けない出来映えとなった。

そういえば村上春樹も「中国行きのスローボート」という短編小説を書いている。彼はジャズマニアとしても有名だが、この小説はそんな曲からのイメージを彼なりの思いでストーリー化したものだった。それくらいこのタイトルから受けるインパクトは大きい。
我々は音楽に限らず、どんな作品でもタイトルやネーミングの重要性をもっともっと認識すべきだと思う。
人の心に入り込むワンセンテンス、ワンフレーズにキレがなくてはダメだ。

THEO SAUNDERS TRIO 「Three For All」

2007年03月26日 | Piano/keyboard

ジャズ批評という専門誌がある。
ここでいい評価が得られると、その作品はあっという間に店頭から姿を消す。みんながこぞって買うから廃盤状態になるわけだ。
廃盤状態になると噂が噂を呼び、何としてもほしい、聴きたいとなる。値段も当然つり上がってくる。ものによってはCDにもかかわらず一枚1万円を超えるものも出てくる。
こうした状況下の中で、いかに優れた作品を集められるかがコレクターの腕の見せ所である。たまたま運良く中古屋さんなどで見かけたら、すかさず手に入れる癖を付けないと後で後悔する羽目になるからご用心ご用心。
このテオ・サンダースのアルバムも一時期似たような状況をつくり出した作品である。
私はこのアルバムを比較的早い時期に購入したため、普通の値段で手に入れることができたのはラッキーだった。

さて内容はというと、さすがに評判だけのことはあるメリハリの利いた演奏だ。特にドラムスの音がくっきり鮮やかに再現されていて気持ちがいい。ジャケットに映っているフルーツともイメージがオーバーラップする部分がある。要に粒立ちがいいのだ。
但し演奏スタイルはいたってオーソドックス。それだけに安心して薦められる。
曲は出だしの「THE KICKER」、続く「IN A SENTIMONKAL MOOD」が印象的。疾走感が新鮮な柑橘系の音だ。

BILL EVANS TRIO 「Waltz for Debby」

2007年03月25日 | Piano/keyboard

おそらくモダンジャズ史上、最も有名なアルバムの一つだろう。
現在のピアニストは星の数だが、その大多数がビル・エヴァンスから影響を受けていることは間違いない。それくらい彼の存在は大きく、永遠に愛されていく人だろうと思う。
以前このWaltz for Debbyを演奏しているビル・エヴァンスの姿を映像で見たことがあるが、決してハンマーのように指を振り落としたりはせず、まるで鍵盤を撫でるような優しいタッチで弾いていたのが印象的だった。

彼の演奏技術を今更解説するつもりはない。
このアルバムが有名になり売れに売れたのは、必ずしも彼の演奏技術だけではないからだ。
では何か。
ヴィレッジ・ヴァンガードというジャズクラブのお陰である。
カチャカチャと食器やグラスのふれあう音や、客の話し声などが鮮明に記録されているから価値が倍加したのだと思う。
つまり私たちは常にあんな雰囲気の中でジャズを聴きたいのだ。
本格的なジャズ喫茶などに行くと、下を向いてただじっと聞き入っている客が必ずいる。そうした人に限って、こちらが余計な音を出すと「何だよ!」といった目つきで睨んでくる。冗談じゃない、自分一人でじっくり味わいたいのなら家で聴いてくれといいたい。
その点、ここでの客の半分は真剣に演奏を聴いていない。それでいいのだ。その方が演奏する方も肩の力が抜けていく。
こんなお店がもっともっと存在すべきなのだ。

MICHAEL NAURA QUINTET 「EUROPEAN JAZZ SOUNDS」

2007年03月24日 | Group

アメリカのそれとはひと味違う洗練されたハードバップだ。
澤野工房による幻の名盤の復刻版。ジャケットからしてその風格が感じられたし、澤野工房なら大きな失敗がないだろうと安心して購入した。
まず音がすばらしいのに驚いた。1963年の録音にもかかわらず、これだけ臨場感のある音空間を再現するリマスタリングとはすごい技術だと思う。音はスピーカーから出てしばらく室内空間の中を対流してから耳の中に入ってくる。やはり音がいいというのは絶対的な魅力だ。
演奏はというと、リーダーのミヒャエル・ナウラよりも、他のメンバーの出来がいい。特にナウラの旧友であるWolfgang Schluterのヴァイヴはすばらしい出来だ。Peter Renkeのアルト、Joe Nayのドラムスも実に好調で、澄み切った夜空に響き渡るようだ。
タイトル通り、ヨーロッパらしい曲とサウンドに満ちあふれたアルバムである。

考えてみればこのところはやたらとヨーロピアンサウンドに毒されている。以前は本場アメリカジャズ一辺倒だったのにどうしたことだろう。昔はヨーロッパのジャズというだけで売れない時期があったようだが、現在は立場が逆転している。
このアルバムのようにまだまだ埋もれた名盤がヨーロッパには多いのだ。これからも瓢箪から駒を期待しよう。

DAVE BRUBECK QUARTET 「Anything Goes!」

2007年03月23日 | Group

はは~ん、思いっきりジャケ買いだな、といわれても何も反論する余地がない。全くその通り。
美脚をモチーフとしたジャケットは数多いが、これはその中でも一、二を争う秀作だ。
美脚ジャケでまず真っ先に思い浮かぶのがソニー・クラークの「COOL STRUTTIN'」、次にパット・モランの「THIS IS PAT MORAN」、ヘルマン・クシチの「y desques…que? 」などだろうか(何だか大事なものを忘れているような気もするが....)。

だいたい女性の足で何を表現したいのだろう。
テーマとなっているコール・ポーターの曲のイメージか、ポール・デスモンドの優しい音色か、いやいや、そんなことはお構いなしの直球勝負に違いない。単に商業的な感で「お色気路線で行け!」と決めたのだ。
事実この頃(60年代半ば)は、やたらと艶めかしいアルバムが数多く出回っていた。売れるか売れないかはデザイナーの腕次第といったところ。
まぁ、ジャズはとやかく言わない音楽ジャンルなのだ。
こんなアルバムを壁の前に立て掛けて中の音を聴く。これがジャズファンの正しい聴き方だ。
普段はスイングしないデイヴ・ブルーベックのピアノも何だかやたらと色っぽく感じる。ここにポール・デスモンドの死ぬほど優しいアルトが絡んでくる。
4曲目の「NIGHT AND DAY」なんて、もうメロメロだ。

DAVID "FATHEAD" NEWMAN 「THE GIFT」

2007年03月22日 | Tenor Saxophone

最近のファットヘッド(デヴィッド・ニューマン)は乗りに乗っている。
レイ・チャールスと組んでR&Bを歌い上げていた頃の彼も良かったが、年齢も70代半ばとなった今が一番輝いている時期だろう。こんな風に歳が取れたらいいなとつくづく思う。

とにかくベテランの持ち味を充分出したストレートアヘッドな演奏だ。
但しそんな風に書くと、長いキャリアから生み出される安定感だけが売りかと誤解されるかもしれない。違うのだ。この場合の表現は難しいが、渋さの中にも「若さ」が感じられるとでも書けばいいのだろうか。決して単なる「枯れた味わい」だけを売りにしていないところが嬉しい。それだけファットヘッドはこの歳になって元気はつらつなのだ。
旧友ジョン・ヒックス(p)との相性も抜群だし、ブライアン・キャロット(vib)との掛け合いも見事だ。今回はサックスの他にフルートも吹いており、全体を華やかな印象に仕上げている。
こうしたムードづくりのうまさががベテランの成せる技なのかもしれない。
これぞ大人のジャズだ。


SHELLY MANNE 「MY FAIR LADY」

2007年03月20日 | Drums/Percussion

オードリー・ヘップバーン主演の同名映画ができる8年も前のアルバムである。
但し、その映画の音楽監督もここでピアノを弾いているアンドレ・プレピンだ。彼はグラミー賞を何度も取っているとおり、ジャズ界のみならずミュージカルやクラシック(ロンドン交響楽団の正指揮者だった)の世界でも有名で、正に才能に満ちた人だった。
こういう人がいると、それまで興味のなかったクラシックも聴いてみようという気になる。だからこういう人をもっともっと評価すべきなのだと思う。

さてさてこのアルバムのご主人はシェリー・マン。ウェストコーストジャズの中心的役割を果たしたドラマーである。
とにかくこのアルバムはジャズ史上空前の大ヒットを記録した人気盤だ。人気の舞台作品をテーマに取り上げるというブームはここから始まったともいえる。それくらい画期的な作品だったのだ。
ここでのシェリー・マンはブラシ一筋だ。ブラシとは、あの泡立て器のような形をしたジャズドラムには欠かせないスティックのことで、これを軽く撫でるようにして微妙なリズムをつくり出す。するとまるで打ち寄せる波のような何とも優しい音色が広がり、私たちを夢の世界に連れて行ってくれるのだ。
このブラシを最初に使った人は本当にエライ。これだけでグラミー賞はもちろん、ノーベル平和賞もあげたいくらいだ。
もしこのブラシがなかったなら、ピアノトリオの魅力は間違いなく半減しただろう。考えるだけでもぞっとする。