私が持っているレコードコレクションの中でもこれは宝物の一枚だ。
みんなが寝静まった夜に、部屋にこもって一人こっそりこれを聴く。
何だかそんな聴き方が一番似合っているようなレコードなのだ。
ダイナ・ショアは実に上手いシンガーだ。
何というかさりげなく、それでいてゴージャズな雰囲気を漂よわせる名人である。
最近のクセのあるシンガーばかり聴いていると、こういった歌い手の凄さを実感してしまう。
声質や節回しに頼らない人こそ本物なのだ。
とにかく1曲目の「Bouquet of Blues(ブルースの花束)」からして泣けてくる。彼女の声の何と素直なことか。
それとリードをとるハーモニカが切ないこと、切ないこと。胸が締め付けられるようだ。
またひたひたと響く足音もムードを盛り上げている。
よく聞けばこの足音はハイヒールのようだ。彼女が雨に濡れた歩道を歌いながら歩いているような気になってくる。
まるで映画を観ているような臨場感に、思わず引き込まれてしまうのは私だけではないだろう。
このアルバムはこれ1曲だけ聴いて止めてもいいのだが、続く2曲目の「Good For Nothin Joe」、5曲目の「Lonsome Gal」もなかなかの出来だ。
これだけハートウォームな気持ちになれる作品も少ない。
このアルバムでは、純粋なこってりブルースよりも、こういったある意味淡泊な曲が光っているように思う。特にA面がいい。
今夜は手元に陶器のカップがあって、ビール片手に聴いている。
本当はカクテルなんかがいいんだけどね。