キース・ジャレットはこの作品についてこう書いている。
「夜更けにあなたの妻や夫、あるいは恋人を電話で呼び出して、一緒に座って耳を傾けてほしい。これらは、曲のメッセージをできるだけそのままの形で伝えようとする偉大なラヴ・ソングだ。」
あれ?キースってこんなセンチなことを言う人だったっけ??というのが私の最初の印象。
彼に向かって「どうしたの?」「何があったの?」と声をかけてやりたくなる。
アルバムを一通り聴いて気になったのは、意外なほどに印象の薄いチャーリー・ヘイデンの存在だ。
彼は多くのジャズメンとデュオを行っているが、いつも存在感に溢れていた。
聴く前はそんな彼のゴリゴリしたベースを私なりに期待していた部分もあったので、正直言ってちょっと拍子抜けした感じだった。
しかし今回は、ただそっとキースのピアノに寄り添って引き立て役に徹している。
ジャスミンの白い花がキースなら、そよぐ風がチャーリー・ヘイデンといったところだ。
そういえばキースのトレードマークである唸り声もあまり聞こえない。
きわめて静かで穏やかな演奏だ。
数年前に「The Molody at Night, With You」というソロ・アルバムが出されたが、この「Jasmine」は明らかにその系列にある。
要するに限りなくプライヴェートな作品なのである。
いい方は悪いが、ちょっと歳をとって弱気になったキースがここにいる。
そこに人間味があっていいのだ、という人もいるだろう。
事実、多くの人がこのアルバムを大絶賛している。
私もその気持ちはわかる。
しかし「The Molody at Night, With You」がそうだったように、あまり内面に向きすぎていて迸るような生気を感じないのだ。
この「Jasmine」を聴いた後に、たまたま手元にあった「Paris Concert」を聴き比べてみた。
コンサートホールと自宅スタジオという録音環境の違いもあるが、「Paris Concert」からは何よりキースの並外れた創造力を感じた。
キースはやっぱりこうであってほしいと思う。