SENTIMENTAL JAZZ DIARY

感傷的ジャズ日記 ~私のアルバムコレクションから~

LAURINDO ALMEIDA 「GUITAR FROM IPANEMA」

2008年04月29日 | Guiter

夏に似合う音楽をかけたくなるのは必ずしも盛夏とは限らない。
今日のように気持ちよく車の窓を開けて走れるようになった頃が一番聴きたくなる季節だ。
それにしてもなぜボサノヴァはこれほどまでに夏を感じさせるのだろう。
潮騒のようなリズムだからだろうか。はたまた吹き抜ける風のようなメロディだからだろうか。
今日はそんなことを意識しながらこのアルバムを聴いた。

最初の曲はボサノヴァの大定番「イパネマの娘」である。
曲を書いたのはもちろんアントニオ・カルロス・ジョビン。
ここでのテンポはちょっと早めだ。メロディラインはジャック・マーシャルによる爽やかな口笛で綴られており、そこにローリンド・アルメイダが弾くナイロン弦のギターと、カツンカツンと響くパーカッションがいかにも夏らしいリズムを醸し出している。
この他にも「黒いオルフェ」や「クワイエット・ナイツ・クワイエット・スターズ」といったボサノヴァの定番曲が納められているが、そこには口笛の代わりにフルートやハーモニカが使われており、アルバムを通しても一貫性が感じられる。
但しボサノヴァのアルバムで一番有名であろう「ゲッツ/ジルベルト」と比べると、全体にはやや軽めである。ここが好き嫌いの分かれ道になるかもしれない。

ボサノヴァにギターはつきものである。演奏スタイルとしては決してストロークせず、基本的には親指と残り3本の指とで交互にリズムを取りながら弾いていくフィンガー・ピッキングが中心だ。
この単純な繰り返しによってワールドワイドな音楽スタイルが生み出されたのだ。
ローリンド・アルメイダは1917年ブラジルのサンパウロ生まれということだから、アントニオ・カルロス・ジョビンやジョアン・ジルベルトの先輩に当たる。
彼はL・A・フォアのメンバーとしてもジャズ界にも君臨したが、元々はクラシック・ギターの名手でもあり、ジャンルを超えた活躍の結果、グラミー賞を何と10回、アカデミー賞も1回受賞した巨人である。また作・編曲家としても有名だ。
このアルバムはそんな彼が後輩の作り出したボサノヴァを極々早い時期に取り上げ、一大ブームになるきっかけの一つになった記念すべき作品なのだ。
よし、連休はこれを聴きながら海岸線をドライヴするぞ!


MATHIAS ALGOTSSON 「YOUNG AND FOOLISH」

2008年04月26日 | Piano/keyboard

2~3年前から気になっていたアルバムだ。
機会があったら手に入れようと思っていたが、なかなかその機会に恵まれず時間だけが過ぎていた。
昨年の秋だったと思うが、ある日ふらりと立ち寄った街の小さなCDショップにこのアルバムがあった。
印象的な子どもの写真が使われたジャケットだからすぐにそれとわかった。
これは何かの縁だろうとすかさずレジに持って行く。
これでようやく自分のものになったかと何だかほっとした気持ちになった。アルバムコレクター?の悲しい性である。

マティアス・アルゴットソン。
これもまた印象的な名前だ。最初はドイツ人かと思ったが、正真正銘スウェーデンの若手だ。
北欧ではこうした優秀なホープが次から次へと出てくるので目が離せない。おそらく私たちが考える以上にジャズは北欧の生活の中に溶け込んでいるのだろう。
そういえば私が知っている北欧の知人もみんなジャズの愛好者だったことを思い出す。特にピアノトリオファンが多かったように記憶している。
そんなことを考えているとピアノトリオは相対的に寒い地方に似合う演奏スタイルなのではないかと思えてくる。
まぁそれだけ北欧からは優れたピアノトリオが多く出ているということなのだろう。

このアルバムはとにかく全編ハートウォームな雰囲気に仕上がっている。
彼のセンスがいいのだろう、どのナンバーも好印象を持つ。とても繊細で丁寧にピアノを弾いているといった感じなのだ。優しいピアノトリオを聴きたいという方にうってつけのアルバムである。録音状態も良好だ。
なぜ今、ピアノトリオに人気が集中しているかということに対して疑問を持つ方がいるとすれば、この作品を聴けばある程度答えが出るではないかと伝えたい。
決して派手な作品ではない。しかし心に染みるような味わい深い作品である。
ピアノトリオの人気はそうした部分に支えられているのだ。


CECILIE NORBY 「my corner of the sky」

2008年04月22日 | Vocal

サイドメンの豪華なこと豪華なこと。
ピアノにはデイヴ・キコスキー、ジョーイ・カルデラッツォ、ラーシュ・ヤンソン。ベースにはラーシュ・ダニエルソン、レナート・ギンマン。ドラムスにはアレックス・リール、テリ・リン・キャリントン。この他、スコット・ロビンソン(fl)や、ランディ・ブレッカー(tp)とマイケル・ブレッカー(ts)のブレッカーブラザースが入っている。
これだけ話題の人がバックに揃っていると、それだけでも興味津々だ。

セシリア・ノービーはデンマーク出身の歌姫だ。
ライナーノーツを読むと、デンマークで一番早くブルーノートレーベルと契約したのも彼女らしい。
但しブルーノートとはいえ、この作品はずいぶんポップな仕上がりになっている。100%純粋なジャズヴォーカルアルバムだと思って買った人はちょっと戸惑うかもしれない。
目立つことといえば、バート・バカラックの「The Look Of Love」やスティングの「Set Them Free」、レオン・ラッセルの「A Song For You」、映画バクダッド・カフェの主題歌「Calling You」など、聞き慣れた曲が何曲も入っていることだ。
これらの曲の仕上がりは純粋なジャズからはちょっと外れるが、それがどうであろうと重要なのは彼女の声に酔えるかどうかなのである。
安定感のある歌唱力、深く伸びのある声質、ちょっと気怠い大人の雰囲気、私は充分に酔える。
ジャズヴォーカルにこだわる方もご心配無用。アルバム後半に入ると、「What Do You See In Her」「Just One Of Those Things」「Snow」と立て続けに、いわゆるジャズとしての〈聴かせる〉ナンバーが出てくる。
こういった構成の方が万人を飽きさせなくていいのかもしれない。

全体の味付けはやっぱり北欧特有のものだ。
どこかひんやりとしたムードが漂う。澄んだ声が余計に透き通って見えるのだ。
そんな環境の中でポピュラーとジャズのボーダーラインを行ったり来たり。
これからもどちらかに偏らないことを願う。
ここが彼女の定位置なのだ。

PAUL BLEY「NOT TWO, NOT ONE」

2008年04月20日 | Piano/keyboard

ポール・ブレイはなかなか手強い人だ。
そんなに難しく考えなくてもいいような気がするが、一度難しく考え出したらきりがない人なのだ。
前衛的といえばその通りかもしれないが、いたってオーソドックスな面もあって一筋縄ではいかない。
要するに自分に正直な人なのではないかと思う。
彼はその時々のインスピレーションを大切にしながら、そのひらめきを音に置き換えていく作業を黙々とやっているのだ。だからインスピレーションが乏しい時の彼の演奏はどうしてもつまらなくなってしまう。まぁこれがこういう芸術家肌のピアニストの宿命なのかもしれない。

このアルバムは旧友でもあるゲイリー・ピーコック(b)とポール・モチアン(ds)という最高のパートナーに支えられ、彼のインスピレーションが次から次へと湧き出した類い希な作品だ。
この作品はソロ・ピアノとトリオが効果的に配置されている。
ソロ・ピアノではあの名作「Open To Love」を彷彿とさせる耽美な透明感を感じるし、トリオでは3人がまるで楽器を通じて言葉を交わしているようなインタープレイが味わえる。名人芸とは正にこのことだ。
この作品の場合、どの曲がいいかなどということを記するのも憚るのだが、強いていえばソロピアノは5曲目の「Vocal Tracked」、トリオは10曲目の「Don't You Know」が優れた出来ではないかと思う。

この作品は、音楽を聴いているという感覚よりもコンテンポラリーなアート作品を観ているような感覚に近い。
従ってこういう音を素直に受け入れられない人も多いだろう。
それはそれで結構。無理して聴くこともない。ポール・ブレイやECMが好きな人だけじっくり目を閉じて聴けばいい。
ただ、受け入れられた人には研ぎ澄まされた感性が備わっているのかもしれないということを忘れてはいけない。
単純に自分の物差しでいい悪いを決めつけてしまう人は器の小さい人である。
もちろん〈理解する〉のではなく〈感じる〉ことに意味があるのだから、くれぐれも無理は禁物なのだ。
ジャズはただ楽しく聴くためだけのものであってもいいが、感じられるようにもなるとますます面白い音楽なのである。

COUNT BASIE & His Orchestra 「Basie in London」

2008年04月18日 | Group

圧倒される迫力だ。
ジャケットに写っているカウント・ベイシーの豪快な笑顔を見れば中身だって一目瞭然。
パワフル度、スイング度、リラックス度、ハッピー度、いずれも満点である。
私はビッグバンドの大ファンというわけではないが、この作品くらいは知っている。名盤中の名盤だ。

曲は数多く収録されている。
全曲どれもいいが、特に「NAILS」や「CORNER POCKET」「BLEE BLOP BLUES」あたりの出来がすばらしい。
カウント・ベイシーのピアノとフレデイ・グリーンのギター、工デイ・ジョーンズのベース、ソニー・ペインのドラムスがリズム製造マシンだ。そこにサド・ジョーンズを初めとするホーン部隊が時にはソロ、時にはアンサンブルで次から次へと絡んでくる。まるで音のシャワーを浴びているようだ。
観客との関係も実に良好で、臨場感も充分味わえる。こんなコンサートを見られた人は幸せだ。一生の思い出になっただろう。
観客はタイトル通りにロンドンの人かと思えばそうではない。
実はこのコンサートはスウェーデンのヨーテボリ(Göteborg)で行われたものだ。ではなぜ「in London」などというタイトルがつけられたのかはわからない。きっと何か曰くがあるんだろうと思う。ベイシーファンの方で知っている方は教えてほしい。

ベイシーはピアノを実に可愛らしく弾く。
彼がシングルトーンでピアノをぽつりぽつりと引き出すと、辺りは聞き耳を立てる。全員が集中して彼のリズムやメロディを掴もうとするのだ。そしてある瞬間から色々な楽器がなだれ込んでくる。このいわゆる「間」がベイシー楽団最大の魅力ではないかと思っている。
とにかくリズムに合わせて身体が自然と動き出す。
部屋の空気が揺れ動く。
この爽快感はカウント・ベイシーならではのものだ。
ご近所からうるさい!とクレームが来そうな勢いでもある。




JIMMY KNEPPER 「A Swinging Introduction」

2008年04月15日 | Trombone

ジャケットに問題があると思う。
どういう意味で問題があるかといえば、中身のほのぼのした優しさや楽しさを全く伝えきれていないからだ。
このジャケットだけ見たら、もっとシリアスでハードボイルドな演奏を連想してしまう。
それもそのはず、ここに写っているジミー・ネッパーという人は見るからに怖い。写真が暗い上にモノクロだから余計にその怖さが強調されてしまう。
せめてタバコなんかくわえてなけりゃいいのにと思う。
これじゃあ、「とにかくいいから聴いてみて」と初めての人には差し出しにくい。残念至極である。

先日私の家でジャズを聴く会を催した。
何のことはない、ジャズが好きな人が集まって持ち寄ったCDなどを聴きながら飲むという単純な会である。
その中の一人が「トロンボーンには興味がないなぁ」と呟いた。
この人はもっぱらサックスかピアノトリオ専門のようだ。彼にいわせると「トロンボーンのモコモコした感じの音が野暮ったい」ということらしい。
何となくわかる気もするが、ここは反論しなければ気が済まない。
しばらく数人ですったもんだの議論が続いたが、よくよく彼の話を聞いてみるとトロンボーンに関してはどうやら食わず嫌いだということがわかった。
とはいっても一度嫌いになったものは理屈で簡単に回復は出来そうにない。彼のイメージを払拭させるためにもここはいいものを聴かせるに限る。
で、考えたあげく取り出したのがこのアルバムである。
1曲目から順に聴いていって4曲目の「HOW HIGH THE MOON」あたりで彼の様子が変わってきた。知っているメロディが出てくるとやはり嬉しいらしい。但しここではアルトのジーン・クイルやピアノのビル・エヴァンスのソロに惹かれていたようだ。
続く5曲目の「GEE BABY AIN’T I GOOD TO YOU」。
優しいトロンボーンの音色が部屋中に充満する。そしてジーン・ローランド(tp)の意表を突くヴォーカルが登場すると「お、いいね~!」ときた。その後の各プレイヤーのソロも見事に決まっていることに全員拍手喝采。
ヴォーカルに反応するとは予想外だったが、結果的にはうまくいったわけだ。

それ以後私も調子に乗ってヴィック・ディッケンソンなどをかけてみたが、こちらは残念ながら空振りだった。
「こういう古くさいのも、たまに聴くにはいいけどねぇ~」だそうだ。
う~む、今度は中間派のよさをわかる人とじっくり飲みたいものだ。


LEM WINCHESTER 「ANOTHER OPUS」

2008年04月14日 | Violin/Vibes/Harp

アナザー・オパスとはなかなか思い切ったタイトルだと思う。
というのも、ジャズファンならおそらくほとんどの人が知っているであろうミルト・ジャクソンの傑作「オパス・デ・ジャズ」の向こうを張ったタイトルだからだ。
ヴァイヴ奏者にとってミルト・ジャクソンの存在は計り知れないものがあるようだ。
いわば目の前にそびえ立つ大きな壁のような存在である。
モダンジャズの中でこれほどまでに一つの楽器の代名詞になった人はいないだろう。ヴァイヴといえばミルト・ジャクソンといっても過言ではないくらいのビッグネームなのだ。
もちろん私がこのブログでご紹介した中にもヴィクター・フェルドマンやデイヴ・パイク、カル・ジェイダー、ゲイリー・バートンなどいいヴァイヴ奏者はたくさんいる。しかしその影響力からいってもミルト・ジャクソンには残念ながらかなう人がいない。好き嫌いはともかくだ。
そうしたことを悟ったか、彼らの多くはミルト・ジャクソンとの真っ向勝負を避けてきた。否、いい方が悪かったかもしれない、それぞれがミルトとは違うスタイルを取って生き残ったのだ。
但し、このレム・ウィンチェスターだけは違った。このアルバムで真正面からミルトに挑戦したのである。
それはこのアルバムのメンバー構成を見てもわかる。
ピアノにハンク・ジョーンズ、フルートにフランク・ウェス、ベースにエディ・ジョーンズ。この3人は「オパス・デ・ジャズ」の時のメンバーである(ドラムスだけがケニー・クラークからガス・ジョンソンに替わっている)。
これを見ただけでもレム・ウィンチェスターがいかにミルトを意識していたかがわかろうというものだし、彼の自信もかいま見られて面白い。
結果はどうだったろう。
フルートとヴァイヴの相性の良さはミルトが生み出した功績だったろうが、私はここでのレム・ウィンチェスターが叩き出す硬めのヴァイヴも、適度な緊張感がありとてもいい出来だと思っている。少なくとも大きな壁にぶち当たって跳ね返されたとは思えない見事な演奏だ。

彼はロシアン・ルーレットで死んだというのも有名な話である。
正に若気の至り。惜しいことをしたものだ。

RAY BRYANT 「LITTLE SUSIE」

2008年04月11日 | Piano/keyboard

レイ・ブライアントはリスナーの掴みがいい人だ。
有名な「Ray Bryant Trio」も、1曲目の「Golden Earrings」でリスナーを虜にする。
このアルバムも1曲目の「LITTLE SUSIE」から彼の独壇場だ。
これだけウキウキするブギウギ調の曲を何の違和感もなく弾けるのは、ジャズ界広しといえど彼だけではないかと思ってしまう。
私たちはこの明快さ・ノリの良さで一気に引き込まれてしまうのだ。
この曲は途中から絶妙なタイミングで手拍子が入ってくる。これがまた何ともいえず快感だ。
クレジットには載っていないが叩いているのはどうやらボビー・ティモンズらしい。さすがにファンキーの権化、ツボを押さえた演奏へのスマートな関与である。

レイ・ブライアントは人なつっこい性格だと思う。
来日数も非常に多い人で私も何度かステージを観たことがあるが、彼は常にサービス精神旺盛で観客をどうしたら喜ばせることができるかに気を配るタイプの人だ。
そんな彼も最近はめっきり歳をとってしまって歩く姿もぎこちないが、それがむしろ愛嬌となって親近感を覚えさせる。全盛期の頃の彼を知らなくても、ステージでそんな彼を見てファンになる若い人もいるだろう。
その存在感は現役で活躍する残り少ない大物の一人であることを実感させる。

彼の演奏はいい意味で大衆的だ。
彼はメロディアスでわかりやすく肩肘張らない雰囲気づくりを得意とする。ブルース・テクニックもかなりのものだ。
72年のモントルー・ジャズ・フェスティヴァルでオスカー・ピーターソンの代役に選ばれたこともそうした意味で極々自然なことだったのだと思う。なかなかオスカー・ピーターソンの代役をはれる人なんていないはずだ。
そんな中、彼はたった一人ステージの上でピアノに向き合って魂のこもった演奏を繰り広げた。
観客は拍手喝采。
これがレイ・ブライアントの底力である。


UPPER LEFT TRIO 「Sell Your Soul Side」

2008年04月07日 | Piano/keyboard

アッパー・レフト・トリオ。
最近最も注目しているピアノトリオの一つである。
まずこのジャケットに惹かれる。
気持ちよく晴れ上がった空に大きな観覧車。差して深い意味はないのかもしれないがずいぶん印象的だ。若さが感じられるし、大きなスケール感もある。そして何よりダイナミックな爽快感がたまらない。
彼らの音は正にこの大観覧車のようにすがすがしい。

このトリオはクレイ・ギバーソン(p)を中心に、ジェフ・レナード(b)、チャーリー・ドジェット(ds)で構成されている。
部分的には結構斬新なことをやっているにもかかわらず、全体を通して聴くと何となくオーソドックスな正統派トリオという印象を持つ。一言でいえば角があるのにそれを感じさせない演奏なのだ。ここが彼らのスマートさであり絶対的な魅力である。
ジェフ・レナードの弾くベースはウッドベースではなくエレクトリックベースなのだが、これが全体に迫力と個性を生み出している。しかしこのベース、フレットレスのお陰で違和感を感じない。チャーリー・ドジェットのドラムも鮮烈でシャープである。
この二人に囲まれてクレイ・ギバーソンの瑞々しいピアノが全編を駆けめぐる。

2曲目の「All I Want」での弾むベース音と大地の鼓動のような深いバスドラムが実に気持ちいい。
このくらい低音が伸びるとスピーカーも嬉しそうに震え出す。
とにかくいろんな面で大満足。買ってよかったと思えるアルバムだ。
しばらくは青空を見上げると思い出しそうなピアノトリオである。




RUBY BRAFF 「BRAFF!」

2008年04月05日 | Trumpet/Cornett

私が中間派のファンであることは以前にも書いた。
ジャズの中でも一番人間くさい音がするから好きなのだ。
巷はやれバップだのスイングだのと騒いでいても、彼らは何食わぬ顔をしてトラディショナルな匂いがプンプンする演奏を続ける。
このひたむきさ、頑固さに胸が熱くなるのである。

私はいつも頭の中を空っぽにしてこのルビー・ブラフが奏でる「純粋な音」を楽しんでいる。
例えば1曲目の「Star Dust」。
夜空に向かって高らかに響き渡る彼のトランペットを聴けば、誰だってジャズは理屈じゃないことがわかる。
私たちはジャズをもっと動物的な本能で聴く必要があるのだ。

このアルバムは1956年6月26日、28日、7月10日の3つの録音をまとめたもので、中間派ジャズを代表する名盤の一枚である。
6月26日のメンバーはデイヴ・マッケンナやスティーブ・ジョーダンらが参加しているが、ベースが入っておらずシンプルな構成だ。「Star Dust」はこの日の演奏である。
続く6月28日のメンバーは打って変わってコールマン・ホーキンスやローレンス・ブラウン、ナット・ピアース、ドン・エリオット、フレディ・グリーンなどによるぶ厚いサウンドになっている。フレディ・グリーンの弾くギターがいいリズムを生み出している。
また7月10日のメンバーは、6月28日の構成からコールマン・ホーキンスが抜けているが、それによってドン・エリオットのヴァイヴがより一層際立っている。

懐かしさと職人たちの心意気と熱い魂を感じてほしい。
そうしたらあなたもジャケットに映っているおばさんのように心から拍手を贈るはずだ。