SENTIMENTAL JAZZ DIARY

感傷的ジャズ日記 ~私のアルバムコレクションから~

CLAY GIBERSON 「Spaceton's Approach」

2009年04月26日 | Piano/keyboard

アッパー・レフト・トリオのファンである。
彼らの「Sell Your Soul Side」を手に入れてからかなり経つが、未だに愛聴盤として聴き続けている。
こういうことは滅多にない。
ちょっといいなんていう程度のピアノトリオなら山ほどあって、しばらく聴いた後、ほとんどお蔵入りになってしまうケースが多い。
生き残るのは、せいぜい10枚に1枚あるかないかではないだろうか。
私の中のロングランは、アラン・パスクァの「Body And Soul」を筆頭に、ニューヨーク・トリオの「The Things We Did Last Summer」、カルロ・ウボルディの「Free Flight」あたりである。
もちろんこれは最近(ここ10年程度)発表されたアルバムでの話だ。
これらの難関を突破してきた強者だけが、いつしか時代を超えた名盤となって残るのである。

クレイ・ギバーソンはアッパー・レフト・トリオの中心的存在である。
彼の名はまだ日本では低いと思われるが、既に4枚のリーダーアルバムを出しているほどの人気者だ。
顔だけを見ると、痩せているせいか、かなり神経質そうだ。
でも演奏しているピアノはどれも柔らかく、優しく、静かで、爽やかだ。
時折見せる彼独特の節回しが心地いい。
この作品は1回や2回聴いただけでは印象に残りにくい側面があるものの、噛めば噛むほど味が出てくる、そんな作品に仕上がっている。大抵の人はその味が出てくる前に聴くのを止めるから、その良さがいつになってもわからないのだ。
この良さはアラン・パスクァの「Body And Soul」にも通じるものがあり、これからがますます楽しみだ。

収録されている曲は全部で7曲だが、1曲1曲がそこそこ長い演奏なので、トータルに聴くとかなり聴き応えがある。
どの曲も甲乙つけがたいのだが、私は4曲目の「Trust」の曲調が一番彼らしいと思う。
この‘そこはかとない’さりげなさが彼の特徴なのだ。
しばらくはじっくりと付き合っていこうと思う。もう1年聴き続けられたら本物だ。

BRIAN BROMBERG 「WOOD」

2009年04月21日 | Bass

先日ディスクユニオンに行ったらこれがかかっていた。
吊り下げられたスピーカーから、バコンバコンいいながら迫力あるウッドベースが唸りを上げていた。
弾いているのはブライアン・ブロムバーグ。
一聴してすぐにわかった。
私はこれをかけようと思ったお店の人の心境がよくわかる。
とにかく重低音中心のド迫力で、「こんなピアノトリオもあるんだよ」と客に振り向いてもらいたいと考えたのだ。

ベースの革命児といえば、スコット・ラファロやジャコ・パストリアスあたりを最初に思い浮かべてしまうが、彼は明らかにそれに次ぐ人だと思う。
彼はすさまじいまでのハイテクニシャンだ。
このアルバムの中にはそれを証明するかのようなソロが5曲も入っている。これらはジャコ・パストリアスの向こうを張っているし、ラストの「Star Spangled Banner(星条旗よ永遠なれ)」に至っては、間違いなくウッドストックでのジミ・ヘンドリックスを意識している。
ウッドベースでここまでやるか、といった塩梅である。
ソロにおいては、ウッドベースのボディをパーカッシヴに叩く音が見事に捉えられている。
この乾いた響きと太い弦の弾ける湿った音とが重なって、ぶ厚いサウンドが創り出されているのだ。

彼はまたバッキングも上手い。「Speak Low」におけるウォーキングベースなんかは心憎いまでの切れ味だ。
そのせいもあってか、ランディ・ウォルドマンのピアノがとてもきれいに聞こえる。録音状態もすこぶるいいので、それはさらに際立ってくるのだが、このアルバムを聴いていると、ピアノトリオはいかにベースの存在が重要なのかを思い知らされるのである。

これはベース好きにはたまらないアルバムである。
多少のアクやクセがあって当たり前。
思いっきりボリュームを上げて、とてつもない低音の魅力と、対比され浮き彫りになったピアノの美しさを聴こう。
私のオーディオ装置も心なしか喜んでいるように感じる。









MAL WALDRON 「MAL 4」

2009年04月18日 | Piano/keyboard

最も日本人に愛され、最も日本を愛した男だ。
過去に24回も来日したというから、ニューヨークのジャズメンの中では抜きん出ている。
それもこれも彼の持つフィーリングが、日本人のハートとぴったり一致しているからだろう。
それをひとことで「暗い」と片付けてはいけない。
重く引きづるような哀愁感は、深い情念の底から湧き出てくるものだ。
故に彼の演奏を聴くと、古寺を訪ねる時のように厳かな心境になるのである。

マル・ウォルドロンといえば「レフト・アローン」、そして「オール・アローン」が有名だ。
2枚とも奇しくもアローンの名がついた盤だが、この2枚は日本で受けたアルバムなのだ。
本場アメリカでは日本ほどの人気はないと聞く。それよりも「ソウル・アイズ」の方が圧倒的に支持されているらしい。
共にスローなバラードであり、哀愁感という点では双方とも甲乙つけがたいのだが、あくの強さに違いがあるので興味のある方はぜひ聞き比べてほしい。
この微妙な違いこそが東西の決定的な差なのである。

このマル・フォー(1958年録音)は、マル・ワンから続いたシリーズの最終章であるが、最初のトリオ作品でもある。
私はこのアルバムが大好きだ。
彼独特のメランコリックなナンバーと、絶妙なスイング感を持つナンバーがほどよく配置されているからである。
まず1曲目の「Splidium-Dow」、このノリの良さでぐいぐい引き込まれていく。私にとってはこれくらいがちょうどいいテンポで、ついつい指もそれに合わせて動き出す。
そして2曲目の「Like Someone in Love」。この曲の持つ哀愁感こそがマルの真骨頂であり、独特の「日本らしさ」なのである。この曲は当時のジャズ喫茶で大人気曲だったというが、それも頷ける演奏だ。

マルは来日したときにファンからサインを頼まれると、「あなたのともだち」とか「あなたの兄弟」といった言葉を日本語で書いたという。
私たち日本人はもっともっと彼を愛すべきなのだ。



JOANIE SOMMERS 「SOFTLY, THE BRAZILIAN SOUND」

2009年04月13日 | Vocal

ボサノヴァの季節がやってきた。
前にも似たようなことを書いたが、ボサノヴァが似合う季節は絶対に4月~5月だと思う。
夏になる一歩手前、暖房も冷房もいらない時期ということだ。
部屋中の窓を開け放つとさわやかな風が通り抜ける。そんな風に乗って、アコースティックギターやマラカスの音色が行ったり来たりするのが快感なのである。

ボサノヴァを歌う女性歌手といえば、何といってもアストラッド・ジルベルトが最初に思い浮かぶのだが、このジェニー・ソマーズの歌声もたいへんすばらしい。
何がいいかって、まず声質がチャーミングだし、歌い方にも妙なクセがなく実に素直だ。
大体にしてボサノヴァはいかに自然体であるかが重要なのだ。だってやさしい風に乗らなければいけないからである。
声にやたらと強弱があったり清濁があったりしたら、さわやかな風と同化できない。このへんがボサノヴァを歌う上での微妙なテクニックになるのではないだろうか。
その点においてアストラッド・ジルベルトとジェニー・ソマーズは共通点が多い。

このアルバムがいいのは、ジャケットにもあるように本場ブラジルの名手、ローリンド・アルメイダが全面協力しているからでもある。
彼のギターはどの曲でも控え目にムードを盛り上げてくれる。
ナイロン弦を指で弾く音が常に一定のリズムをつくり出し、そこにストリングスが絡んでくると、ものすごくシンプルな世界であるにもかかわらず、様々な感情が沸き上がってくるのを実感できる。
これがボサノヴァの素敵なところなのだと思う。


一昨日近くの高原の芝生に寝ころんで思いっきり新鮮な空気を吸った。
辺りはまだ雪が残る場所ではあったが、風は暖かく、少しも寒さを感じなかった。
まさにこのジェニー・ソマーズの歌声のような風だった。


CHET BAKER 「IN EUROPE」

2009年04月09日 | Trumpet/Cornett

とうとうCDでの再発となった。
まさにファン垂涎の的、チェット・ベイカーの「イン・ヨーロッパ」である。
中身は「イン・パリ」でもお馴染みだったが、やっぱりこのジャケットでないと魅力も半減するというものだ。
パンナムの権利問題で、絶対に再発は不可能といわれていただけに、この紙ジャケを手にすると万感胸に迫るものがある。
この喜びはコレクターにしかわからないだろう。
レコードを持っていてもなお、CDもほしくなる。これはそんな作品なのだ。

この写真を撮ったのは、もちろんウィリアム・クラクストンだ。
彼は昨年10月に80歳で惜しくもこの世を去ったが、この人もまたジャズ史に輝かしい足跡を残した名カメラマンだった。
ウエストコーストジャズのイメージを作ったのは明らかに彼である。
彼がひとたびシャッターを切ると、そこには生き生きとしたジャズメンの輝きや当時の世相が写し出されていた。
特にチェット・ベイカーのアルバムにいい写真が多いが、この他にも先日ご紹介した「リー・コニッツ with ウォーン・マーシュ」や、「オリジナル・ジェリー・マリガン・カルテット」、ソニー・ロリンズの「ウェイ・アウト・ウェスト」などは傑作中の傑作といえる。
そういえばジョン・ルイスの「グランド・エンカウンター」に写っている少女は、この 「イン・ヨーロッパ」で抱き合っている女性と同一人物なのだとクラクストン自身が話していたのを思い出す。
コレクターというものは、こういった些細な話をまるで宝物のように大事にする人種なのである。

このアルバムは1曲目の「Summertime」が有名だが、私は3曲目の「Tenderly」が大好きである。
いかにもチェット・ベイカーらしく、切々とトランペットを歌うように吹く。
ただアルバム全体を通してアンニュイなムードが続くので、この雰囲気を楽しめる人でないとお薦めしない。
とはいってもやっぱりこのジャケットだ。
中身の善し悪しはともかく、一ジャズファンとして、これだけで手に入れたくなるという感覚を大切にしたいと思うのである。

GEORGES PACZYNSKI TRIO 「GENERATIONS」

2009年04月04日 | Drums/Percussion

音が良すぎるというのも考え物だ。
これはかなり贅沢すぎる話だが本当だ。
このジョルジュ・パッツィンスキーのアルバムはその最たるものだと思う。
とにかく最初から最後まで文句のつけようがない録音だ。
ジャズ批評の2007年オーディオディスク大賞も獲得しているから、どうやらみんなもそう感じているらしい。
重心の低いベースは、スピーカーを破って飛び出してきそうだし、パッツィンスキーの叩き出すシンバルは脳天にカキーンと響き渡る。とにかくクリアなサウンドで、全体にスカッとした印象がある。
しかしこれくらい音がいいアルバムだと、肝心の演奏の善し悪しを忘れて、ついつい一つ一つの音を追うことに専念してしまう。
だから聴き終えた後の印象はというと「音がいい」ことしか残らないのである。
決して内容が悪いというようなことはないのに、これは実にもったいない話だ。

私は決してオーディオ人間ではない。
もちろんジャズをいい音で聴きたいという願望は常に持っている。
でも高価な装置を買う余裕などない。だからせいぜいケーブルを替えてみたり、針を替えてみたりする程度のことしかできないという寂しい人間だ。
しかし音にばかり神経を使うのもどうかと思うのだ。まぁ、多少のひがみ根性もあっての話だが、音の善し悪しばかりにとらわれず、もっと演奏そのものを楽しみたいという気持ちが湧いてくるのも事実なのだ。

そう考えてこのアルバムを聴き直してみた。
ドラマーのリーダーアルバムだけに、全編に渡ってドラムが大活躍しているトラックが多いのだが、そういったナンバー、私的にはちょっとうるさい。
それよりも7曲目の「Patchwork」のウォーキングベースである。まるで「Forty-Seventy Blues」におけるニールス・ペデルセンのようだ。
また8曲目の「L'etang Des Perches」や、ラストの「Part Three For Isa」におけるピアノソロもたいへん美しい。
このアルバムはこういう演奏をもっと評価しよう。
でないと、このアルバム、ただのオーディオチェック用になってしまいそうだ。


ILLINOIS JACQUET 「BOSSES OF THE BALLAD」

2009年04月01日 | Tenor Saxophone

以前はストリングスものが嫌いだった。
何かオブラートにでも包まれた感じのムード音楽になってしまうのが嫌だったのだ。
私にとってジャズは、もっとひりひりしたものでなくてはいけなかった。
男らしくて、汗臭くて、どこかに緊張感がなければ聴く気がしなかった。
しかし今は違う。ストリングスものを好んで聴くようになった。
ストリングスものでパッと思いつくのが、まずチャーリー・パーカーやクリフォード・ブラウンのウィズ・ストリングス。
最近ならスコット・ハミルトンのウィズ・ストリングスなんかが大のお気に入りだ。
そしてこのアルバム、テキサステナーで有名なイリノイ・ジャケーの「ボス・オブ・ザ・バラード」も忘れられない。

イリノイ・ジャケーは1922年生まれだから、このアルバムが吹き込まれた64年は既に42歳だったということになる。
円熟味を増した男の、何ともいえない優しさがたっぷり味わえる名作である。
取り上げている曲は全てコール・ポーターの曲だ。
しかもアレンジはベニー・ゴルソンとトム・マッキントッシュが行っていて、それだけでも充分興味をそそる。
この二人のアレンジは微妙に曲の雰囲気を変えているのがわかる。
トム・マッキントッシュのアレンジにはそつがないのだが、私はやっぱりベニー・ゴルソンの方に変則的な新鮮さを感じる。
出だしの曲はそのベニー・ゴルソンのアレンジによる「 I Love You」。ストリングスによるいきなりの甘さで戸惑う人も多いかもしれないが、聴けば聴くほどやみつきになっていくから、この甘さはますます怪しい果実のようだ。

10曲目に「It's All Right With Me」が入っている。
これもベニー・ゴルソンの編曲だ。
曲名だけを聞いて、すぐ「あ~、あの曲ね」といえる人は通だが、一度聴けば、ジャズをかじった人なら何度も聴いたメロディだということがすぐにわかるほどの名曲だ。
でもこの曲がこんなロマンティックな曲だったかと疑いたくなるくらい違う曲に聞こえる。
それが「 I Concentrate On You」なら話はわかる。もともとのメロディが甘いからだ。
ストリングスはこれだから怖い。ただこれだから素敵なのだ。