SENTIMENTAL JAZZ DIARY

感傷的ジャズ日記 ~私のアルバムコレクションから~

DIZZY GILLESPIE 「SONNY SIDE UP」

2008年03月29日 | Trumpet/Cornett

ジャズの楽しさを存分に味わえる作品だ。
リラックスした「On The Sunny Side Of The Street」で始まるこのアルバムは、大御所ディジー・ガレスピーが二人のテナーマンを競い合わせ楽しんでいるという感じの仕上がりになっている。これはプロデューサーであるノーマン・グランツの仕掛けによる企画モノだが、ディジー・ガレスピーという圧倒的な存在を中心に据えることで成功した類い希な作品だといえる。

この作品の目玉は、何といっても2曲目の「The Eternal Triangle」である。
延々と続くソニー・ロリンズとソニー・スティットのテナーバトルは、ジャズ史に残る名演奏である。
とにかくアドリヴの凄さにおいては他に類がない。
どうしてそんな流れるようなフレーズが瞬時にして次から次へと思い浮かぶのか、シロウトの私にはとても理解できない。正直言ってこれは神業だ。
ロリンズは言うに及ばずという感じだが、驚くのはスティットの存在である。
ロリンズ全盛期のこの当時も、スティットはロリンズと対等に(或いはそれ以上に)競い合える腕の持ち主であったことを証明している。
ロリンズが絡んだテナーバトルでいえば、まず真っ先にアルバム「Tenor Madness」が思い浮かぶ。
ここではジョン・コルトレーンと一戦を交えるわけだが、この時は結果的に横綱と平幕力士くらいの差があって、コルトレーンはあえなく土俵の外に押し出されてしまった。しかしここでのロリンズとスティットは正に横綱同士の相星決戦だ。互いに土俵際まで追い込むも結局最後まで勝敗がつかない。そんな手に汗握る演奏なのだ。
因みにウェットで包み込むような音色を発しているのがロリンズ、ややささくれ立って渇いた音色を響かせているのがスティットだ。この微妙な違いを聴き取るのも楽しい。

続く「After Hours」ではレイ・ブライアントのブルージーなピアノを楽しめるし、ラストの「 I Know That You Know」においても3人の見事なアドリヴを聴くことができる。ガレスピーお得意のすさまじいハイトーンも聴き応え充分だ。
とにかくスカッ!としたい時にぴったりのアルバムである。ぜひ大音量で聴いてほしい。


ELLYN RUCKER 「ELLYN」

2008年03月26日 | Piano/keyboard

エリン・ラッカーはジャケットを見てもおわかりのようにカーリーヘアがよく似合う素敵な女性だ。
彼女はピアニスト兼シンガーである。
言うなればダイアナ・クラールなんかの先輩に位置づけてもいい人だ。
なぜそう感じるかというと、ダイアナ・クラール同様にピアノが上手いからだ。
但しダイアナ・クラールは歌が70%、ピアノが30%という感じだが、エリンの場合はその逆だ。まぁ弾き語りもするピアニストなのである。

彼女のピアノは歯切れがいい。
録音がどちらかというとソリッドだからそう感じるのかもしれないが、少なくともねっとりするような弾き方はしていない。一音一音の鍵盤をしっかり打ち下ろしている。
そんな彼女の魅力を知るにはラストのソロ・メドレーを聴くといい。
このメドレーは「Prisoner of Love~Body & Soul~Wonder Why」と続く。
最初のPrisoner of Love~Body & Soulでは優しくしみじみとメロディを弾き、Wonder Whyに入るとテンポが変わってリズミカルになり、メロディラインに合わせた魅力的なスキャットを弾き語る。
彼女の声はどちらかというと曇っている。だから純粋に詞を歌い込む歌よりこうしたスキャットに魅力を感じてしまうのだ。

このアルバムにはエリン・ラッカー(p,vo)の他、ジョン・クレイトン(b)、ジェフ・ハミルトン(ds)、そしてピート・クリストリーヴがテナーサックスで参加している。
ピアノトリオあり、ワンホーンあり、ヴォーカルあり、ピアノソロありと実にバラエティに富んでいて私たちを飽きさせない。
もっともっと知名度が上がってもいいはずの人である。寡作なのが原因かもしれない。

GIL MELLE 「Patterns in jazz」

2008年03月25日 | Baritone & Soprano Saxophone

このジャケットデザインは見事だ。数あるジャズアルバムの中でもトップクラスの出来だと思っている。
これはアルバムタイトルの「Patterns in jazz」を視覚的に表現したものだろう。筆で大きな点を整然と書き記している印象的な抽象画だといえる。どちらかというとワンパターンなジャケットデザインが並ぶブルーノート1500番台にあって、ひときわ異彩を放つ知的なアルバムだ。
ジャケットデザインはもちろんリード・マイルスだが、このグレーのパターンを描いたのがギル・メレ本人だ。
彼は作曲家でありバリトンサックス奏者であるが、それ以上にアーチストとして活躍した人だった。
ジャケットデザインもいくつか手がけている。
例えば「小川のマイルス」で有名なマイルス・デイビス・クインテットや、タッド・ダメロンのフォンテーヌブロー、ウッディ・ショウのベムシャ・スウィングなどがそうだ。
個人的にはどれもあまり好きなジャケットではないが、この「Patterns in jazz」だけは飛び抜けていい。これはリード・マイルスのデザイン力によるものだろうが、ギル・メレの描いた点の集合体もこの時代にしては実に大胆な表現だ。おそらくこのジャケットに影響されたデザイナーも多いのではないだろうか。

ジャズのジャケットデザインにもいくつかのパターンがある。
典型的なのはジャズメンのスナップ写真をダブルトーンで表現したものや、タイポグラフィを大胆に処理したもの、アルバムのイメージをイラストで表現したものなどがある。どのタイプにも傑作があるが、この「Patterns in jazz」のように純粋なアートを感じる作品は少ない。このアルバムが知的な作品に感じられるのはそんなところから来ているのだと思う。

肝心の演奏はどうかというと、タイトルほどに特別難しく考えることはない。終始軽快なサウンドが全編を包んでいる。
バリトンサックスだからといって決して重くない。
バリトンとトロンボーン、そしてギターの組み合わせが意外と新鮮だ。
一言でいえばこざっぱりした作品だという印象がある。これもジャズのパターンなのだろうか。



JEAN-MICHEL PILC 「CARDINAL POINTS」

2008年03月22日 | Piano/keyboard

年度末ということもあって、もうメチャクチャな忙しさだ。
残念ながらゆっくりジャズを聴きながらこのブログを書いている暇がない。それはそれでストレスになるから厄介だ。ここは「エイヤッ!」とばかり仕事の手を止めて、今夜はじっくり良質なジャズを聴いてリラックスすることにした。
そこでCD棚から取り出したのがジャン・ミシェル・ピルクの「CARDINAL POINTS」だ。

私は最近このジャン・ミシェル・ピルクというフランス人にぞっこんなのだ。
軟弱なピアノトリオばかり聴いていると、こういうガツン!とくる作品がやたらと新鮮に思えてくる。
タイプはちょっと違うがエスビョルン・スヴェンソンやブラッド・メルドー、ヘルゲ・リエンなどを初めて聴いたときも同じような印象だった。
要するに「新しい」感覚なのだ。
では何が新しいのだろうか。
彼ら全員にいえることは、アグレッシヴな部分とリリカルな部分が絶妙な形で同居していることにある。その微妙なずれとギャップが心地いいのである。それに加えて彼らは独特のリズム感覚を持ち合わせている。緩急のつけ方も上手い。それと何より独創性のある曲の展開方法が斬新なのだ。
但しどなたにも薦められる作品かといえば、それはNOである。
プログレッシヴなフィーリングを素直に受け入れられる人にだけお勧めしたい。

ジャン・ミシェル・ピルクの演奏の特徴は、最初静かにメロディアスに入っていって徐々にハイテンションになっていく展開が多いように思う。ライヴではそれが顕著に出ているようだ。そこが彼の持ち味であり、観客をエキサイティングに盛り上げる最大の要因なのだ。
まだ聴いたことのない人は一度お試しあれ。私のようにやみつきになるかもしれない。




DOROTHY ASHBY & FRANK WESS 「IN A MINOR GROOVE」

2008年03月09日 | Violin/Vibes/Harp

今日は朝から気持ちよく晴れ上がって実に暖かい一日だった。
そんな陽気に誘われて、雪を被って真っ白に輝く遠くの山並みを見ながら土手沿いを散歩した。
私はiPodに入っていたドロシー・アシュビーとフランク・ウエスの「イン・ア・マイナー・グルーヴ」を選択した。何となく春らしいジャズを聴きたかったからだ。
このアルバムの中では5曲目の「Bohemia After Dark」と続く6曲目の「Taboo」が特にお気に入りだ。
「Bohemia After Dark」はご存じオスカー・ペティフォードの大傑作。アップテンポのこの曲はハーマン・ライトの安定感あるベースに支えられて、魅惑的なメロディを二人がそれぞれの解釈で演奏しているのが楽しいし、ルンバをベースとした「Taboo」では、ロイ・ヘインズの颯爽たるブラシさばきとフランク・ウエスの見事なソロが一番の聞き物だ。
歩いていても思わずリズムに合わせて身体が動く。これこそクール・ストラッティンの気分だ。

1曲目から数曲聴いてみて「そういえばハープの音色は日本の琴によく似ているな」と思いついた。
おそらく琴でジャズを演奏するとこんな感じになるのではないだろうか。
一度そんな風に感じ出したら、フルートの音色も何だか日本の竹笛のような気がしてくるから不思議なものだ。
となると本来はこうやって歩きながら聴くよりも、畳の部屋に正座して抹茶を飲みながら聴くのが似合っているのかもしれないなどと考えてしまう。
要するにこれは優雅なジャズだということだ。
「IN A MINOR GROOVE」は、この優雅さをじっくり楽しむ作品なのである。

そんなことを妙に納得しながらその後1時間近くも歩いた。
そろそろ雪割草を探しに春山に出かけてもいい頃かもしれない。嬉しい季節がやってきた。






RALPH SHARON 「The Ralph Sharon Trio」

2008年03月07日 | Piano/keyboard

とっておきのピアノトリオだといいたい。
最近のピアノトリオブームに乗って続々と出てくる新譜もいいが、このラルフ・シャロンのベツレヘム盤は地味ながら名作中の名作だと思う。
何がいいかってまずこのリラックスした大人のムードである。
何の気負いもなく淡々と、しかもスインギーにピアノを弾いていく。正に職人芸という言葉が一番ぴったりする人だ。これはブロック・コードと転がるシングルトーンのバランスがやたらといいからではないかと思う。こう弾いてほしいと思った時に、ちゃんとその通りに弾いてくれる。リスナーにとってこれはまったく嬉しいことなのだ。
彼はトニー・ベネットやクリス・コナーといったジャズ・ヴォーカリストの伴奏者として活躍した人だ。
おそらく相手が望むことを察知する能力が自然に備わっているのではないだろうか。
要するに絶妙のタイム感覚の持ち主なのだ。だから伴奏者として重宝がられた人なのだと思う。
但し全く派手さのない人だ。
自分が主役になることを必ずしも「よし」としなかったのではないかと勘ぐりたくなるくらいの人である。もしそうだとしたら彼は私が思っているとおりの人に違いない。

ジャケットはベツレヘムのお抱えカメラマン兼デザイナー、バート・ゴールドブラッドの作品である。
こちらも泣けてくるほどの出来映えだ。
ジャケットの左下に特大の虫眼鏡で見ないと見えないくらいの大きさで、彼(バート・ゴールドブラッド)の名前が刻まれている。こちらも職人芸だ。
ラルフ・シャロンはまるで学校の先生のような眼鏡をかけて、煙草を薄く銜えている。その口元を見つめていると彼の弾く旋律が聞こえてくるようだ。弾いているのはマット・デニスの名作「ANGEL EYES」のような気がしてならない。




KAI WINDING 「THE INCREDIBLE KAI WINDING TROMBONES」

2008年03月05日 | Trombone

ターンテーブルに乗せる回数の多いアルバムだ。
その要因はいくつかあるが、その一つは1曲目「SPEAK LOW」のボブ・クランショーによるランニングベースである。これがまた快感この上なしなのだ。これがジャズの醍醐味である。このベースとオラトゥンジによる魅惑的なコンガのお陰で、カイ・ウィンディングのトロンボーンも快調に突っ走る。いやいや、なかなかの出来である。
ついでに他の曲も全部ご紹介しよう。
2曲目は打って変わってスローなナンバーになり、全体をアンニュイな雰囲気が包み込む。このギャップがウィンディングらしい。曲は「Lil' Darlin'」。カウント・ベイシーお得意の曲だ。
3曲目では彼のたくましい吹奏が存分に聴ける。曲はブルースフィーリング溢れる「Doodlin'」である。続く4曲目の「Love Walked In」共々、ピアノを弾くロス・トンプキンスの出来がすこぶるいい、これには脱帽だ。
5曲目「Mangos」はマンボのリズムに乗ってダンサブルな演奏が続く。好き嫌いはともかく、ある意味この曲がハイライトかもしれない。
6曲目はハイスピード演奏の「Impulse」。ここでの吹奏はJ.J・ジョンソンを彷彿とさせるが、ウィンディングのそれはどこか人間的だ。ロス・トンプキンスも相変わらず見事なソロをとっている。
7曲目は何と「Black Coffee」。そう、あのペギー・リーで有名になった曲である。ピアノはここからロス・トンプキンスに替わってビル・エヴァンスが登場してくる。エヴァンスはあまり目立たないが一音一音に品格を感じる。ここから先はエヴァンスが参加しているということで話題性も高くなっているようだ。
8曲目はお馴染み「Bye Bye Blackbird」。聞き慣れたメロディにも関わらず味わい深く入り込んでくる。エヴァンスの後でソロをとるのはジミー・ネッパーのようだが、明らかにウィンディングとは音色が違う。トロンボーンという楽器の奥ゆかしさも同時に味わえるのが嬉しい。
ラストはウィンディングが娘のために書いたという「Michie」のスローバーションとファースト・ヴァージョンが続けて吹き込まれている。どちらも甲乙つけがたいナイスな演奏だ。エヴァンスのソロもすばらしい。

全曲聴き終えても尚、最初から聴き直したい欲求に駆られることしばしばだ。
カイ・ウィンディング、彼は白人最高のトロンボーン奏者だ。

THE THREE 「JOE SAMPLE,RAY BROWN,SHELLY MANNE」

2008年03月04日 | Piano/keyboard

ジョー・サンプルと聞いて違和感を覚えてはいけない。
確かに彼はフュージョン界の大物スターであり、泣く子も黙るクルセイダースのリーダーだ。
ストレート・アヘッドなジャズピアノを弾いている姿はあまり見たことがないかもしれない。
しかしボブ・ジェームス同様、一度弾かせたらこれがなかなかのものなのだ。

ジョー・サンプルは数年前に東京ブルーノートで生のステージを観た。
その時はエレキピアノだったので少々がっかりしたが、彼が放つ雰囲気(オーラ?)はこちらにも充分伝わってきた。
ステージ上のパフォーマンスも一流で、客を喜ばせるツボを知っている人だと感じた。
今度はぜひこうしたストレート・アヘッドなピアノトリオを生で聴きたいと思っている。

彼の弾くピアノには独特のフレーズがある。
私はマイケル・フランクスのヒット曲である「アントニオの歌」での間奏が一番彼らしいフレーズだと思っている。私は未だにあのフレーズが頭から離れない。知らない人がいたらぜひ一度聴いてみてほしい。
この時のフレーズがこのアルバムの中にも時々飛び出してきて私を嬉しくさせる。
ジョー・サンプルはもともと高域の音を巧みに転がす人だが、こういったフレーズによってより親近感を覚える人なのだ。

リズム・セクションの二人がこれまたいい。
レイ・ブラウンとシェリー・マンという超大物だ。この二人に囲まれて幸せこの上なしといったサンプルの演奏が続く。
ダイレクト・カッティング録音というのも発売当時はずいぶん話題になったものだ。
味わい深い一作である。

GIANNI CAZZOLA TRIO 「ABSTRACTION」

2008年03月02日 | Drums/Percussion

かなりなレア盤である。
とにかくジャケットがひどい。写真はまるで新聞に載った小さな写真を強引に引き伸ばしただけという感じだし、タイポグラフィもただタイトルを記述しているだけというつまらないもの。正にドがつくシロウトの仕事ぶりである。
これだけ見た目の悪いアルバムも滅多にない。
ジャケットにこだわる自分としてはもう許せないくらいの仕上がりだ。
これは新宿のディスク・ユニオンで見つけて買った。
というのも実はこのCD、プラケースの上にさらに紙ケースがついており、中のジャケットが見えなかったのだ。
家に帰ってきて紙ケースを取った時点で腹が立った。半分詐欺にあったような気分である。
半ばがっかりしてこのCDをかけてみた。
「あれ?中身は結構いけるなぁ」というのが正直な感想。
小気味いいスイング感が全編に渡って展開されていた。

これはジャンニ・カッツォーラというイタリアのドラマーがリーダーのピアノトリオである。録音は1969年。どうやら彼のデビューアルバムのようだ。録音から既に40年近く経っているのに、まるで新譜のように新鮮だ。
それぞれの楽器の音はややこもり気味ではあるもののしっかり存在感が出ているし迫力もある。
演奏タイプとしてはビル・エヴァンス・トリオの系列で、3人のインタープレイが充分に楽しめる。
個人的にはスローな曲よりもアップテンポの曲に魅力を感じる。特にラストの「SPEAK LOW」が一番のお気に入り。

中身を隠す?紙ケースがなければ絶対に買わなかったアルバムであることは確かだが、今となってはこの紙ケースがあったお陰で楽しめている。危うくこんなにいいピアノトリオを聴きそびれるところだった。
でもやっぱりジャケットがいいに越したことはない。このアルバムがもし素敵なジャケットだったらもっともっと売れただろうにと余計なことを考えてしまう。損をしている作品の代表格だ。


JACKIE & ROY 「TIME & LOVE」

2008年03月01日 | Vocal

このアルバムの関係者を見ていこう。
制作はクリード・テイラー(CTIレーベル)。
編曲・指揮がドン・セベスキー。
エンジニアはルディ・ヴァン・ゲルダー。
主役はジャッキー&ロイ(ジャッキー・ケインとロイ・クラールの夫婦)。
バックには、アルト・サックスにポール・デスモンド、ベースにロン・カーター、ドラムスがビリー・コブハム、フルートにヒューバート・ローズ、ピアノはボブ・ジェームス、ギターにジェイ・バーリナー、パーカッションはアイアート・モレイラとフィル・クラウス。
いい意味で、聴く前から中の音がイメージできる。
中でも3曲目の「Summer Song/ Summertime」や4曲目の「Bachianas Brasileiras #5」は、いかにもドン・セベスキーといった味付けがなされている。
彼の手腕が光ったジム・ホールの名作「アランフェス協奏曲」を彷彿とさせるが、そういえばこの「アランフェス協奏曲」にもポール・デスモンドが参加していた。このポール・デスモンドの魅力を最大限に引き上げたのがクリード・テイラーであり、ドン・セベスキーだったのではないだろうか。
私がポール・デスモンドの大ファンになったのもきっと彼らのお陰なのである。
それにしてもデスモンドの吹く爽やかなアルト・サックスと、ジャッキー&ロイの澄んだ歌声が実によく似合っている。3曲目だけの登場がもったいないくらいだ。なぜ全曲にデスモンドを参加させなかったのか、それだけが残念だ。

録音は1972年6月になっており、当時の匂いがプンプンしてくるアルバムだ。これを古くさいと感じる人もいるだろうが、ジャッキー・ケインのスキャットを聴いていると、第1期リターン・トゥ・フォーエバーのフローラ・プリムにも似て心が浄化されていくような気分を味わえる。私なんかはむしろこの時代の音を新鮮な気持ちで楽しめる。
何ともいえない愛しさが感じられるアルバムだと思う。