SENTIMENTAL JAZZ DIARY

感傷的ジャズ日記 ~私のアルバムコレクションから~

TINGVALL TRIO 「VATTENSAGA」

2009年12月29日 | Piano/keyboard

まるで水がしたたり落ちるような調べで始まる。
透明感溢れるティングヴァル・トリオ、待望の第3弾である。
私は大体にしてジャケットから影響を受ける単純な人間で、こんな写真を眺めながら聴いていると、本当に水の中に吸い寄せられるような感覚に陥ってしまう。
だからというわけでもないが、ピアノの響き方は全体的にピリッと硬質だ。
そのひんやりした感覚が、前作以上に際立っている。

全体の流れとしては、一曲一曲の演奏時間が短いせいもあるかとは思うが、かなりドラマチックな印象だ。
それぞれの曲の完成度は高いが、通して聴いてみると各曲は大きなストーリーのパーツのように感じてしまう。
正直言って、ここが好みの分かれるところだ。
コテコテなジャズファンなら、もっとトーンの違いや粘っこさを求めるだろう。
しかし、この作品はクラシックのように折り目正しい。
最初から終わりまで計算し尽くしているような生真面目さを覚えるのである。
まぁ、それが北欧ジャズなんだよといわれてしまえば返す言葉もないが、ジャズ特有のグルーヴ感がもう少し欲しいといったら贅沢だろうか。

そんな中で、私は僅か3分にも満たない「Tveklost」や「Makuschla」といった静謐な曲にやすらぎを感じている。
まるで風に揺れる小さな花を見ているような気持ちになるのだ。
もちろんこういった曲はアルバムの主題ではない。
しかしこういった曲が、ほどよい間隔で挿入されているために、全体のバランスが整って聞こえるのである。

先日知り合いの家に行き、ジャズを聴きながらみんなで酒を交わした。
私は数枚のCDを持参したのだが、その中にこのティングヴァル・トリオの「VATTENSAGA」もあった。
このCDがかかる前までは、バルネ・ウィラン、ケニー・バロン、スコット・ハミルトンなどがかかっていたが、このティングヴァル・トリオがかかったとたん、友人の一人がポツリと「このCD、いいね」と呟いた。
そんな風に一瞬にして心を捉えるなんて、なかなかありそうでないことだ。
良質なピアノトリオの底力である。



ELVIN JONES & RICHARD DAVIS 「HEAVY SOUNDS」

2009年12月24日 | Drums/Percussion

これぞ重量級ジャズといえる迫力満点の作品だ。
だからクリスマスだね~なんて、ほんわか気分で聴いてはいけない。
ぼんやりしていると、いきなりボディと顔面にカウンターパンチを食らってしまう。
特にB面(4曲目)には気をつけてもらいたい。
いきなり出てくる「Summertime」は世界最強のハードパンチャーだ。
エルビン・ジョーンズが叩き出す太鼓の音と、リチャード・デイヴィスのアルコ(弓)によるベースは、まるで島の奥からキングコングを呼び出すための儀式のようにも聞こえる。
好むと好まざるに関わらず、これも60年代後半を象徴する音なのだ。
それはプログレッシヴロックやハードロックなどが台頭する前夜の出来事だ。
私はこのアルバムが、そんなサイケデリック・ムーヴメントの火付け役の一枚だったと信じて疑わないのである。

考えてみれば、ジャズはいつの時代も最先端を走っていた。
ロジックも、テクニックも、パッションもである。
その典型がマイルスと、彼が率いるメンバーたちだった。ロック界は常に彼らの後追いだったのだ。
もちろんロックがジャズより劣っているなどといっているわけではない。
常に時代を切り開いてきたのはジャズであったし、ジャズはそういう運命を抱えた音楽だということなのだ。
事実、この「Summertime」のようなベースとドラムスのデュオなんて、当時のロック界ではあり得ないスタイルだったと思う。
何とかして新しい時代を作りたいと思っていたロック少年も、みんなこの自由さ、奇抜さに憧れたのである。

でもこんな風に書くと、初めての人はこの作品を前衛的だと勘違いして敬遠してしまいそうだが、これはマイルスの「ビッチェズ・ブリュー」などと違って決して聴きにくい?盤ではない。
フランク・フォスターも朗々と男らしいテナーを歌い上げているし、エルビンがつま弾くブルージーなギターも、なかなか味があって悪くない。録音も抜群に優秀だ。
ただ一番の魅力は何かと聞かれれば、黒人のかっこよさがフルに発揮された一枚だと答える。
とにかく全編通して真っ黒。何といってもこれがいい。
しかも私はその中に差し込む一筋の光を感じるのである。
その光こそ、全く新しい時代の息吹なのではないかと思っている。

BEVERLY KENNY 「Snuggled On Your Shoulder」

2009年12月19日 | Vocal

可愛らしさの代名詞みたいな人だ。
おそらく多くのジャズファンがそう思っているに違いない。
6枚の作品を残して1960年に自殺したビヴァリー・ケニー。
このアルバムは、そんな彼女がデビューする前に録られたデモ録音(1954年頃)を音源としている。
トニー・タンブレロのピアノをバックに、淡々と話しかけてくるように歌っているのが印象的だ。
これを聴いていてつくづく思うのだが、彼女の魅力は、何だかとても身近な人に感じられるところだと思う。
この感覚をどう表現していいか悩むのだが、多くのジャズヴォーカリストは、一般人の生活とはかけ離れた世界にいるのに比べて、彼女は極々近い友人や恋人のような存在に思えてくるのである。
特に5曲目の「Can't Get Out Of This Mood」の歌い出しでミスをし、ハハッと笑って歌い直すシーンは何度聴いても愛らしく、まるでその瞬間、彼女と見つめ合えたような気にさせられるからたまらない。
ファンならずとも男なら誰でもノックアウトされること間違いなしだ。

この作品はご覧の通り、ジャケットもなかなかおしゃれである。
ビヴァリーらしさが上手く出ており、これだけでも欲しくなるアルバムだ。
すでに発売されている6枚の作品のジャケットはというと、どれもこれもいただけないものが多い。
一番出来のいい「Born To Be Blue」にしても、ソファーにもたれかかった姿はゴージャズ過ぎてどうも彼女らしくない。
彼女はこのアルバムのように普段着姿がいいのだ。
要するに飾らない、構えない姿が、彼女の魅力だということなのである。
翌年に発売されたもう一つの未発表音源盤「Lonely And Bule」のジャケットもなかなかよかったが、私はこちらの「Snuggled On Your Shoulder」が気に入っている。
この写真一枚で、彼女の全てがわかるといってもいいような気がしているのだ。

そんな風に見ていると、女性に限らず、私たちは大切な人の仕草やポーズをしっかり一枚の写真に残しておくべきだと思う。
きれいかどうかなどということは関係ない。どれだけ自然な形でその人を表現できるかが重要なのだ。
ビヴァリー・ケニーの場合は、この一枚があって幸せだ。





AUSTIN PERALTA 「Maiden Voyage」

2009年12月15日 | Piano/keyboard

このアルバムは手に入れて3年くらい経つ。
おそらくリリースされてまもなくだったと思う。
なぜ買う気になったかというと、このオースティン・ペラルタが14歳という驚異的な天才少年ピアニストだったからではない。
もちろん50歳以上離れたベースの大御所、ロン・カーターが脇を固めていたからでもない。
とにかくビリー・キルソンというドラマーがスゴイ!と絶賛されていたからなのである。
私はドラムを聴きたいがためにピアノトリオアルバムを買うなんてことは滅多にないので、聴く前からちょっと興奮気味だった。
「よし、帰ったら大音量で聴いてやろう」と思って店を出た。

確かにビリー・キルソンのドラムはすごかった。
この作品は、そんなドラムに焦点を当てたかような録音になっているのでなおさらだ。
まるでそこで叩いているかのような臨場感が味わえる。
鋭いシンバルワークとスネアやタムの連打は、ドラマーならずとも必聴だ。
彼のドラミングはレニー・ホワイトかトニー・ウィリアムスを彷彿とさせるといえば、ある程度イメージを掴んでいただけるかもしれない。
特にオースティン・ペラルタとのハイスピードな掛け合いは、ジャズの醍醐味を十分味わわせてくれる。
ロン・カーターもその二人に煽られたか、いつも以上の存在感を示している。

それと選曲にも購買意欲をそそられた。
1曲目の「パッション・ダンス」に始まって、「いそしぎ」「処女航海」「グリーン・ドルフィン・ストリート」ときて、あのチック・コリアの名作「スペイン」がくる。さらに2曲のオリジナルの間に「いつか王子様が」とコルトレーンの「ナイーマ」を持ってくるという内容だ。
まぁ何とも贅沢な選曲ではあるが、このへんにもただ者ではない14歳の怖いもの知らずなセンスを感じる。
アルバムタイトルにハンコックの「処女航海」を持ってくるあたりも心憎い。
これからどんな風に成長していくのか、おじさんとしては興味津々なのである。

ERNST GLERUM 「57 VARIATIONS」

2009年12月11日 | Bass

やっぱり買ってしまった。
エルンスト・グレルムのレトロバスシリーズ第3弾である。
ディスクユニオンの店頭で見つけて思わず手に取った。
ただこのジャケットの仕様は最悪。
ライナーノーツもなければ、CDを入れる内袋もついていない。ただCDがストンとジャケットカバーに裸のまま入れられているという、何ともお粗末な体裁。
それでもやっぱり買ってしまう。
レトロバスの魅力とグレルムの新しい音を聴きたいという誘惑に負けたのだ。

今回のレトロバスジャケットは、子供たちによるバス旅行のスナップ写真だ。
ひょっとするとこの中の一人がグレルム本人なのかもしれない。
以前2作目が出たときに、私は次回作には1作目のCDに印刷されていたボンネットバスの写真が使われるのではないかと予想したが、これは見事に外れた。
しかし今回はノスタルジックな雰囲気がますます増幅されていて、あのボンネットバスの写真よりいい。
このへんがグレルムのセンスの良さなのだと思う。

家に帰ってきて、早速CDをターンテーブルに乗せる。
前作はグレルム本人がピアノを弾いていたが、本作はオランダのリューベン・ハインという若手を全面的に起用しており、グレルムは本来のベースに専念するスタイルになっている。
これで音がどのように変化するだろうかという興味もあった。
しかし基本的には前作・前々作の音を踏襲しており、相変わらずのキレの良さを感じた。
グレルムが弾くベースの音もブンブン唸りを上げている。

それはそうと、このアルバムの中には「Omnibus Three」という曲が入っているにもかかわらず、なぜアルバムタイトルが「57 VARIATIONS」なのかがわからない。
何か訳があるのだろうが、解説もないからさっぱりだ。どなたか知っている方は教えて欲しい。
とにかく私はこのアルバムを買って満足している。
ただ中には「もうそろそろマンネリの域に入っている」と感じる人もいるかもしれない。
まぁ確かにそれはシリーズものの宿命ではあるのだが、毎回期待を裏切らない作品づくりには頭の下がる思いだ。
4作目が出ればまた買うだろう。たぶんだけどね。

JIMMY FORREST 「OUT OF THE FORREST」

2009年12月02日 | Tenor Saxophone

男気を感じるテナーだ。
このアルバムは、背中の辺りがぞくぞくしてくるブルージーなバラード「Bolo Blues」で始まる。
これはジミー・フォレスト、彼自身のオリジナル曲である。
彼のテナーは闇夜の中にくっきりと浮かぶ街灯のような存在だ。
孤独だが、どこか暖かい。安心感のある音だ。
所謂これがジャズの本道!といえるような図太さが、たまらない魅力を醸し出している。

2曲目「I Cried For You (Now It's Your Turn To Cry Over Me)」に入りアップテンポになるが、この曲はトミー・ポッター(b)とクラレンス・ジョンストン(ds)の繰り出すリズムに乗って、ジミー・フォレストも気持ちよくブロウしているのがわかる。
ジョー・ザビヌル(p)もなかなかの出来だ。

3曲目「I've Got A Right To Cry」でまたスローなバラードになる。
同じスローなバラードでも、6曲目(B面2曲目)に出てくる泣きの「Yesterdays」とはちょっと違う。
もっとドライな優しさが滲み出ている演奏だ。
私はこの3曲目の出だしの雰囲気が大好きで、ジャズが好きな友人が来るとよくかけていた。
大音量でこの曲さえかけていれば、私の部屋はいつでもジャズ喫茶に変身できた。

4曲目「This Can't Be Love」と5曲目(B面1曲目)「By The River Sainte Marie」は楽しい曲だ。
これぞエリントンにもベイシーにも愛された男の真骨頂である。
流れるようなテナーは、飛び跳ねるようなベースとドラムスの間を縫うように響き渡る。
7曲目(B面3曲目)「Crash Program」の疾走感もまた魅力だ。

そしてラストの「That's All」。何とも感動的なバラードだ。
すべてを終えた安らぎの時間が訪れる。
アルバムを通して聴いた満足感がじわっとこみ上げてくる。
これこそ男の優しさである。

数あるワンホーンの中から一枚を選べといわれれば、私はこの作品を差し出すかもしれない。
これは、そんな気にさせる愛すべきアルバムである。