SENTIMENTAL JAZZ DIARY

感傷的ジャズ日記 ~私のアルバムコレクションから~

THELONIOUS MONK 「MISTERIOSO」

2007年04月30日 | Piano/keyboard

謎以外の何を私は愛するだろう?
これはジョルジョ・デ・キリコが絵画の片隅に書いた有名な台詞だ。
キリコは1900年代初頭に活躍した形而上絵画の巨匠である。このアルバムのジャケットにある奇妙な絵を描いた人だ。
形而上絵画とは、人に不安や困惑、或いは郷愁や幻想を誘発させる絵画のことで、具体的には、異様に長く伸びた影や意図的に崩した遠近法、シンメトリーな構図、幾何学的な建物や静物などで構成されることが多い。
私の記憶が正しければ、このジャケットに使われた絵のタイトルは確か「先見者」だったと思う。
この絵を見ると、床板の遠近法が狂っている部分と、そこに長い影が伸びているのが印象的だ。ここで描かれている画家らしき人の遠近法を意識したドローイングがイーゼルの上に置かれている。この人はおそらくキリコ自身ではないかと思うが、結局は最初から最後まで???の連続である。
キリコが描いたこうした謎の世界は、後のシュールレアリズムに大きな影響をもたらした。これは理屈ではない。想像力を駆り立て感性を刺激する芸術なのだ。

このファイブ・スポットにおけるモンクの録音を聴いて、キリコの「先見者」をジャケットに選んだリバーサイド・レーベルに拍手を贈りたい。私がごちゃごちゃとアルバムの説明をするよりも、言いたいことが瞬時にして100%伝わってくるからだ。コミュニケーションはこんな風にスマートにとりたいものだ。

CHARLES MINGUS 「THE CLOWN」

2007年04月29日 | Bass

もう一枚ベースが主役の作品をご紹介する。
今度のは強烈だ。とてものほほんとして聴くわけにいかない。
ジャズには軽いジャズと重いジャズがあるとつい先日書いたが、各パートのソロといい重厚なブラスといい、これ以上重いアルバムはないかもしれない。
中でもミンガスのベースはすごい。部屋中に彼の弾くベースの音が充満してむせかえるようだ。
特に出だしと中間のベースソロは、ジャズ史上最高の出来映えだと豪語してしまいたい。個人的にはこの瞬間を味わうためだけにこのアルバムはあるような気がしている。それくらいこの「HAITIAN FIGHT SONG」は重要な曲だ。
この曲を聴くとこれ以後登場してくる様々なジャズマンの顔が浮かぶ。みんなミンガスの後を追って真似をするが、結局は挫折して軟弱な売れ筋ジャズマンへと変貌していった輩がどれだけ多くいたことか。そういう意味においては、ミンガスはモンクと並んで真のアーチストだったのだ。

このジャケットをじっとよく見てほしい。私たちは表面的な道化師の後ろに真実の顔が隠されていることを忘れてはいけない。
ジャズは人気のあるなしで評価してはいけない音楽なのだ。

PAUL CHAMBERS 「GO...」

2007年04月28日 | Bass

ポール・チェンバースは1969年1月、肺結核で亡くなっている。しかし死因は間違いなく「過労死」に違いない。
彼は50年代半ばからものすごい数のアルバムに参加している。他のベーシストはいったい何をしていたんだと思うくらいだが、それほど登場回数が多かったのは、彼の演奏技術もさることながら、性格的にも多くのジャズマンやプロデューサーから慕われていたからだろう。そういえば彼の身体は大きかったが顔は童顔で何となく愛嬌があった。

このアルバムは長年の愛聴盤である。
不思議と何度聴いても飽きがこない。メンバー全員が伸び伸びプレイしており、ジャズの楽しさがフルに味わえる。
しかもそれぞれの音がずいぶん響いて聞こえる。これは必ずしもいい録音といえるのかどうかはわからないが、少なくとも私はこのくらいのエコーがかかっている方が好きだ。音全体に奥行きがあってこれが臨場感と躍動感を生んでいる。
メンバーの中ではウィントン・ケリーが断然いい。
いつも以上にコロン・コロンと鍵盤の上で指が転がっている。こういう演奏を聴くと彼の存在感はますます大きくなる。楽しいジャズに欠かせない人だ。2曲目の「JUST FRIENDS」に至っては、これを聴いていたスタジオ内の女性がレコーディング中にもかかわらず、思わず「ケ~リ~~!」と叫んでいる。
いいぞ、いいぞ、こうこなくっちゃ。



BARNEY KESSEL「THE POLL WINNERS RIDE AGAIN!」

2007年04月27日 | Guiter

いい大人が3人揃ってメリーゴーラウンドに乗っている。
しかもスーツにネクタイ、ちょっとは考えろよといいたくなるが、ジャズファンならこのちぐはぐさに酔えなくてはダメだ。
なぜ3人がこうまではしゃぎ回れるか。それは前作の「ザ・ポール・ウィナーズ」が大ヒットしたために、この続編が作られたからだ。まぁ、笑いが止まらないといったところ。

このポール・ウィナーズという言葉はここから一般的になったようだが、正確には1957年度の[ダウンビート]、[メトロノーム]、[プレイボーイ]各誌における人気投票を総なめにした3人によるユニットを差している。だから前作もポール・ウィナーズの「ポール」と、3人が持つ「棒(ポール)」を引っかけたアルバムジャケットになっていたわけだが、今回もそのアイデアを踏襲して、「支柱(ポール)」のあるメリーゴーラウンドをアルバムの写真に選んだのだ。
因みにこの第2作目もヒットしたために3作目(Poll Winners Three!)も作られた。但しここでは「棒(ポール)」を持つというジャケットにはなっていない。単純に飽きたのか、もうこれで終わりということなのか、ちょっと残念ではあった。
しかしこんなに続編が作られたというケースは、ジャズ界に限らず音楽界を広く見渡してもあまり例のないことだと思う。それくらいこの3人によるユニットは魅力的だったのだ。

主役のバーニー・ケッセルのギターは軽快だ。この軽さが楽しさの源となっていて、ここにシェリー・マンとレイ・ブラウンの的確なサポートが絡み合う。聴いていると身体が自然と動き出すのを感じる。どの曲もいいが、個人的には6曲目の「When the Red, Red Robin Comes Bob, Bob, Bobbin' Along」や、7曲目の「Foreign Intrigue」なんかは大好きだ。
何だか気分がうきうきしてくるような楽しいジャズの典型的な作品である。

※訂正:このシリーズ、4作目もありました。買わなきゃ...。

CHARLIE PARKER 「THE SAVOY RECORDINGS」

2007年04月26日 | Alto Saxophone

聴かなくてもいいが、持っていなければいけないアルバムがある。それがこれだ。
一応、パーカーのことはちゃんとわかっているという顔をしていなければ、一般的に正しいジャズファンとはいえない。好き嫌いの問題ではないし、そんな理不尽なとかいわれても、それが現実なのだから致し方ない。
じつはこうしたことがジャズをオタクっぽくさせている最大の原因だ。
私自身、チャーリー・パーカーはこのアルバムを含め数点は持っているものの、ほとんどちゃんと聴いたことがない。ただ頭の中にパーカーがいかにすごい人なのかといった極々当たり前の知識があるだけだ。

で、久しぶりにこの立派な2枚組のケースを開けて聴いてみた。
音はやっぱり悪い。演奏の後ろでパチパチ・シャリシャリいっている。最初は1944年の録音ものだからそれも致し方ない。
4曲を聴いて次は45年の録音だ。メンバーも替わってマイルスやガレスピーらが登場してくる。曲によっては明らかにノイズが減っている。聴きやすくなった分だけパーカーのアドリブは快調に聞こえるし、アンサンブルもきれいに聞こえる。
6曲を聴いて次は47年の録音。ドナ・リーから始まる4曲ではバド・パウエルも参戦してくる。何だか全員、前に前にせり出してくる感じがする。ビ・バップは本当に熱い。全員が思う存分アドリブを楽しんでいる感じがして、古くなっていた頭の中は少しずつ新しいものに変化していくのがわかる。
2枚目に移って今度は47年プラス48年の録音になる。ここではデューク・ジョーダンやジョン・ルイスが登場し、ちょっと落ち着きを見せる。全体にゆったりした演奏に聞こえるのは、そうした脇役たちのせいかもしれない。

いやはやとにかく楽しませてもらった。初めて聴いたアルバムのような気さえする。
こういうブログを書いていなければ、この作品はいつまで経っても「ただ持っているだけ」のアルバムだったかもしれない。
今度はパーカーの演奏だけに集中して聴いてみよう。きっと何か新しい発見があるはずだ。



BARRY HARRIS 「in SPAIN」

2007年04月25日 | Piano/keyboard

これは評判通り、歴史的な名盤だ。
バリー・ハリスはバド・パウエルの影響を最も強く受けた一人で、ノリの良さが信条の典型的なバップ・ピアニストである。しかし派手さのないこんなピアニストが評判になるというのは余程のことだ。私もそれまではバリー・ハリスのリーダーアルバムといえば「アット・ザ・ジャズ・ワークショップ」と「マグニフィセント」しか持っていなかったので彼をもっと知るにはいい機会だろうと思っていた。とにかくこれが手に入ったときは嬉しかった。

封を開けてCDをセットし、音が鳴りはじめて数秒もしないうちに「こりゃあ、すごい!」と一人で興奮した。
彼の弾くピアノは、まるで石畳の上に落ちる夜の雨音のようだ。しかも彼の唸り声が静寂(しじま)に響き渡り、最高に心地いい。これほどピアニストの唸り声が心地いいと思ったことはない。これはもう唸り声でなくスキャットと呼んでしまおう。
曲は「Sweet Pea」。とてもいい曲だ。このいいメロディを彼は独特の節回しで黒く表現している。しかも続くアドリブが、さりげなくツボを押さえた感動的な歌い方になっており実に見事だ。
バックを務めるドラムのハイハットが全体の緊張感を際立たせ、頑丈なベースがしっかり寄り添ってくる。
続くどの曲も最初の「Sweet Pea」の雰囲気がそのまま持ち越されていく。つまり全体を通じて浮き沈みがない。これがこのアルバムの価値をさらに高めているのだと思う。
こんな演奏は滅多に聴けない。ジャズファンなら一度は聴いてほしいアルバムだ。

FABRIZIO BOSSO QUINTET 「ROME AFTER MIDNIGHT」

2007年04月24日 | Trumpet/Cornett

私にとっていいアルバムの条件は、〈演奏〉〈選曲〉〈録音〉〈メンバー〉〈ジャケット〉がいいことである。
これは最近手に入れたアルバムだが、全ての条件において高レベルな作品だと思う。
まずジャケットから行こう。ダブルトーンは珍しくないし、演奏風景だって特別大騒ぎするほどのものでもない。では何が気に入っているかということだが、それは写真の角度である。約30°くらい右に回転させた位置で水平にトリミングしてあるのだ。これがいい。たったこれだけの処理で躍動感が出ているし内容をうまく伝えている。これがプロの仕事なのだと思う。しかも体裁がブックレット入りのデジパックときた、これはますます嬉しい。
次に演奏である。
これが実にフレッシュなのだ。リー・モーガンを彷彿とさせるハイスピードな演奏も、クリフォード・ブラウンを連想させるメロディアスな演奏も完璧にこなしている。全体に生き生きとした躍動感でいっぱいの演奏なのである。
このところのイタリアジャズシーンには勢いがあるが、このファブリッツィオ・ボッソはその象徴のような存在である。
次に選曲はどうかということだが、これも悪くない。珍しく癖のあるウェス・モンゴメリーの「Road Song」を取り上げている辺り、或いはサキコロにおけるロリンズの名演と張り合うかのような「You Don't Know What Love Is」を配置するなど挑戦的な選曲が多く、これまた躍動感につながっているのである。
この他、録音も充分に満足できる水準だ。

ついでながら「ROME AFTER MIDNIGHT」というアルバムタイトルも気に入っている。
これのどこがどういう風にいいかって? う~ん、これは感覚の問題だ。

GREGG KALLOR「There's A Rhythm」

2007年04月23日 | Piano/keyboard

「Every Time We Say Goodbye」、ああ、なんて美しい曲なんだろう。
コール・ポーターの作曲だ。タイトルだけでもじーんとくる。ジャズにもっとも適した曲名の一つだと思う。
そういえばビル・エヴァンスの名演のひとつに「I Will Say Goodbye」という美しい曲があるが、Say Goodbyeときただけで何だか感無量になってしまう。これはあまりに単純すぎるかもしれないが、このタイトル名を聞いて何も感じない人は不幸な人だ。英語ができるとかできないとかの問題ではない。何となくでも雰囲気を感じ取れるかどうかの問題だ。これが感性である。
要するに全てはこの「感性」なのだと思う。
道ばたに咲く花を見て美しいと思う心、崩れかけた土壁を見て遠い過去に思いを馳せる心、夕暮れ時の空を見上げて遙かな未来を見つめる心、こうした私たちの思いは、全ての人における行動の原点である。これが少ない人は行動範囲が狭く、つまらない人生を送ることになる。逆に些細なことにも感動できる人はイノベーターの素質があると同時に、幸せな人生を送れる人だ。

グレッグ・カラーという青年がどれだけの人間か私は知らない。知らないが限りなくイノベーターの素質がある人だと思ってしまう。
思わせぶりな雰囲気のあるジャケット。顔を無理に出さないところがむしろ好印象だ。顔で売ろうとする一部のミュージシャンはどれもこれも底が浅い。
そして何より選曲である。「Every Time We Say Goodbye」の他にも「So In Love」、「You're My Everything」と趣味がいい。また自作曲も多く、「The Voice Of Reason」、「Lost」、「The Last Word」などからは彼のセンスの良さが伺える。
最初はそれほど印象には残らなくてもじっくり何度も聴いてほしい。ジワジワとその良さがにじみ出てくるアルバムだ。

GERRY MULLIGAN 「NIGHT LIGHTS」

2007年04月22日 | Baritone & Soprano Saxophone

おしゃれだといえば、忘れられないこんなアルバムもある。
ジェリー・マリガンの代表作「NIGHT LIGHTS」だ。

彼は何といってもルックスがいい。あんな顔に生まれたかった。精悍で爽やかな西海岸の若大将といった印象だ。
但し男前だっただけではない。優れたバリトンサックス奏者という以外にも、作曲家としてもアレンジャーとしてもすごい才能の持ち主だった。
マイルスの「Birth Of The Cool」ではギル・エヴァンスばかりクローズアップされることが多いが、このアルバムで最も評価すべきはジェリー・マリガンのアレンジである。彼がいたからマイルスを初め、多くのジャズメンが〈クール〉に決められたのだ。

さて「NIGHT LIGHTS」に話を戻そう。
このアルバムのどこがそんなにいいか。それは色んな要素が混じり合った作品なのに、何の違和感もなくロマンチックな都会の夜を見事に表現しているからである。
色んな要素とはクラシック(ショパンを題材にしたPrelude in E minor)、当時大ブームになったボサノヴァ(Morning of the Carnival )などで、こうした楽曲がウェストコーストのクールジャズとうまくマッチングされ、アメリカ社会における都市の様々な人間模様を描き出しているように感じられるのである。
こうしたことをさりげなく表現できる背景には、ジェリー・マリガンの作曲能力とアレンジ能力、バリトンサックスの他、クラリネットやピアノまでこなす演奏技術が人並み外れたものだったということだ。
う~む、やっぱりこんな人に生まれたかった。



MOSE ALLISON 「BACK COUNTRY SUITE」

2007年04月21日 | Vocal

モーズ・アリソンのファンになって、かれこれ25~30年にもなる。
その頃はジャズ一辺倒ではなくて、ロックやポピュラー、レゲエなどもよく聴いていた(今も時々は聴いているが...)。
70年代後半から80年代の初めにかけてはAORというおしゃれな感覚のロックミュージックが流行っていた。ボズ・スキャッグスやマイケル・フランクス、ボビー・コールドウェルといった人たちがその代表選手だ。
この人たちの多くはジャズから影響を受けていた。特にマイケル・フランクスはベン・シドランと並んでこのモーズ・アリソンから多くのエッセンスを吸収していた人だ。聞けば一目瞭然だが、あのヘタウマ的な棒読みソングはモーズ・アリソンの歌い方にそっくりだ。最初は単調に聞こえても何度か聞くにつれ、癒されていくような快感に変わってくる不思議な歌声だ。

半分どうでもいいことだが、このページでは彼(モーズ・アリソン)をピアノのカテゴリーに入れるかボーカルのカテゴリーに入れるか悩んだ末、やっぱりボーカルに入れることにした。つまり彼はボーカリストとして孤高の存在なのだ。ある意味、チェット・ベイカーのような人だといってもいい。但しこのアルバムでは僅か2曲しか歌っていないので、彼の歌声を存分に聴きたい方にはちょっと物足りないかもしれない。しかしアルバムの完成度から見てもジャズピアニストとして再認識するにしても、このアルバムはもってこいの作品なのだ。

彼の歌は基本的にブルースである。都会よりも田舎が似合う。
AORにはほど遠いが、これはこれで充分おしゃれなのだ。