今年の夏は長い。
梅雨明けがやたらと早かったので、いつもの年の倍くらいの長さに感じる。
もともと夏は大好きな季節なのだが、このくらい暑い毎日が続くとさすがに参ってしまう。
でも元来天の邪鬼な性格なので、エアコンも夜はつけずほとんど扇風機で凌いでいる。
飲んでいるのも熱いお茶だ。ずずずっと啜りながら「ほ~」というため息をつく。こういうひととき、決して悪くない。
ついでに暑苦しいジャズを聴いてやろうという気になって取り出したのが、ジェローム・リチャードソンのローミンだ。
バリトンサックスの音はいかにも暑苦しいし、ジャケットも熱帯夜を絵にしたような暖色のダブルトーンだ。
今夜はこれでいく。
まず最初に飛び出すのがベースだ。
私はこれくらい自己主張の激しいゴリゴリしたベースを弾く人が好きだ。その名はジョージ・タッカー。
ホレス・パーランとの共演で通を唸らせた名ベーシストである。
このタッカーのことをデリカシーが足りないなどと散々なことをいう人がいるらしいが、このベースの楽しさを知らなけりゃ、ジャズを半分も楽しめないのではないかと思う。
とにかくジャズはベースが命と覚えておこう。
フニャフニャしたベースの下では、どんな名演も二級品化すること間違いなしだ。
ジェローム・リチャードソンという人はテナーも吹けばフルートも上手く吹く。
その点、彼はサヒブ・シハブにも通じるところがあるマルチリード奏者であるが、やっぱり本命はバリトンだ。
常に濁音を発するこの楽器を操るのは本当に難しいことなのではないかと思う。
しかしアップテンポの「Up At Teddy'S Hill」から一転して、「Warm Valley」のバラッドプレイに移行するあたりの流れは絶妙だ。
バリトン・サックスはこういう風に吹くんだ、とばかり自信に溢れている。
リチャード・ワイアンズが弾くピアノも控え目ながらいい味を出していることにも注目したい。
ただこのアルバムの中で一番好きな曲はと聞かれれば、ラストの「Candied Sweets」だと答えるかもしれない。
この曲でジェローム・リチャードソンはテナーを吹いているが、彼よりも気になる存在がドラムのチャーリー・パーシップである。
彼がスネアをスコーン!と叩くリムショットが実に快感だ。
要するにこのアルバム、全員がそれぞれの持ち味を存分に出し切っている類い希な作品なのである。
さて、お茶がなくなった。
継ぎ足しにいくので今夜はこれでおしまい。