SENTIMENTAL JAZZ DIARY

感傷的ジャズ日記 ~私のアルバムコレクションから~

JESSE VAN RULLER 「Here And There」

2010年02月28日 | Guiter

ジャケットはイマイチだが、内容は群を抜いてすばらしい。
素敵なジャズギターを聴いてみたいという人に自信を持ってお薦めできる作品である。
何がいいかって、まず音の色艶がたまらない。
彼の弾くギターは、全編まろやかで包み込むような優しさに満ちている。
妙なエフェクトをかけてごまかしたりはしていない。
すべてストレート勝負で、ジャズの醍醐味を存分に伝えてくれるところがお気に入りなのだ。

私は大体にして角の取れたソフトな音色が好きだ。
だから同じギターでも、ジム・ホールやパット・メセニーはOKで、ジョン・マクラフリンやジョン・スコフィールドはダメだ。
サックスでいうならポール・デスモンドのようなタイプが好きだし、トランペットならチェット・ベイカーのような音色が好きだ。
つまり乾燥してささくれ立たない、ウェットな響きを愛して止まない人間なのである。
これはもう好みの問題だから、人からとやかく言われる筋合いではない。
話はそれるが、私の好きなその3人(ジム・ホール、ポール・デスモンド、チェット・ベイカー)が組んだ作品に、ジム・ホールの「CONCIERTO」がある。
だから私はジャズギターの作品の善し悪しは、いつもこの作品(CONCIERTO)を基準に考えている節がある。
こういう「基準」があるとジャズの聴き方も格段に楽しくなる。
ウソだと思ったら、ぜひ試していただきたい。

それはそうと、ジェシ・ヴァン・ルーラーという人はジャズ界の貴公子だと思う。
顔つきはまるで俳優のように精悍だし、華やかなロックの世界に憧れてギタリストになったものの、ジャズギターという半ば地味な存在に方向転換したところにも、彼の品格ある人間性が出ているように思う。
この「Here And There」では、ピアノトリオをバックにして、持てる力を存分に発揮している。
余計なホーンが一切絡まず、彼の世界を演じきっていることが成功の要因だ。
これからはこのアルバムもジャズギターの「基準」になっていくだろう。
これはそれくらいの定番作品である。


SONNY RED 「OUT OF THE BLUE」

2010年02月23日 | Alto Saxophone

こういう作品を愛するリスナーでありたいと思う。
ずらりと名盤が揃ったブルーノートの中にあって、地味ではあるものの寛ぎの一枚である。
まずタイトルがいい。
OUT OF THE BLUEとは、「突然に」とか「出し抜けに」といった意味であるが、ここは遊び感覚でソニー・レッドの名前に引っかけたのだろうと推測できる。
ジャケットも青と赤でシンプルかつ大胆に構成されており、このタイトルを意識していることが窺える。タイポグラフィを見てもそれとわかる。
ここで使われている赤と青の色相が微妙に好みとずれているため、必ずしも大好きなジャケットとはいえないが、印象的であることには違いない。一度見たら忘れられないデザインだ。トニー・ウィリアムスの「SPRING」を連想する人も多いだろう。この明快さがブルーノートの良さでもあるのだ。

この作品はソニー・レッドがブルーノートに残した唯一のリーダーアルバムであるが、ここでの演奏を聴く限り、なぜもっと多くの機会を与えられなかったのかが疑問として残る。
彼の吹奏は実に素直だ。
ジャッキー・マクリーンのように無理にねじ曲げたりしないところがいい。
だから音色が透き通っていて爽やかさを感じる。
ただこの当時はいいアルト奏者が大勢いたために、彼のこうしたクセのない吹き方は個性がないと思われたのかもしれない。
返す返すも残念だ。

いいといえば、ここでのリズムセクションも最高だ。
ウィントン・ケリー(p)、ポール・チェンバース(b)、ジミー・コブ(ds)といえば、当時のマイルス・クインテットのレギュラーメンバーである。3人とも正しく絶好調だ。
特にウィントン・ケリーがすばらしい。どの曲も彼のピアノが光っている。
ケリーに関しては、彼の最高傑作を「ブラックホークのマイルス・デイビス」やウェス・モンゴメリーとの競演作である「スモーキン・アット・ザ・ハーフノート」、或いは「ケリー・アット・ミッドナイト」だと捉える向きが一般的だが、私はそれには懐疑的である。
彼は前のめりに突っ込んだ演奏よりも、こうした和みの雰囲気の中で活きる人だと思うのだ。
この玉のように転がるケリー節を聴いたら、もうそれだけで幸せだ。
嫌なことなどきれいさっぱり忘れてしまう。

JOEL ZELNIK TRIO 「MOVE」

2010年02月17日 | Piano/keyboard

「これを聴かずに何を聴く?? 激レアにして、極上内容!! 驚愕の幻の大傑作ピアノトリオついに復刻!!」
「あまりのレア度、あまりの情報量の少なさから、幻とされてきたPIANO TRIO作品」
「このピアノ! このドラム! そしてこのベース!!!!」

これらはこのアルバムのキャッチコピーである。
とにかく大評判なので買ってみた。
確かに大音量で聴くとその迫力にのけぞってしまいそうだ。特にベースの音にはぶっ飛んでしまう。
その原因はこの録音だ。
左右くっきり分かれた音の間に立つと、まるでアバターのような3D映画を観ているような立体感を感じる。
それくらいメリハリの利いた音空間が楽しめる。
但し音の採り方は少々硬め。
ジョエル・ゼルニックが弾くピアノの音は、ハンプトン・ホーズの名作「Hamp's Piano」を連想する響き方をしているし、ハロルド・スラピンの弾くベースは、エレクトリックベースのようにも聞こえてくる。
考えてみれば、このアルバムが録音されたのが1968年。「Hamp's Piano」は67年の録音だから、この当時はこんな音が象徴的だったのかもしれない。
迫力という点では文句のつけようがないのだが、ではこれが万人に受け入れられるかというと「どうかな」と個人的には思う。
要するにちょっと不自然な、というか人工的な、或いは機械的な印象を受けるのである。
まぁこのくらい個性的なものがあった方が、リスナーとしては聴く楽しみも増えるから「すべてよし」ではあるのだが...。

アルバム全体のホットな雰囲気は、以前ご紹介したアイク・アイザックスの「AT PIED PIPER」に似ている。
スタジオ録音ながらライヴ録音のような熱気を感じるのも特徴だ。
「AT PIED PIPER」やその類の音が好きな人、ECMのような冷たいピアノトリオに飽き飽きしている人はぜひ手に入れることをお薦めする。
忘れかけていた熱い思いが蘇ってくるに違いない。
とにかく今の音ではないところに、ある種のノスタルジーを感じるアルバムだ。
リイシューの良さは、間違いなくそんなところにあるのだと思う。


HARRY EDISON 「SWEETS」

2010年02月11日 | Trumpet/Cornett

一言でいってしまえば、「いい気分」にさせてくれるアルバム。
なぜなら全体を通して穏やかな春風を感じるからである。
これは1956年の録音盤だが音もいい。
ジョー・モンドラゴンのベースが、単調ながらブンブンと強力なリズムを弾き出している。
そのリズムに乗って、ハリー・エディスンのトランペットやバーニー・ケッセルのギターは言うに及ばず、ベン・ウェブスターのテナーまでがふわふわと空中を漂っている感じなのである。

そういえばこのアルバムは、ベン・ウェブスターの名演でも有名だ。
彼はリーダーになるとアクが強すぎて、時に敬遠したくなることも多いプレイヤーだが、脇役として参加するとものすごく感動的な演奏をする時がある。
ここでの彼がその典型だ。
彼はカンザスシティ・スタイルをベースに、まるで口笛を吹くかのような軽やかさでさらりと歌い上げる。
もっとソロをとる時間が長ければよかったのに、という人も多いようだが、私は彼の出番はこれくらいの長さがちょうどいいと思っている。
主役はあくまでハリー・エディスンなのだ、というベンの思いやりが感じられるからだ。

それにしてもタイトルにもなっている「スイーツ(ハリー・エディスンの愛称)」とは言い得て妙だ。
この愛称はレスター・ヤング大統領が命名したと聞くが、これだけミュートが甘く優しい音色を奏でるなんてちょっと意外な気もしてくる。
なにせミュートといえば、真っ先に思い出すのがマイルスである。
あの暗く寂しいハードボイルドタッチがミュートの良さなのだと長く思い続けてきた。
しかしハリー・エディスンのミュートは、もっとコミカルでクスクス笑っているように聞こえる。
この取っつきやすさ、親しみやすさが彼の魅力なのだ。
もっともっと多くの人に聴いてもらいたい名盤だと思う。
このライトグリーンのジャケットを壁に立て掛けて聴いていると、なおさら「いい気分」になってくるからお試しあれ。

MARCO DI MARCO 「MY LONDON FRIENDS」

2010年02月06日 | Piano/keyboard

ネイサン・ヘインズという名前だけは知っていた。
但し、私は彼のアルバムを一枚も所有していない。
だいたいクラブ系のジャズは滅多に聴かないから当然である。
しかしこのアルバムを聴いて、彼の他の作品も聴いてみようかなという気になっている。
彼がストレートジャズの人だったなら、すでにファンになっていたかもしれない。
「Brazilian Waltz」でのフルート、「Walking In St. James' Park」でのテナーサックス、「Solaria」でのソプラノサックス、どれをとっても一級品だ。
一人でいくつもの楽器を使い分けるジャズメンは、概して大物になれないような気がしているが、ネイサン・ヘインズは特別だと思いたい。
もう10年もすればそれもはっきりするだろう。

マルコ・ジ・マルコのことはもちろん知っている。
アルバムもこれ以外に3枚ほど持っている。
この人のアルバムはどれもこれも評判がよく、以前から、やれ哀愁が漂っているだのとんでもない名人芸を見せる人だのと騒がれていた。
あんまり評判がいいものだから、「よし、これは聴かねばならない」という気になって最初の1枚を買ってみたが、どうもグッとくるものを感じなかった。
それでも「たまたま買った作品が、私と相性が合わなかっただけなのだ」と自分に言い聞かせ、「みんながいいといっているからいいはずなのだ」と信じて2枚目を購入した。
またしても外れた。
あまり過剰に期待しすぎる自分が悪いのはわかっているが、さすがにこれにはがっかりした。
で、3枚目である。
これはもう、半分惰性で買った。
「こんどこそ」という気持ちもあった。
聴いてみると、まだ不満は残るものの、前の2作よりはよかった。ほっとした。
そしてこのアルバムである。3枚目を手に入れてから4年くらいは経っていた。
ネイサン・ヘインズというゲストを迎えて新境地を開いたのではないかという期待もあったし、久しぶりに彼の作品にチャレンジするという妙なわくわく感もあった。
結果はいい曲が目白押しで、初めて満足のいく作品に出会った気がした。
全編に渡って、重くバウンドするようなベースもいい味を出している。スタイリッシュな一枚だ。

マルコ・ジ・マルコのピアノはネイサン・ヘインズの影で、いぶし銀のように光っている。
また、ピアノトリオで演じられる「Soft Rain, Gentle Breeze」を聴いて、これまでのイメージが払拭された。
彼がこんな端正なピアノを弾く人だったとは...。
私は今、以前買った3枚も、もう一度じっくり聴き直してみようと思っている。
ひょっとしたら、今聴けば大感激するかもしれないと期待しているのだ。

HALIE LOREN 「THEY OUGHTA WRITE A SONG...」

2010年02月01日 | Vocal

一瞬、どきりとするジャケット。
店頭で見つけたときは、ダ・ヴィンチの名画「岩窟の聖母」に描かれている天使を真っ先に思い出した(これ、ホントです)。
なかなかの美貌、カメラアングルである。帽子を被ってなければもっとよかった。

その場で試聴してみた。
最初のタイトル曲「THEY OUGHTA WRITE A SONG」を聴いただけですぐに購入を決めた。
こういうアルバムは、最初の印象、閃きが大事なのだ。
これは間違いなく自分好みだと判断した。

このタイトル曲はヘイリー・ローレンのオリジナルである。
彼女は静かなピアノとベースだけをバックに、感情を込めて切なく歌う。
それほど粘っこくもなく、さらりともし過ぎない、ちょっとだけセクシーで、ちょっとだけハスキー。
ファルセットすれすれのところで留まる声が特徴的だ。
特に歌詞の最後「They Oughta Write A Song...」ときて、「...About That」と付け足す部分が何ともいえず好きだ。

続く曲が「A Whiter Shade Of Pale」だから、これまた泣かせる。
この曲はプロコル・ハルムの「青い影」である。
私の大好きなアラン・パスクァの「ボディ・アンド・ソウル」にも入っていた往年のロックの名曲だ。
こういう曲を挟むところにも彼女のセンスの良さを感じる。
これはますます私好みである。

だいたい私はこんなおとなしめのピアノトリオをバックに、しっとり歌う女性が好きだ。
歌唱力があるのをいいことに、やたらと声を張り上げ、元気ばかりを振りまくヴォーカリストに魅力を感じない。
胸の奥にじわ~っと染み込んでくる感じがなければ聴く気にもならないのである。
そんな点からもヘイリー・ローレン、今後の大注目株といっていい。