SENTIMENTAL JAZZ DIARY

感傷的ジャズ日記 ~私のアルバムコレクションから~

DEXTER GORDON 「DADDY PLAYS THE HORN」

2007年02月28日 | Tenor Saxophone

パパッパ、パッパパッ、パァ~パッ。で始まる切れのいい明るいリズムとデックスの大らかさが好きだ。
思わずうきうきしてくる。こんな感情は他のサックス奏者からは得られない。根は相当明るい人だ。少なくともこのアルバムの録音時はハイだった。
ただこの時代(50年代)の彼の録音はメチャクチャ少ない。聞くところによればドラッグ漬けで身も心もボロボロだったらしい。もちろん当時のジャズマンのほとんどがそうだったのだから特別な話ではない。ある意味ジャズマンとして真っ当な暮らしをしていたわけだ。しかし、だ。そんな状況にあってこの明るさは特別だ。これが彼の彼たる所以である。

彼と並んでピアノのケニー・ドリューがまたいい。自分の出番が来た時の受け継ぎ方などは実にスムースで、全体の雰囲気をさらに盛り立てていく。私の好きなリロイ・ヴィネガーも相変わらずズンズンズンとウォーキングベースを唸らせる。バックとの相性がいいとこのような名盤が生まれるわけだ。これは名作揃いのベツレヘムの中でもかなり上位にランクされる作品だろう。

BEEGIE ADAIR 「RICHARD RODGERS」

2007年02月26日 | Piano/keyboard

とてもセンスのいいおしゃれなお店があったとしよう。
このアルバムはそんなお店でかかっているのがふさわしい。
ピアノを弾くのはビージー・アデールという白人女性。このジャケットでタバコをくわえている人ではない。
この人はリチャード・ロジャース。このアルバムは彼の作品集なのだ。リチャード・ロジャースはミュージカルの王様ともいえる作曲家で、私も以前から尊敬している人だ。彼が残した曲はどれもすばらしい曲だが、中でも「BEWITCHED」はマイ・フェイバリット。この曲が入っていれば「よし、買おう」という気になる。ここにもあった、あった。だからとっても嬉しい。

ビージー・アデールのアルバムは他にも持っているが、真剣に前のめりになって聴くタイプのミュージシャンではない。バック・グラウンドに流れていてはじめて生きる音だ、なんて書くとファンからは怒られそうだが、そういう聴き方だって立派なジャズ鑑賞だ。要するにこういうピアノトリオを聴きながらコーヒーをすすると美味しいとか、酒を飲むと話が弾むとか、暮らしに潤いと安らぎが生まれるのであれば、それもまた優れた演奏なのだ。
自分のお店をおしゃれに演出したいと思っている方はぜひ店内でお試しあれ。



LEE MORGAN 「THE COOKER」

2007年02月25日 | Trumpet/Cornett

リー・モーガンにはずいぶん熱を入れた時期があった。
何せ彼はハードバップには欠かせないキャラクターだ。火の玉小僧とはよくいったものだと思う。
コルトレーンの「ブルートレイン」やジャズ・メッセンジャースの「モーニン」での演奏を聴けば誰でも納得する。
とにかくスカッと爽やかコカコーラみたいな人だ。何の迷いもなく一気呵成に吹く。どこで息継ぎをするんだと思えるほどに彼の肺は強靱だ。しかもアドリブのうまさは天下一品ときた。気持ちいいのなんのって他に類を見ない。

このアルバムは彼のリーダーアルバムの中でもひときわ熱い一枚だ。
最初の「チュニジアの夜」を聴いて欲しい。じっとしていても汗が噴き出すような真夏の夜を体感できる。
ペッパー・アダムスもバリトンで負けじと応戦。ドラムはアート・ブレイキーのようなフィリー・ジョー。
最もブルーノートらしい一枚かもしれない。


SERGE CHALOFF 「BLUE SERGE」

2007年02月23日 | Baritone & Soprano Saxophone

バリトンサックスの名手といえば、ペッパー・アダムスやジェリー・マリガン、サヒブ・シハブらと並んでこのサージ・チャロフを忘れるわけにはいかない。このアルバムは正に彼の代表作だ。

バリトンサックスはうまく吹かないとデリカシーがなくなる。とにかく普通に吹くだけでバフゥー、ブゥワ~~とくるのだからたまらない。まるで風圧でこちらまで飛ばされそうな勢いだ。ただこれが彼らの武器で、テナーやアルトではこうはならない。唯一ソニー・ロリンズやデクスター・ゴードンの元気な頃は、テナーでもそれに近い音が出せていた。ただそれはかなり例外的な話である。
サージ・チャロフはそんなバリトンでテナーの良さも出せた男である。

このアルバムがなぜ彼の代表作になったかというと、バックを固めるソニー・クラーク(P)、ルロイ・ヴィネガー(b)、フィリー・ジョー・ジョーンズ(ds)の好演にも助けられて、何の気負いもなく自然体で演奏できているからである。
リラックスした雰囲気の中で迫力満点の重低音を聴きたいなら、このアルバムは決してあなたの期待を裏切らないと断言できる。

SIMPLE ACOUSTIC TRIO 「Habanera」

2007年02月22日 | Piano/keyboard

ポーランドの若手トリオ。デビュー当時は全員10代だったというから、よほど才能とチャンスに恵まれた人たちだ。
事実、アルバムの質はかなり高い。かなり真剣に向き合って聴かないといけないアルバムだ。
マルチン・ヴァシレフスキーのピアノは、ちょっと聴いただけではあまり個性的に感じない。ただ一音一音が際立って美しい。おそらくピアノタッチのせいだ。しかし何度も聴いていると、かなり情熱を内に秘めた人だということがわかるようになる。時折聞こえる唸り声からもそれを感じる。
ただ全体を通して聴くとバランスの取れた音の集合体になり、ある種のコンセプトアルバムのような印象さえ感じる。
その名の通りシンプルで美しいアコースティックなトリオだ。

それにしても世界は広い。様々な国から新しい才能が次から次へと生まれてくる。
ジャズファンとしてはとてもおちおちしていられない。

WES MONTGOMERY 「ROAD SONG」

2007年02月21日 | Guiter

このアルバムを聴く度に、なぜか60年代のモダンインテリア雑誌の中にいるようだと感じてしまう。
50年代でも70年代でもない、きっちり60年代の白い室内にいる感覚だ。
私はその部屋のゆったりしたソファーに座って様々な出来事をテレビで見る。ケネディ暗殺、東京オリンピック、ビートルズ、ベトナム戦争、気取ったツイッギー、リング上の力道山、アポロ宇宙船、学園紛争、キング牧師の演説などなど、正に激動の時代を他人ごとで見ているのだ。
こんな感覚にさせてくれるのもこのウエス・モンゴメリーのオクターブ奏法によるところが大きい。複数弦の上を彼の指がスライドするたびに時代が動いていく。

クリード・テイラーとドン・セベスキーのコンビはジム・ホールのアルバムでも聴かれるが、同じ楽器でも全く違うイメージ世界が描かれていることに半ば驚いてしまう。どうやら彼らの催眠術は全曲を聴き終わるまで解けそうもない。
ウエス・モンゴメリーもこのアルバムを最後に亡くなった。

CHRIS CONNOR 「CHRIS」

2007年02月20日 | Vocal

やみつきになる人だ。特別な歌い方をしているわけでもないのになぜだろうと思う。
ベツレヘム・レーベルの魔術か、はたまたゴールドブラッドのせいか。いやいや、それだけではない。

一曲目の「All About Ronnie」を聴いてみる。
ちょっとハスキーな彼女独特の鼻づまり歌唱。
どことなくニーナ・シモンにも似ているが、クリス・コナーの方がはるかに先輩だし、もっとさらりとしている分だけ喉越し?がいい。
時々無性に彼女の歌声を聴きたくなってくる。これは本物であることの証明であると同時に、ジャズヴォーカルの最も大切な要素だ。
録音されて半世紀も経っているというのに少しも色あせない。
こんな普遍的な魅力を持った歌い手が現在のミュージックシーンにどれだけいるだろうか。

JAN LUNDGREN 「A TOUCH OF YOU」

2007年02月18日 | Piano/keyboard

ヤン・ラングレンは北欧ジャズの人気を決定づけた男だ。
彼のアルバム数はとても多いが、どれもこれも水準以上のものだと思う。あまり駄作がない。
演奏内容も名盤の誉れ高き「SWEDISH STANDARDS」に代表されるスウェーデンのトラディショナルから、「WILL YOU STILL BE MINE」「PLAYS THE MUSIC OF JULE STYNE」のようなトリビュート、「LES PARAPLUIES DE CHERBOURG」における華麗な映画音楽集まで実に多彩だ。
そんな中においても本作は私のお気に入りの一枚。
最初の「Blues for Raz」におけるイントロでもうノックアウトされた。グイグイと引っ張っていくような彼独特のドライヴ感はオスカー・ピーターソン的でもあるし、同じ北欧のカーステン・ダールにも共通性を感じる。
全体を通じて他の作品よりも明らかにメリハリのある作品だ。
きらめくようなシンバルと張りのあるベースの音がバランスよく集音されている点も見逃せない。
北欧ジャズの人気は決して一過性のものではないことを印象づけるアルバムだ。

LEE KONITZ 「KONITZ」

2007年02月17日 | Alto Saxophone

いわずとしれた「海岸のコニッツ」である。ジャケットデザインは最愛のバート・ゴールドブラッド。
うーん、海岸もこんな風にダブルトーンにするだけでカッコよくなるんだ。と単純に考えて実際に真似をしてみたことがある。今でこそパソコンを駆使すればそれほど難しくないが、パソコンなどなかった時代は大変だった。こんな微妙な色合いを出すのは至難の業なのだということがよくわかり、私の中でバート・ゴールドブラッドの株は急上昇。あこがれのグラフィックデザイナーになった。
というわけで、このアルバムの購入動機もやっぱりジャケットだったのだ。
その後、「Subconscious-Lee」「In Harvard Square」も買い求め、クールなコニッツの魅力にもますますはまっていった。
ただ師匠ともいえるレニー・トリスターノの難解な理論などに興味はない。ジャズをつまらなくするだけだ。
ジャズは感性で聴くに限る。視覚と聴覚、そしてわずかな嗅覚を駆使するのだ。


NEW YORK TRIO 「The things we did last summer」

2007年02月15日 | Piano/keyboard

このアルバムは明らかに私の中のベストだ。
どんなに嫌なことがあってもこれを聴くと癒される。誰に何といわれようと知ったことではない。三度の飯より好きだ。
ジャズファンをやっていて何が楽しいかというと、こういう自分だけのベストアルバムを持つと、これを超えるアルバムを探すという目標ができることなのだ。これがやめられなくなる最大の原因だ。

ちょっともったいないような気もするがまた聴いてみよう。
まず「いそしぎ」の静かなピアノソロが終わり、その余韻のままタイトル曲へと移る。問題はここだ。主旋律に入るところでリズムが替わり、一瞬の間をおいてベースとドラムスがゆったりと絡んでくる。この瞬間が至福の時だ。何度聴いてもこの時ばかりは体が硬直する。そんな大袈裟な、と思うかもしれないが本当なのだ。
その後も感動は止まらない。夏が過ぎていくさみしさが、夕暮れ時の波打ち際のように寄せては返す。
このアルバムと出会えて本当によかった。