SENTIMENTAL JAZZ DIARY

感傷的ジャズ日記 ~私のアルバムコレクションから~

LENNIE TRISTANO 「Lennie TRISTANO」

2010年07月07日 | Piano/keyboard

何とも不気味なジャケットだ。
手に入れたのはかなり昔だが、このジャケット故になかなか手を出せなかったのは事実である。
邦題である「鬼才トリスターノ」というタイトルもそれに拍車をかけていた。
どうしようかさんざん迷ったあげく、でもやっぱりこの作品を知らずしてジャズを語れないような気がして、思い切ったのを覚えている。
家に持ち帰って聴いてみて、ああ、何でもっと早く手に入れなかったのだろうかと反省した。

このジャケットや邦題がぴったりくるのは最初の4曲(A面)である。
「Line Up」では、追いかけてくる何か得体の知れないものを振り切るように、彼は全力で疾走してみせる。
どこかマイルスの「死刑台のエレベーター」を思わせる雰囲気が漂っているが、このハードボイルド感は、他のどんなジャズメンにも出せない特異なものだ。
打って変わって「Requiem」では、思わず頭を垂れたくなるような鎮魂歌が厳かに演奏される。
レクイエムとは死者のためのミサのことのようだが、彼は全身全霊を込めてこのテーマと向き合っている。
全てのジャズの源流はこういうものなのかもしれないと思わせるところがすごい。
続く「Turkish Mambo」では不安をあおり立てるような変則的なリフが印象的なナンバーだ。
「Requiem」もこの「Turkish Mambo」もピアノソロ(正確には多重録音)であるにもかかわらず、そのぶ厚いサウンドには目を見張るものがある。
「East Thirty Second」は「Line Up」を彷彿とさせるかのようなアップテンポの曲であるが、硬質なピアノの音が部屋の中に響き渡り、再度緊張感が高まってくる辺りが痺れる所以だ。

以上4曲はこの作品のハイライトであるが、これはテンポを速めてスーパーインポーズしていることばかりが話題になっていて、彼が創造する音世界のすばらしさに関してはあまり取り上げられていないような気がしていて残念に思っている。
私はレニー・トリスターノの独自理論には興味がないが、音のクリエーターとしての彼は高く評価している人間だ。
それはまるで良質なインスタレーションの中にいるようで、全身でその音空間を感じることができるからなのである。

5曲目以降は、最初の4曲とはまるで正反対の寛ぎに満ちている。
最初の4曲があまりに緊迫感があるために、何だか拍子抜けしてしまう感じは否めない。
ただ、これはこれで悪くない。
リー・コニッツの優しいアルトのお陰で、トリスターノのピアノも色気さえ感じでしまうほどに柔らかい。
結局、この作品は多重人格のような形に仕上がってしまった。
でも結果オーライ。
誰にでもこんな二面性があるはずなのである。


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