SENTIMENTAL JAZZ DIARY

感傷的ジャズ日記 ~私のアルバムコレクションから~

DAVE BAILEY 「BASH!」

2010年05月18日 | Drums/Percussion

結局このへんに落ちつくのである。
俗にいうジャズの有名盤を一通り買いあさって、一息ついた頃に出会う作品という意味だ。
この「BASH!」についてとことん語り合える友人がいたらいいなと思ってしまう。
これはそんな気にさせる愛すべき作品なのだ。

まずベン・タッカーによる大迫力のベースに酔ってしまう。
私にとっていいジャズであるかどうかは、ベースの善し悪しで決まる。
別にハイテクニックである必要はない。
思わず身体を揺らしたくなるようなリズムを、適確にしかも強靱に弾き出してくれればいいのである。
その点ここでのベン・タッカーは完璧だ。
全体を見事なまでに引き締めている。
特に「Osmosis」は必聴だ。これを聴いて痺れない人を私は信用しない。

次にフランク・ヘインズのテナーに全く畏れ入る。
彼はビッグネームではないが、ここでの彼を聞く限りどうしてもっと脚光を浴びないのか不思議なくらいだ。
「Grand Street」や「Osmosis」でのアドリヴはこれまた完璧である。
魂のこもった白熱のプレイを演じている。
彼の存在がこのアルバムのハイライトかもしれない。
ケニー・ドーハム、カーティス・フラーとのコンビネーションもいい。

そして名手トミー・フラナガンである。
軽快さにも程がある、といいたいくらいにこの時のトミフラは絶好調だ。
「Like Someone In Love」や「Just Friends」でのピアノプレイは、ベン・タッカーの重いベースとは全く対照的に風のような存在感が何とも心地いい。
この作品に品格を与えているのは他ならぬ彼である。

そしてリーダーのデイヴ・ベイリー。
彼のアルバムはどれも通好みであるが、堅実でそつがない。
ドラマー特有のアクも少ない。
いかに周りのみんなを気持ちよく演じさせるかに気を配っているようだ。
ドラマーのリーダー作とは思えないところに彼の凄さがあるといっていい。

ELVIN JONES & RICHARD DAVIS 「HEAVY SOUNDS」

2009年12月24日 | Drums/Percussion

これぞ重量級ジャズといえる迫力満点の作品だ。
だからクリスマスだね~なんて、ほんわか気分で聴いてはいけない。
ぼんやりしていると、いきなりボディと顔面にカウンターパンチを食らってしまう。
特にB面(4曲目)には気をつけてもらいたい。
いきなり出てくる「Summertime」は世界最強のハードパンチャーだ。
エルビン・ジョーンズが叩き出す太鼓の音と、リチャード・デイヴィスのアルコ(弓)によるベースは、まるで島の奥からキングコングを呼び出すための儀式のようにも聞こえる。
好むと好まざるに関わらず、これも60年代後半を象徴する音なのだ。
それはプログレッシヴロックやハードロックなどが台頭する前夜の出来事だ。
私はこのアルバムが、そんなサイケデリック・ムーヴメントの火付け役の一枚だったと信じて疑わないのである。

考えてみれば、ジャズはいつの時代も最先端を走っていた。
ロジックも、テクニックも、パッションもである。
その典型がマイルスと、彼が率いるメンバーたちだった。ロック界は常に彼らの後追いだったのだ。
もちろんロックがジャズより劣っているなどといっているわけではない。
常に時代を切り開いてきたのはジャズであったし、ジャズはそういう運命を抱えた音楽だということなのだ。
事実、この「Summertime」のようなベースとドラムスのデュオなんて、当時のロック界ではあり得ないスタイルだったと思う。
何とかして新しい時代を作りたいと思っていたロック少年も、みんなこの自由さ、奇抜さに憧れたのである。

でもこんな風に書くと、初めての人はこの作品を前衛的だと勘違いして敬遠してしまいそうだが、これはマイルスの「ビッチェズ・ブリュー」などと違って決して聴きにくい?盤ではない。
フランク・フォスターも朗々と男らしいテナーを歌い上げているし、エルビンがつま弾くブルージーなギターも、なかなか味があって悪くない。録音も抜群に優秀だ。
ただ一番の魅力は何かと聞かれれば、黒人のかっこよさがフルに発揮された一枚だと答える。
とにかく全編通して真っ黒。何といってもこれがいい。
しかも私はその中に差し込む一筋の光を感じるのである。
その光こそ、全く新しい時代の息吹なのではないかと思っている。

KENNY CLARKE 「Bohemia After Dark」

2009年07月01日 | Drums/Percussion

頻繁に鼻歌交じりで出てくるメロディだ。
もちろんオスカー・ペティフォードの名曲「ボヘミア・アフター・ダーク」である。
ファンキーなナンバーの中では一番好きな曲かもしれない。
この曲に刺激を受けたベニー・ゴルソンが、カーティス・フラーの人気作「ブルース・エット」に収録されている「ファイブスポット・アフター・ダーク」を作ったのは有名な話だ。
「ファイブスポット・アフター・ダーク」も悪くないが、私はやっぱり「ボヘミア・アフター・ダーク」が好きなのである。
あの徐々にせり上がってくるテーマ部分が、緊張感たっぷりでたまらない。
正に名曲中の名曲である。

この録音は、本家本元オスカー・ペティフォードのアルバム(オスカー・ペティフォードの神髄)よりも2ヶ月早い録音だ。
私はどちらも好きだが、このアルバムのハイライトは、何といってもキャノンボール・アダレイの鮮烈なデビューが記録されていることである。
ちょうどチャーリー・パーカーが亡くなったと同時に、入れ替わるような形でキャノンボールが登場する。
カフェ・ボヘミアを拠点に演奏活動していたオスカー・ペティフォードは、すかさず彼の才能を見抜き、自分のグループに引き入れると共に、このケニー・クラークのアルバムに参加させたのだという。
つまり、このアルバムこそ、ビ・バップからハード・バップに移行した瞬間を捉えた記念すべき作品なのだ。

見渡せばメンバーだって蒼々たるものだ。
ホレス・シルバー(p)、ハンク・ジョーンズ(p)、ジュリアン・キャノンボール・アダレイ(as)、ナット・アダレイ(cor)、ジェローム・リチャードソン(ts,fl)、ドナルド・バード(tp)、ポール・チェンバース(b)、そしてリーダーのケニー・クラーク(ds)。
彼らの生み出す音から、当時の息吹が手に取るように感じられる。
やっぱりハードバップは、モダンジャズの花形なのである。



GEORGES PACZYNSKI TRIO 「GENERATIONS」

2009年04月04日 | Drums/Percussion

音が良すぎるというのも考え物だ。
これはかなり贅沢すぎる話だが本当だ。
このジョルジュ・パッツィンスキーのアルバムはその最たるものだと思う。
とにかく最初から最後まで文句のつけようがない録音だ。
ジャズ批評の2007年オーディオディスク大賞も獲得しているから、どうやらみんなもそう感じているらしい。
重心の低いベースは、スピーカーを破って飛び出してきそうだし、パッツィンスキーの叩き出すシンバルは脳天にカキーンと響き渡る。とにかくクリアなサウンドで、全体にスカッとした印象がある。
しかしこれくらい音がいいアルバムだと、肝心の演奏の善し悪しを忘れて、ついつい一つ一つの音を追うことに専念してしまう。
だから聴き終えた後の印象はというと「音がいい」ことしか残らないのである。
決して内容が悪いというようなことはないのに、これは実にもったいない話だ。

私は決してオーディオ人間ではない。
もちろんジャズをいい音で聴きたいという願望は常に持っている。
でも高価な装置を買う余裕などない。だからせいぜいケーブルを替えてみたり、針を替えてみたりする程度のことしかできないという寂しい人間だ。
しかし音にばかり神経を使うのもどうかと思うのだ。まぁ、多少のひがみ根性もあっての話だが、音の善し悪しばかりにとらわれず、もっと演奏そのものを楽しみたいという気持ちが湧いてくるのも事実なのだ。

そう考えてこのアルバムを聴き直してみた。
ドラマーのリーダーアルバムだけに、全編に渡ってドラムが大活躍しているトラックが多いのだが、そういったナンバー、私的にはちょっとうるさい。
それよりも7曲目の「Patchwork」のウォーキングベースである。まるで「Forty-Seventy Blues」におけるニールス・ペデルセンのようだ。
また8曲目の「L'etang Des Perches」や、ラストの「Part Three For Isa」におけるピアノソロもたいへん美しい。
このアルバムはこういう演奏をもっと評価しよう。
でないと、このアルバム、ただのオーディオチェック用になってしまいそうだ。


BILL STEWART 「Think Before You Think」

2009年01月31日 | Drums/Percussion

かなり細部にわたって気を配る人である。
もちろんビル・スチュワートというドラマーのことだ。
彼は相当な技術の持ち主であり、よく聴いていると常に変化に富んだ演奏をしている。
ストン、パタン、ときて、スカチャカ、ストトト、チチチ....(文字では上手く表現できないが...)、というように一つ一つの音が同じ繰り返しになっていない。
CDだけを聴いているとあまり感じないが、ステージで観るとそうしたドラミングが危なっかしさを感じる時がある。しかし彼は決してひるまない。ひるむどころか涼しい顔をして最後までそれを難なくやり遂げるのである。
見ている方もその緊張感がやみつきになり、目が離せなくなるという塩梅だ。
つまり彼はドラムを通じて歌を歌っているのであり、単なるリズム楽器から逸脱した表現を行っているのである。
しかもそれが決して目立つものではなく、フロントラインを上手く引き立てるための彼なりの手法だということに気づかねばならない。
そんなわけで、彼がバックにいれば誰のリーダーアルバムでも聴いてやろうという気になる。
私はそれくらい彼のファンなのだ。

私が彼を最初に意識したのはニューヨーク・トリオのファーストアルバムである。
スタンダードを情感豊かに紡ぎ出すビル・チャーラップの良さを引き出したのは、他ならぬビル・スチュワートだった。
こんな繊細なバッキングをされたらビル・チャーラップに限らず、誰だって普段以上の力を発揮するだろう。
このアルバム「Think Before You Think」においては、ジョー・ロヴァーノをフロントにおいているが、彼も気持ちよさそうにテナーを吹いている。まるで「よし、ここでこういう風に吹け」とビル・スチュワートに促されているようだ。

ジョー・ロヴァーノはアメリカでは大スターだが、日本ではあまり人気がない人だ。
日本ではどちらかというと、エリック・アレキサンダーやグラント・スチュワートのような人が好まれる、とどこかの評論家がいっていた。
確かにロヴァーノには、テナー特有の「ため」が少ない。いきなりスーッと入って、スーッと消えていくから私たち日本人には今ひとつ物足りないのだ。
しかしこのアルバムでは、その淡泊な雰囲気づくりが逆に功を奏しているように思う。
ロヴァーノを生かすためには、こんな配慮が必要なんだよ、といわんばかりだ。
ビル・スチュワート、今一番の注目株である。

JAY EPSTEIN 「Long Ago」

2008年12月09日 | Drums/Percussion

90年代を代表するピアノトリオの傑作である。
あちこちの本で紹介され、一頃はレア盤としてみんなが探し回っていたアルバムだ。
ただ単に稀少盤であるというだけでなく、内容もすばらしいので、こちらもぜひ聴いていただきたい。

とにかく全編に渡って爽快なグルーヴ感を楽しめる。
このグルーヴ感を具体的に説明するのは難しいが、何といっても歯切れがいいというか、ふやけたところが一つもなく、三位一体のインタープレイが聴く者を圧倒するのである。
実際、音もいい。
特にジェイ・エプスタインの叩き出すシンバルの音が鮮烈だ。続けざまに叩かれると、磁石のように身体がスピーカーに吸い寄せられていくようだ。
アンソニー・コックスが弾き出すベースの音も低くてばかでかい。こちらはスピーカーから溢れ出てくる感じだ。
そんな中でビル・キャロザースのピアノが一番中庸な音で響いてくる。出しゃばらず、引っ込みすぎず、全体を上手くコントロールしている。所謂バランス感覚が絶妙なのである。

私は現代のピアノトリオが大好きだ。
但し、最近はやたらと甘いだけ、軽いだけのピアノトリオが多すぎる。
加えて、テクニックをひけらかそうとする輩も多いし、斬新さを追求するだけのひねくれ者も多い。
2~3日前、日本の有名女性ジャズピアニスト(誰とはいわない)のコンサートに行った知人がこんなことを言っていた。
「テクニックはすごかったんだけど、終始目立つのは彼女だけだし、何だかどの曲も同じような組み立てになっていて、ワンパターンだと感じるんだよね」
これ、何となくわかる。
バド・パウエルならそれも許せるが、ピアニストだけが目立ちすぎるのもどうかと思う。アイドル性が高いというのも考え物だ。まぁ、ライヴはそれでいいのかもしれないが、もしそうだとしたら私は行かない。
要するに大切なのは、テクニックを超えたところにあるハートなのだ。
演奏者が思い描く世界に聴衆を引きずり込もうとしてはいけない。ジャズは聴衆と一体となった世界を創り出せるかどうかにあるのだ。

ROY BROOKS 「BEAT」

2008年11月30日 | Drums/Percussion

ロイ・ブルックスを知らずとも、思わずジャケットで買ってしまう一枚だ。
これこそ正しいジャズアルバムといえるようなダブルトーン処理。
ジャケットだけで買えるのは音楽界広しといえども、ジャズくらいなものではないだろうか。もちろんロックやポピュラーの世界にもいいジャケットはたくさんある。しかしそれだけで買おうというところまではなかなか結びつかない。やっぱりジャケット以上に中身が大事なのだ。
ここがそもそもジャズと違う点だ。ジャズの場合はお目当ての曲があって、それが直接の購買動機に繋がっているということはあまりないように思う。少なくとも私はそうだ。極端に言うならば全体の雰囲気やその時の気分で買っているのだ。
もっともそれはレコードでの話。CDとなるとさすがにそういう感情が薄まってしまう。だから同じアルバムでも、レコードとCDは似て非なるものであるわけだ。

さてジャケットもさることながらレコードとCDの違いは他にもある。
決定的なのが聴く時間の長さである。
レコードの場合は、一枚のアルバムがA面とB面に分かれており、A面が終わると盤をひっくり返す間、自ずと休憩時間が設けられる。
この間に、続けてB面を聴こうか、やめて別なレコードをかけようか、と考える。いずれを選択しようとも、レコードにはまた新しい気分でスタートできるというメリットがある。
これがCDだとなかなかそうはいかない。結局垂れ流し的に最後まで聴いてしまう傾向にある。しかもCDだといらぬ「おまけ」まで付いていることが多く、実際の時間は長くなる。これは大いに問題である。
いくら好きな音楽でも、集中して聴ける時間には限界があるのだ。私はせいぜい20分程度ではないかと思っている。つまりレコードの片面が限界なのだ。それ以上は集中して聴けない。故にCDの場合はBGMとして聴かざるを得ない。何かをしながら聴くというスタイルだ。当然録音の善し悪しなんていうものにも縁遠くなる。自分の感性が鈍る要因だ。
やっぱりジャズは腕を組みながら集中してじっくり聴きたい音楽なのだ。


GIANNI CAZZOLA TRIO 「ABSTRACTION」

2008年03月02日 | Drums/Percussion

かなりなレア盤である。
とにかくジャケットがひどい。写真はまるで新聞に載った小さな写真を強引に引き伸ばしただけという感じだし、タイポグラフィもただタイトルを記述しているだけというつまらないもの。正にドがつくシロウトの仕事ぶりである。
これだけ見た目の悪いアルバムも滅多にない。
ジャケットにこだわる自分としてはもう許せないくらいの仕上がりだ。
これは新宿のディスク・ユニオンで見つけて買った。
というのも実はこのCD、プラケースの上にさらに紙ケースがついており、中のジャケットが見えなかったのだ。
家に帰ってきて紙ケースを取った時点で腹が立った。半分詐欺にあったような気分である。
半ばがっかりしてこのCDをかけてみた。
「あれ?中身は結構いけるなぁ」というのが正直な感想。
小気味いいスイング感が全編に渡って展開されていた。

これはジャンニ・カッツォーラというイタリアのドラマーがリーダーのピアノトリオである。録音は1969年。どうやら彼のデビューアルバムのようだ。録音から既に40年近く経っているのに、まるで新譜のように新鮮だ。
それぞれの楽器の音はややこもり気味ではあるもののしっかり存在感が出ているし迫力もある。
演奏タイプとしてはビル・エヴァンス・トリオの系列で、3人のインタープレイが充分に楽しめる。
個人的にはスローな曲よりもアップテンポの曲に魅力を感じる。特にラストの「SPEAK LOW」が一番のお気に入り。

中身を隠す?紙ケースがなければ絶対に買わなかったアルバムであることは確かだが、今となってはこの紙ケースがあったお陰で楽しめている。危うくこんなにいいピアノトリオを聴きそびれるところだった。
でもやっぱりジャケットがいいに越したことはない。このアルバムがもし素敵なジャケットだったらもっともっと売れただろうにと余計なことを考えてしまう。損をしている作品の代表格だ。


GENE KRUPA 「THE GENE KRUPA SEXTET」

2007年11月13日 | Drums/Percussion

背中を丸め、首を突き出し、観客の目を精一杯意識しながら叩く。
これがジーン・クルーパのドラミングスタイルだ。ドラムという楽器が自己主張を始めるきっかけを作ったのが彼なのだ。
彼はドラムソロになるとフレーズとフレーズの短い間に左手を高く上げ決めポーズをとる。「おいおい、そんなことをしたら肝心のリズムが崩れるじゃないか」と一瞬思うのだが、彼が叩くリズムは驚くほど正確だ。
但し私はこういう彼の姿を見て、スイング・ジャズ或いはベニー・グットマン・オーケストラに違和感を覚えてしまった。何か古い三流コメディ映画を観ているような感覚になるからだった。つまり彼のポーズそのものがとてもギミックに感じてしまったのである。
しかしこのアルバムを聴いて、彼はもちろんのこと、スイング・ジャズへの思いを新たにすることができた。それくらいこの作品は私にとっての重要盤なのである。

まず最初の2曲であるが、この2曲だけは他の曲よりも半年ほど新しい録音だ。
ここでの主役は何といってもベン・ウェブスターである。バラードを吹かせたら彼は当代随一だ。あのすすり泣くようなビブラートはどんなテナーマンよりも個性的である。柔らかなテディ・ウィルソンのピアノや芥子色のミュート・トランペットを吹くチャーリー・シェイヴァースとの対比がすばらしい。あまり目立たないがそれをうまくつなげているのがクルーパのブラシのように思えてならない。私はこの控え目で驚くほど生真面目なドラミングにジーン・クルーパという人の本当の姿を知ったのだ。
3曲目以降はベン・ウェブスターでなく、ウィリー・スミスのアルトがシェイヴァースと共に大活躍。全体が軽やかになって当時の匂いがプンプンし始める。
ジーン・クルーパは肝心なところでスティックを硬めのスネアにカツーンカツーンと叩き込む。この音が実に鮮烈なのだ。
ジャケットのイラストを描いたデヴィッド・ストーン・マーチンは、このスネアに入った鮮烈な音の集まりをモチーフにしたのだと思う。これまた見事な表現である。地色がオレンジなのもいい。
一度スネアを叩き出したらもうスティックの雨あられだ。


ART BLAKEY 「A Night at Birdland」

2007年09月13日 | Drums/Percussion

このアルバムはハードバップが誕生する瞬間を記録した重要な作品である。
この日バードランドのステージに立ったのは、リーダーのアート・ブレイキー(ds)、若き天才クリフォード・ブラウン(tp)、パーカー直系のルー・ドナルドソン(as)、優れたコンポーザー&バンドリーダーで知られるホレス・シルヴァー(p)、名手カーリー・ラッセル(b)だった。
ピー・ウィー・マーケットの甲高い声による挨拶とメンバー紹介の後、いよいよ歴史的な演奏が始まる。まるでボクシングの世界ヘビー級タイトルマッチが行われるような興奮と臨場感でいっぱいだ。このMCの紹介をしっかりレコードに刻みつけたセンスに敬意を表したいと思う。
曲は「Split Kick」。ソロはドナルドソン~ブラウン~シルヴァー~ブレイキーの順でとられるが、最後のブレイキーのドラムソロはやはりすごい。人によっては好き嫌いが分かれるとは思うが、「ナイアガラ」と称された豪快なロール演法などは彼ならではのものであり、決して他のドラマーが真似できる芸当ではなかった。
続く「Once in a While」はブラウンの魅力がたっぷり味わえるスローナンバーだ。
私はクリフォード・ブラウンといえばこの演奏が一番最初に思い浮かぶのだが、ラストの見事なカデンツァを含め、これはファンならずとも痺れる演奏である。
またブレイキーはこうしたバラードにおいてもすばらしいサポートをするドラマーである。私たちはそのへんのプレイも聞き逃してはいけない。
このアルバムのハイライトは何といっても「A Night In Tunisia」である。10分近いこの熱演が私たちに新しい時代の到来を感じさせたのだ。デイジー・ガレスピーが作曲したこのエキゾチックな曲は、アート・ブレイキーとその仲間たちにとって最も自己表現しやすいメロディだったに違いない。事実、全員が火の玉のように燃え上がって演奏している様子が伝わってくる。特にラストの短いテーマ部分は震えがおきるくらいの出来映えだ。

以前、ブルーノート1500番台で一番早く購入したのがこのアルバム(Vol.1とVol.2)だとご紹介した。当時の私(学生の頃)にとってジャズは正にこのバードランドの夜の出来事が全てだった。このレコードは大音量でもう摺り切れるほど聴いた。そのせいで周りからよく「やかましい!」と叱られたものだ。そんなことを思い出しながらも、死ぬまで聴いてやるぞと決意を新たにしている。