ポピュラー音楽界にはどの時代にも最高のエンターティナーと呼ばれるスーパースターがいた。
30年代後期~40年代前期はビング・クロスビー、40年代後期~50年代前期はフランク・シナトラ、50年代後期はエルヴィス・プレスリー、60年代はビートルズといった具合だ。
こうした人たちの歌声は今私たちが聴いても少しも古びてはいない。
ナット・キング・コールも同様だ。時代的にはフランク・シナトラと被っているが、正に双璧といってもいいくらいの人気者だっだ。
ピアノの腕だって超一流で、それだけでも充分有名な存在になった人だろうと思う。事実彼の弾き語りスタイルはその後のミュージシャンに多大な影響を与え続けている。
但しポップス系の歌も多く、「あれっ、この人ジャズシンガーだったっけ?」と思う人もいるだろう。私も彼の歌声を聴いているとジャズを聴いているという感覚が薄れていくことに気づくことがある。要するに気楽なムード、リラックスできる甘さがジャズが持つ特有の苦みを消しているのである。
このアルバムは彼が発表した作品の中でもジャズアルバムの最高傑作として名高いものだ。
しかしこの作品でさえ、聴いているうちにポピュラーミュージックを聞く耳になっていくのがわかる。決して悪い意味ではないが、これが嫌だという人もいるだろう。それを否定はしないが、それがナット・キング・コールの真骨頂であり、この部分を外しては彼の偉大さが理解できないはずだ。
個人的には軽快な5曲目の「IT'S ONLY A PAPER MOON」、ゆったりした6曲目の「YOU'RE LOOKIN' AT ME」、むせかえるようなラテンムード漂う7曲目の「LONELY ONE」、この3曲が大好きだ。いつもこの3曲を聴いて満足している。
バックはスイング系の大ベテランで占められている。
吹き込まれたのは56年だが、これをモダンジャズといえるかどうかは微妙だ。これこそジャンルを超えた傑作なのかもしれない。ジャズファン以外の方にもお薦めしたい作品である。