SENTIMENTAL JAZZ DIARY

感傷的ジャズ日記 ~私のアルバムコレクションから~

CARMEN McRAE 「VELVET SOUL」

2011年07月11日 | Vocal

うまい!というのはこういう人を指すのだ。
エラにしてもサラにしてもあんまり大物すぎる?のであまり聴く機会もないのだが、カーメン・マクレエも久々に聴いてみるとやっぱり納得させられてしまう人の代表格だ。
まぁ、貫禄勝ちといった感じである。

クールなレイ・ブラウンのベースに乗って「Nice Work If You Get It」が始まる。その第一声を聴くだけで、こりゃあいいなぁ~、と実感すること請け合いだ。
このくらいのテンポ(ミディアムテンポ)が一番スイング感を感じる。
しかも歌詞の一音一音をはっきり発音しているせいか曖昧なところが一つもない。
そこに単音をくっきり出すジョー・パスのギターが絡むのだから、まるで絵に描いたような出来映えだ。

しかし、何といっても彼女の真骨頂はバラードである。
特に「Inside A Silent Tear」は私のお気に入りだ。
彼女の歌声は、まるで温かい海風が頬を撫でるように通り過ぎていく。
ギターとの絡みも抜群。
極端に感情を出すでもなく、かといって押さえすぎず、聴き手と絶妙な関係性を築いている。
こうしたところが「うまい!」といわせる要因だ。

アルバムも後半になるとずいぶんポップな感じになる。
ズート・シムズも登場し、いつになく爽やかテナーを披露する。
こちらも聴きごたえありだが、私はやはり4ビートの曲に魅力を感じる。
やっぱりこういう大物チームの演奏はど真ん中で聴きたいのだ。




PATTY McGOVERN 「WEDNESDAY'S CHILD」

2010年04月05日 | Vocal

この作品、ジャズヴォーカルのファンなら知らない人はいないだろう。
購買動機の半分以上はこのジャケットに違いない。
写っているのはパティ・マクガバンと、このアルバムのコンダクター兼アレンジャーであるトーマス・タルバートである。
逆光になっているため写りもそれほど良くないが、なぜか惹かれてしまう。
二人の立ちポーズが様になっているからかもしれない。
まるで名作映画のポスターのようだ。
パティ・マクガバンが何かをポツリと呟き、トーマス・タルバートが思わず視線を向ける。
そんなワンシーンのように感じるのである。
この何かを言いたげなトーマス・タルバートの姿が何とも粋で、それだけで酔ってしまいそうだ。
とにかくこのジャケットを見て何も感じられないようなら、ジャズファンの資格がない。
この味わいこそが50年代ジャズヴォーカルの魅力なのである。

こうした作品は雰囲気で聴く方がいい。
あまりディテールにはこだわらないことだ。
ひたすらパティ・マクガバンの清楚な歌声を楽しむのである。
とにかく丁寧に丁寧に歌っている彼女の姿が印象に残る。
それとバックに流れるフルートが全体のムードを高めていることにも注目したい。
この作品は、どの曲も聞きこめば聞き込むほどに味わいが出てくるのだが、私は個人的に「Lonely Town」で始まるB面が好きだ(CDなら7曲目以降)。
比較的曲の並びが自然で、すんなり入ってくる感じがするからである。
「ニューヨーク、ニューヨーク....」で始まる歌詞もジャケットの雰囲気にマッチしており、一気にその世界に引き込まれる快感が味わえる。
というわけで、これはジャズヴォーカルは何から入ればいいかという初心者にもお薦めできる盤だといえる。
理由は簡単。
視覚と聴覚、その両方をジャズ的に満足させてくれるからだ。




HALIE LOREN 「THEY OUGHTA WRITE A SONG...」

2010年02月01日 | Vocal

一瞬、どきりとするジャケット。
店頭で見つけたときは、ダ・ヴィンチの名画「岩窟の聖母」に描かれている天使を真っ先に思い出した(これ、ホントです)。
なかなかの美貌、カメラアングルである。帽子を被ってなければもっとよかった。

その場で試聴してみた。
最初のタイトル曲「THEY OUGHTA WRITE A SONG」を聴いただけですぐに購入を決めた。
こういうアルバムは、最初の印象、閃きが大事なのだ。
これは間違いなく自分好みだと判断した。

このタイトル曲はヘイリー・ローレンのオリジナルである。
彼女は静かなピアノとベースだけをバックに、感情を込めて切なく歌う。
それほど粘っこくもなく、さらりともし過ぎない、ちょっとだけセクシーで、ちょっとだけハスキー。
ファルセットすれすれのところで留まる声が特徴的だ。
特に歌詞の最後「They Oughta Write A Song...」ときて、「...About That」と付け足す部分が何ともいえず好きだ。

続く曲が「A Whiter Shade Of Pale」だから、これまた泣かせる。
この曲はプロコル・ハルムの「青い影」である。
私の大好きなアラン・パスクァの「ボディ・アンド・ソウル」にも入っていた往年のロックの名曲だ。
こういう曲を挟むところにも彼女のセンスの良さを感じる。
これはますます私好みである。

だいたい私はこんなおとなしめのピアノトリオをバックに、しっとり歌う女性が好きだ。
歌唱力があるのをいいことに、やたらと声を張り上げ、元気ばかりを振りまくヴォーカリストに魅力を感じない。
胸の奥にじわ~っと染み込んでくる感じがなければ聴く気にもならないのである。
そんな点からもヘイリー・ローレン、今後の大注目株といっていい。

BEVERLY KENNY 「Snuggled On Your Shoulder」

2009年12月19日 | Vocal

可愛らしさの代名詞みたいな人だ。
おそらく多くのジャズファンがそう思っているに違いない。
6枚の作品を残して1960年に自殺したビヴァリー・ケニー。
このアルバムは、そんな彼女がデビューする前に録られたデモ録音(1954年頃)を音源としている。
トニー・タンブレロのピアノをバックに、淡々と話しかけてくるように歌っているのが印象的だ。
これを聴いていてつくづく思うのだが、彼女の魅力は、何だかとても身近な人に感じられるところだと思う。
この感覚をどう表現していいか悩むのだが、多くのジャズヴォーカリストは、一般人の生活とはかけ離れた世界にいるのに比べて、彼女は極々近い友人や恋人のような存在に思えてくるのである。
特に5曲目の「Can't Get Out Of This Mood」の歌い出しでミスをし、ハハッと笑って歌い直すシーンは何度聴いても愛らしく、まるでその瞬間、彼女と見つめ合えたような気にさせられるからたまらない。
ファンならずとも男なら誰でもノックアウトされること間違いなしだ。

この作品はご覧の通り、ジャケットもなかなかおしゃれである。
ビヴァリーらしさが上手く出ており、これだけでも欲しくなるアルバムだ。
すでに発売されている6枚の作品のジャケットはというと、どれもこれもいただけないものが多い。
一番出来のいい「Born To Be Blue」にしても、ソファーにもたれかかった姿はゴージャズ過ぎてどうも彼女らしくない。
彼女はこのアルバムのように普段着姿がいいのだ。
要するに飾らない、構えない姿が、彼女の魅力だということなのである。
翌年に発売されたもう一つの未発表音源盤「Lonely And Bule」のジャケットもなかなかよかったが、私はこちらの「Snuggled On Your Shoulder」が気に入っている。
この写真一枚で、彼女の全てがわかるといってもいいような気がしているのだ。

そんな風に見ていると、女性に限らず、私たちは大切な人の仕草やポーズをしっかり一枚の写真に残しておくべきだと思う。
きれいかどうかなどということは関係ない。どれだけ自然な形でその人を表現できるかが重要なのだ。
ビヴァリー・ケニーの場合は、この一枚があって幸せだ。





HELEN MERRILL 「helen merrill」

2009年11月07日 | Vocal

ジャズ入門盤として必ず十指に入る名作である。
これじゃあヘレン・メリルの美貌が台無しだとして、このジャケットが嫌いだという人も多いようだが、私は好きだ。
少なくともクリス・コナーやアニタ・オディのように、大口を開けて歌っているジャケットと比べたらこちらの方が遙かに魅力的だ。
だいたいボーカリストは歌っている姿が生命線。それをどう撮すかはとても大事なことのはずだ。
そういう意味でもこのジャケットは、彼女の感情が高まった一瞬を見事に捉えている。
このアルバムが大ヒットしたのも、このジャケットが大きく関与していると思いたい。
少なくとも私はそう信じている。

この作品が吹き込まれた1954年、当のヘレン・メリルが24歳、脇役として最高の吹奏を見せるクリフォード・ブラウンもまた24歳。アレンジを担当したクインシー・ジョーンズに至っては若干21歳だ。
この若さでこの完成度、この成熟度は正に奇跡的だ。
特にクインシー・ジョーンズの実力は計り知れないものがある。
私が彼のファンになったのは、このアルバムとナナ・ムスクーリの「イン・ニューヨーク」を知ってからだ。
彼は聴く者のハートを射止めるのが実に上手い。
彼のアレンジのうまさを一言でいってしまうと、一つ一つの間の取り方に絶妙なタメを作れることにあるのではないだろうか。
この「間」のお陰で、それぞれの楽器やボーカルがドラマチックに浮かび上がるのである。

そんなことを考えながら、今日はこのアルバムを聴いてみる。
有名な「You'd Be So Nice to Come Home To」はもちろんいいが、5曲目の「Yesterdays」が私のお気に入りだ。
クリフォード・ブラウンの短くも哀愁漂うイントロを皮切りに、ゆったりとしたヘレン・メリルのハスキーな歌声が部屋中を包み込む。やがてシングルトーンの優しい静かなピアノが遠くから聞こえてきて、ここぞというタイミングでクリフォードがトランペットで歌い出す、といった構成である。
初めて聴いた時から既に数十年経っているが、未だに魅了されっぱなしだ。
死ぬまで聴き続けるであろう名盤である。



BILLIE HOLIDAY 「Songs for Distingue Lovers」

2009年09月15日 | Vocal

ビリー・ホリディは別格だ。
好きとか嫌いとか、いいとか悪いとかいう以前の存在なのだ。
しかし、だからといって聴く前から冷めてしまうのはいかにも危険だし、何より彼女がかわいそうだ。
今夜はいらぬ先入観を捨てて、じっくり聴いてやろうと思いこのレコードを取り出した。

これはビリー・ホリディ晩年の作品である。
既に若い頃の澄んだ声ではなくなってしまっているが、彼女の持つ一種独特な説得力は少しも衰えていない。
それどころか意外と素直に明るく振る舞っているようで、どことなくお茶目でもある。
気がつけば、バーニー・ケッセルのギターやジミー・ロウルズのピアノもケラケラ笑っているし、ハリー・エディスンやベン・ウェブスターも肩の力が抜けている。
特にベン・ウェブスターが吹くテナーは、ファンならずとも聴く価値が十分にあると思う。
彼の魅力はこうしたタメの効いたバラードフレーズで最高潮に達する。
そんなバックの好演にも助けられたか、ビリー・ホリディは実に気持ちよく歌っており、どの曲も味わい深くムード満点だ。

彼女の歌声を聴いていると、渇いた土の匂いがしてくる。
アメリカ南西部の田舎町のそれだ。
砂埃が風に舞って通りを横切るように、彼女の歌が行ったり来たりを繰り返す。
そこにはどこか日本の演歌にも通ずる郷愁が漂ってくる。
演歌が好きな人は、この侘びしさや哀愁感がたまらないのだろう。
アメリカ人も、彼女の歌からきっと私たちにはわからない匂いを嗅ぎ取っているのではないかと思う。
そんなことを思いつつ、一気に最後まで聴き通した。
また最初から聴きたいという思いが募った。
こんなことは最近あんまりないなぁと思いつつ、もう一度針を乗せた。







JANET SEIDEL 「SMILE」

2009年08月25日 | Vocal

さらりとした歌声がさわやかだ。
ジャズ・ヴォーカルというと、ねちっこくて絞り出すような歌い方をする人が多い。
一時代前の黒人ヴォーカリストなんかがその典型だ。
もちろんそれはそれで悪くないのだが、こんな生野菜をかじった時のような新鮮さは味わえない。

昨日は車で約3時間かけてお隣の県に出かけてきた。
お天気は最高。日差しは眩しいがぜんぜん暑くない。
カーオーディオからは、このジャネット・サイデルの歌が流れている。
道が川に沿って大きくカーブする辺りで、私が好きな「Rockin' Chair」がかかった。
ハーモニカの音色が牧歌的なムードを漂わせてくれ、身体が徐々にカントリータッチに染まっていくのが嬉しい。
そう、何を隠そう、私はカントリーウエスタンの曲もよく聴く人間なのだ。
特にこんなからりと晴れ上がった日は、カントリーミュージックがよく似合う。
事実、昨日もリアン・ライムスとこのアルバムを交互に聴いていた。
ジャネット・サイデルが性に合うのは、こういうカントリーのいいところをうまくジャズに昇華させているところだと思っている。
どの曲を聴いても懐かしさと澄んだ空気を味わえる人なのだ。

車はやがて山を抜けて広い田園地帯に入った。
かつて旅行家のイザベラ・バードがこの田園風景を見て、「東洋のアルカディア」だといった場所がここだ。
田圃はやや黄色みを帯びてきてはいるがまだ充分に青い。
そこに陽が当たって、きらきらと輝いていた。
私はエアコンのスイッチを切って、窓を全開にした。
秋の匂いが涼風と共に思いっきり入り込んできた。

EDEN ATWOOD 「Waves」

2009年07月24日 | Vocal

イーデン・アトウッド、お気に入りのボーカリストである。
私が知る中で、彼女以上にきれいな人はいない(もっとも実際の彼女は知らないが...)。
このアルバムジャケットの裏表紙には、黒いドレスを着て椅子の肘掛けに腰掛け、膝に手を当てている彼女の姿が写っているが、顔立ちといいそのスタイルといい、まぁいうなればパーフェクトな人である。
これを見れば男性はもちろん、女性だって誰しもが憧れるはずだ。
聞くところによると当の本人はいろいろと苦労した人らしいが、外見だけは同じ人間としてちょっと不公平だな、なんて思ってしまう。

それはそうと私が気に入っているのは、何もその美貌だけではない。
こうしたアイドル的な雰囲気とは裏腹に、彼女は実に歌が上手いのである。
とにかく歌い方に説得力がある。
ささやきかけてくるその声が真実みを帯びているといってもいい。
聴く者に向かって「本心からそう思っている」といった歌い方だ。私はこういう歌い方に弱い。
声質はどうかといえば、適度にハスキーな声をしている。
もし彼女の姿を知らないでこの声だけを聞いていたとしたら、ひょっとすると若い黒人歌手ではないかと疑うところだ。

このアルバムはボサノヴァのスタンダード集だが、全体に落ちついた印象があって大人のムード満点だ。
特に夏の愁いを帯びた「Meditation」や「Once Upon A Summertime」が個人的なお薦めである。
こんな演奏を間近で聴いてみたい。
伴奏のピアノもベースも寄り添うようにメロディを奏でており、彼女とのコンビネーションも抜群だ。
ただ彼女のアルバムは、CDにも関わらずどれもこれも高値がついていてなかなか手に入らない。
美女にはそう簡単に近づくなということか。

DINAH SHORE 「Bouquet of Blues」

2009年05月28日 | Vocal

私が持っているレコードコレクションの中でもこれは宝物の一枚だ。
みんなが寝静まった夜に、部屋にこもって一人こっそりこれを聴く。
何だかそんな聴き方が一番似合っているようなレコードなのだ。

ダイナ・ショアは実に上手いシンガーだ。
何というかさりげなく、それでいてゴージャズな雰囲気を漂よわせる名人である。
最近のクセのあるシンガーばかり聴いていると、こういった歌い手の凄さを実感してしまう。
声質や節回しに頼らない人こそ本物なのだ。

とにかく1曲目の「Bouquet of Blues(ブルースの花束)」からして泣けてくる。彼女の声の何と素直なことか。
それとリードをとるハーモニカが切ないこと、切ないこと。胸が締め付けられるようだ。
またひたひたと響く足音もムードを盛り上げている。
よく聞けばこの足音はハイヒールのようだ。彼女が雨に濡れた歩道を歌いながら歩いているような気になってくる。
まるで映画を観ているような臨場感に、思わず引き込まれてしまうのは私だけではないだろう。

このアルバムはこれ1曲だけ聴いて止めてもいいのだが、続く2曲目の「Good For Nothin Joe」、5曲目の「Lonsome Gal」もなかなかの出来だ。
これだけハートウォームな気持ちになれる作品も少ない。
このアルバムでは、純粋なこってりブルースよりも、こういったある意味淡泊な曲が光っているように思う。特にA面がいい。

今夜は手元に陶器のカップがあって、ビール片手に聴いている。
本当はカクテルなんかがいいんだけどね。

JOANIE SOMMERS 「SOFTLY, THE BRAZILIAN SOUND」

2009年04月13日 | Vocal

ボサノヴァの季節がやってきた。
前にも似たようなことを書いたが、ボサノヴァが似合う季節は絶対に4月~5月だと思う。
夏になる一歩手前、暖房も冷房もいらない時期ということだ。
部屋中の窓を開け放つとさわやかな風が通り抜ける。そんな風に乗って、アコースティックギターやマラカスの音色が行ったり来たりするのが快感なのである。

ボサノヴァを歌う女性歌手といえば、何といってもアストラッド・ジルベルトが最初に思い浮かぶのだが、このジェニー・ソマーズの歌声もたいへんすばらしい。
何がいいかって、まず声質がチャーミングだし、歌い方にも妙なクセがなく実に素直だ。
大体にしてボサノヴァはいかに自然体であるかが重要なのだ。だってやさしい風に乗らなければいけないからである。
声にやたらと強弱があったり清濁があったりしたら、さわやかな風と同化できない。このへんがボサノヴァを歌う上での微妙なテクニックになるのではないだろうか。
その点においてアストラッド・ジルベルトとジェニー・ソマーズは共通点が多い。

このアルバムがいいのは、ジャケットにもあるように本場ブラジルの名手、ローリンド・アルメイダが全面協力しているからでもある。
彼のギターはどの曲でも控え目にムードを盛り上げてくれる。
ナイロン弦を指で弾く音が常に一定のリズムをつくり出し、そこにストリングスが絡んでくると、ものすごくシンプルな世界であるにもかかわらず、様々な感情が沸き上がってくるのを実感できる。
これがボサノヴァの素敵なところなのだと思う。


一昨日近くの高原の芝生に寝ころんで思いっきり新鮮な空気を吸った。
辺りはまだ雪が残る場所ではあったが、風は暖かく、少しも寒さを感じなかった。
まさにこのジェニー・ソマーズの歌声のような風だった。