SENTIMENTAL JAZZ DIARY

感傷的ジャズ日記 ~私のアルバムコレクションから~

JOE BECK 「Brazilian Dreamin'」

2009年06月25日 | Guiter

いよいよ夏だ~!
というわけで何とも涼しげなサウンドをご紹介する。
ジョー・ベックの「ブラジリアン・ドリーミン」だ。
1曲目の「Vivo Sonhando(邦題:夢見る人生)」のイントロを聴いただけで、体感温度が2~3度は下がるような気がするから、この季節には重宝するアルバムである。
それにしてもこのボサノヴァのリズムは本当に気持ちがいい。
普通ならこういうボサノヴァはアコースティック・ギターで演奏されることが一般的だが、ここではエレクトリック・ギターで演奏されている。
これが思いのほかしっとりしていて、ウォータージェルのように潤いたっぷりなのである。
この曲を作曲したのは、もちろんアントニオ・カルロス・ジョビン。
彼ならではの名調子である。

このアルバムで驚いたのは、コルトレーンの「ジャイアント・ステップス」を演っていることだ。
あのシーツ・オブ・サウンドで有名な暑苦しいこの曲が、ボサノヴァ・タッチで実に涼しげに演奏されている。
よく聴いていないと原曲を思い出せないくらいの変身ぶりだが、そこにこのジョー・ベックの力量を感じる。
要するに優れたミュージシャンとは、上辺の既成概念を超えて表現できる人たちなのだ。

ジョー・ベックはマイルスが初めて起用したエレクトリック・ギタリストでもある。
どちらかというとフュージョンの世界で活躍した人だが、一連のヴィーナスレーベル作品を聴く限りにおいては、かなり守備範囲の広い人という印象が強くなった。
ただ残念ながら、この人も昨年の夏に肺ガンで亡くなった。
何となくではあるが、これからストレートジャズの分野で一花咲かせそうな勢いを感じていただけに惜しい気がする。
しかし彼の残した作品は、これからもいろいろな人に聴き継がれていくはず。
ご冥福を祈りたい。

SLIDING HAMMERS「Sings」

2009年06月21日 | Trombone

歌は決して上手くない。
わざと下手に歌ってるような気さえする。
でもムードは満点。聴かせ方・酔わせ方の勝利だと思う。
とにかく細かいことは言わないで、雰囲気で聴く一枚なのだ。

ミミ・ハマーとカリン・ハマーのこのトロンボーン姉妹は、今巷で大人気である。
いつもはダブル・トロンボーンで聴かせているのだが、今回はちょっと違った。
ミミ・ハマーの手にはトロンボーンではなく、マイクが握られている。つまり今回は全曲ヴォーカルに専念しているというわけだ。
お得意のトロンボーンはカリン・ハマーだけが担当しており、全体にしっとりと仕上がった。
遠くで谺のように響くトロンボーンと、耳元で囁くようなヴォーカルの対比にうっとりしてしまう。

いいのはこの2人だけではなく、ピアノにマティアス・アルゴットソンを起用している点にもある。
このマティアス・アルゴットソンは以前にもこのブログでご紹介したが、やはりただ者ではなかった。
歌の合間に入る短いフレーズが実に品がよく、全体をいい感じにスウィングさせている。

2曲目にビートルズの「Eleanor Rigby」を演っている。
私はビートルズのカヴァー曲は総じて好きではない。
しかしこれは例外的にいい。
ミミ・ハマーはやや押さえた歌い方で曲のムードを盛り上げているし、カリン・ハマーのトロンボーンも実に力強い。

聴いていると幸せになれる、これはそんなアルバムだ。

LOUIS ARMSTRONG 「PLAYS W.C.HANDY」

2009年06月13日 | Trumpet/Cornett

私がブルースを最初に意識したのはBBキングであり、エリック・クラプトンだった。
もちろんその頃はジャズには興味もなかった。
一人部屋にいて、彼らのギターテクニックを必死にコピーし、キュイ~ンと毎日チョーキングしながら遊んでいた。
またラグタイムギターも下手なりによく弾いていた。
一人でも何とか様になるのがブルースだった。

ジャズを聴くようになってブルースを意識したのは、ケニー・バレルであり、スタンレー・タレンタイン辺りだったろうか。
こういう表現の仕方もありなんだな、とぼんやり考えていた。
もちろんこの頃になると、ほとんどのジャズメンの底辺にブルースが流れていることは理解していたし、どうやらブルースは私が好きな音楽における全ての源流らしいということにも薄々気づいていた。

で、このレコードの登場だ。
これはルイ・アームストロングという、ジャズ史における最大のスーパースターが、ブルースの父と呼ばれたW.C.HANDY(William Christopher Handy )の曲を取り上げた傑作である。
W.C.ハンディは1914年、40歳の時にセントルイス・ブルースを作った。
ストラヴィンスキーもこの曲にはずいぶん刺激を受けたといっているから、その影響力やすさまじいものがある。
その後、多くのアーチストがこの曲を演奏したが、ハンディに最高だと言わしめたのが、ここでのルイ・アームストロングであった。
確かに何度聴いてもすばらしい。
陽気なようでいて、後を引く一抹の寂しさ、こみ上げてくる勇気。この演奏からはそんな様々な感情がわき上がってくる。
ヴェルマ・ミドルマンとサッチモのヴォーカルによる対比も見事である。
今となっては、これこそ本物のブルースなのだと思わずにはいられない。
これがジャンルを超えた基本中の基本なのだ。

JOHN HICKS 「Beyond Expectations」

2009年06月09日 | Piano/keyboard

「Every Time We Say Goodbye」、このバラードが大好きだ。
今夜は静かにジョン・ヒックスが奏でるピアノに聴き入っている。
心休まるひとときだ。
後半になると音数がやや多くなってくる。
これもジョン・ヒックスならではだが、それは彼特有のセンチメンタリズムなのだ。
今回はそれが嫌みにならない。
いつもこうならいいのに....と思う。

このアルバムに好感が持てるのは、そうしたジョン・ヒックスの好調さにもあるのだが、何より音のバランスのいいことが一番の要因になっている。
それもそのはず、このアルバムもRVGの録音だ。
ピアノの音色はエッジが丸く、暖かい。
ベースは硬質ゴムのようにボンボンと跳ねる感じが何とも心地いいし、シンバルはシャキーンと研ぎ澄まされていて鮮烈だ。
こうした音の重なりを聴いていると、やっぱり良質なジャズは演奏テクニックだけでは生まれないことを実感する。

コーヒーを一杯飲む間に、曲は「Up Jumped Spring」という曲に変わった。
フレディ・ハバードの名曲だ。
この可愛らしいメロディが、いかにも春の喜びに満ちている。
こうした曲を取り上げるジョン・ヒックスもまた心優しい人だったのだろう。
彼は2006年に亡くなった。
一度くらいは彼のステージを観たかった。


JULIAN PRIESTER 「Keep Swingin'」

2009年06月06日 | Trombone

隠れた名盤として長年に渡って珍重されてきた作品である。
私は古いジャズも新しいジャズも分け隔てなく聴きあさっているが、どちらかといわれれば古いジャズが好きだ。
新しいジャズは、総じて手に入れた一定期間しか聴かず棚の中に眠ってしまう場合が多い。
しかし古いジャズは幾度となくターンテーブルに乗せられる。
まぁ、何百、何千というレコードの中から生き残ったアルバムだからそれも当然ではあるのだが...。

このアルバムなんかはヘビー・ローテーションの典型例だ。
まず出だしがいい。
サム・ジョーンズのクールなベースソロでスタートする「24-Hour Leave」が、まさに隠れたハードバップの名曲だ。
エルヴィン・ジョーンズの叩き出すリズムに乗って、息のあった演奏が繰り広げられる。
続く「The End」「1239A」「Just Friends」「Bob T's Blues」も文句なしに楽しい。
ジュリアン・プリースターのトロンボーンは夜空に向かって高らかに鳴り響く感じだし、名作には必ず登場するトミー・フラナガン(p)も絶好調だ。
またジミー・ヒースのテナーもトロンボーンとの対比がうまくなされており、気持ちいい音色を響かせている。

それにしてもトロンボーンは不思議な楽器だ。
ワン・ホーンで歌い上げるととても暖かみがありほのぼのとしてくるのだが、ひとたびテナーとハーモニーを奏でると、緊張感が高まってハードボイルドな雰囲気をつくり出す。コルトレーンの「ブルートレイン」なんかをイメージしてくれればわかると思う。
このアルバムではその両方が楽しめる。
それもそのはず、ジミー・ヒースは8曲中5曲でしか参加しておらず、それ以外はジュリアン・プリースターのワン・ホーン作品なのだ。
結果的に厚みのある作品に仕上がった。
通好みの作品である。


DUSKO GOYKOVICH 「TEN TO TWO BLUES」

2009年06月01日 | Trumpet/Cornett

文句なしの人気盤である。
原盤はEnjaかと思いきや、スペインのEnsayoというレーベルだ。
ジャケットにもしっかりその旨がプリントされている。
このジャケットは「After Hours」として出されていたアルバムのオリジナルであるが、中身のイメージとはかけ離れているように感じる。
中身はもっと明るく溌剌としている印象があって、決してこんなおとなしいムードではない。
制作者の意図もわからぬではないが、オリジナルが全ていいわけではないということの証明である。

曲順もオリジナルでは「LAST MINUTE BLUES」がラストに配置されているが、これが最初に来るのとラストに来るのではかなり印象が違う(通称「After Hours」ではトップに配置されている)。
この曲は主役のダスコ・ゴイコビッチがトップを飾ってストレートに吹きまくっているが、その後に続くテテ・モントリュー(p)、ロブ・ランゲレイス(b)、ジョー・ナイ(ds)のリズム隊が、ゴイコビッチのトランペットを消し去るかのごとき熱演をしている。まさに鬼気迫る勢いだ。
これは確かにすごい。この1曲だけでも買う価値があるが、アルバム全体を通してみてみるとこれは明らかに異質だ。
だから私はこの曲をラストに配置しているオリジナルの方が、どちらかといえば無難だと思っている。
ただ、この曲を聴いたホルスト・ウェーバー(Enjaの創始者)が、感激のあまり、これを一番いいところに持ってきたのではないかと勝手に思っているのだが、これは私の単なる深読だろうか。

このアルバムには他にも優れたナンバーが何曲も入っている。
哀愁漂うメロディの「Old Fisherman's Daughter」もさることながら、私は彼のオリジナルナンバーである「Remember those days」がベストだと思っている。
このジャケットに合うのはこの曲くらいである。
とにかく音の色艶が抜群にいい。こんな演奏を間近で聴いたらとろけてしまいそうだ。
トランペットの魅力満載の一枚である。