これは大推薦のピアノトリオだ。
1992年の録音だから決して新しいものではないが、以前から評判が高かったアルバムだったにも関わらず、絶対数が少なかったことと、それまでのジャケットに今ひとつ品がなかったため(だと思う)、いつしか市場からぱったりと消えてしまい、マニアの間では幻の名盤に数えられていた作品だ。
それが2007年になって、装いも新たに再発されたのが本盤である。
ジャケットが替わるだけで、こうもイメージが違うものかとただただ驚くばかり。
以前は紅葉した葉っぱで埋めつくされていたようなジャケットで、タイトルも安っぽい手書き風のものだった。
そのジャケットでこの演奏内容を想像することは難しい。中身はもっと穏やかで品のある演奏なのだ。
今回新たにつくられたジャケットが必ずしもすばらしいというわけではないが、前回のジャケットの雰囲気を踏襲しつつ、かなり中の演奏をイメージできるようになった。
私はこういうことが大事なんだと思う。つまりジャケットも演奏も録音も一体となった作品が望ましいと考えているのだ。
ユージン・マスロフはロシア生まれのピアニストである。
出すアルバムはどれもこれも質が高いものだ。まぁ通好みの人といっていい。
この人からは、まるでどでかいスピーカーのようなキャパを感じる。要するに生み出す音の広がりや余裕が、半端なピアニストとまるで違うのである。
ピアノタッチが柔らかいというのもその要因の一つかもしれない。
それとこのアルバムは録音のバランスがソフトでとてもいい。
気持ちよく伸びるベースと、やや奥に配置されたピアノとドラムスが、このジャケットにあるような静けさや侘びしさを盛り上げてくれる。
洗練されたジャズというのはこういうピアノトリオのことを差すのかもしれない。
今日のようなどんよりとした曇り空には、こういうジャズが似合っている。
静かな休日の朝である。