SENTIMENTAL JAZZ DIARY

感傷的ジャズ日記 ~私のアルバムコレクションから~

JEAN THIELEMANS 「MAN BITES HARMONICA」

2007年06月19日 | Other

最初にジャン・シールマンスと聞いて「あれ?」と思った人も多いだろう。
このアルバムにはトゥーツ・シールマンスとはどこにも明記されていない。そう、この時代の彼はまだハーモニカを吹き始めた頃で、彼自身も自分は純粋なギタリストだと思っていたのだ。
しかし彼のハーモニカに魅了された多くの人(クインシー・ジョーンズなど)によって、彼自身が自分の才能に気づいたのだと思う。
トゥーツという名前はそんな優しいハーモニカの音色をそのまま愛称にしたものである。これで彼の生き方が決まった。

ハーモニカという楽器は実になじみが深い。
トランペットやサックスを吹いたことのない人でも、ハーモニカなら一度は口にくわえて吹いたことがあるはずだ。
あの懐かしい音色は郷愁を誘う。放課後の校庭が夕暮れに染まる頃、どこからともなく静かに流れてくるのが似合っているからだ。
そんな誰の思い出にも共通して存在する楽器がハーモニカなのである。
しかしこれがモダンジャズに結びつこうとは誰も考えなかった。1950年代のアメリカも同じである。彼自身も最初は半信半疑だったに違いない。だがシールマンスは試してみたのだと思う。この楽器をサックスのように、或いはフルートのように吹いたらどうなるかを。結果は満足のいくものだった。ちゃんと思い通りのジャズになっていたのである。しかもどんな楽器のようにも聞こえるし、どんな楽器にも出せない音を創り出せた。

彼を追従しようとするミュージシャンは数少ない。だからこそ彼の偉大さが浮き彫りになる。正にオンリーワンの世界だ。
このアルバムでは、ペッパー・アダムスの重いバリトンサックスがいい対比を生み出している。
比べてみてわかるのだが、シールマンスのハーモニカは明らかにホーンである。だからアンサンブルもピタリと決まるのだ。