デューク・ピアソン、こういう人のコメントが一番難しい。
彼は歴史的な名盤を残したわけでもないし、彼の周りに特筆するような大事件があったわけでもない。
しかし棚に並んでいるジャケットを見るたびに、何となく「今日も聴いてみようかな」という気にさせる人なのだ。つまり普通にいいピアニストなわけで、最近の商業主義に染まったピアノトリオを聴くよりも絶対的な安心感があるのは事実である。
ジャズファンというのはこのくらいの人を一番に愛する人種なのだと思う。
このニュアンスがわかってもらえるだろうか。要するに地味ではあるが隠れた実力者を愛するのが真のジャズファンなのだ。
ただ彼を聴いてみようかなと思った時は、「彼のあの曲」といった感じではなく、アルバム全体の雰囲気を楽しみたいと思うことが多い。そこで今日はじっくりと最初からこのアルバムを聴いてみることにした。
メンバーはピアソンの他に、ジーン・テイラー(b)、レックス・ハンフリーズ(ds)である。う~ん、地味だ。しかし音楽は人ではない。スタープレイヤーがいないからといって侮ってはいけない。
何曲か聴いているうちにこのアルバムは選曲がとてもいいことに気づいた。
ブルージーな「Bluebird of happiness」や「3a.m.」、哀愁漂う「I'm a fool to want you」、クラシカルな雰囲気の「Golden striker」などどれをとっても一級品だ。ただそれにも増して白眉なのが「On green dolphin street」である。この曲はジャズメンなら必ず演奏しているであろう程の名曲だが、ここでのピアソンの演奏は5本の指に入る傑作だと思う。今度からはこの曲を中心に聴こうと決めた。
彼のピアノは、時折レッド・ガーランドのようにもウィントン・ケリーのようにも聞こえる。彼らのいいところを全て持ち合わせた人なのかもしれない。
だんだんこのアルバムが大名盤のように思えてきた。