これはもう極上の作品だ。
ヒューストン・パーソンが長年つきあったエッタ・ジョーンズに捧げたもので、彼の思いが痛いほど伝わってくる。
この二人のコンビは60年代後半から彼女が亡くなる最近まで続いていた。
彼女のアルバム「Don't Go to Strangers」なんかは息の合った二人の名演が忘れられない作品だ。
ここでのメンバーもエッタ・ジョーンズと組んでいたときと同じで、スタン・ホープのピアノもポール・ボレンバックのギターも、パーソンのサックス同様に美しく、悲しみをこらえて演奏しているように聞こえる。
それにしてもパーソンのサックスは恐ろしくムーディだ。
バックもエンジニアのヴァン・ゲルダーもそれを引き立てようと精一杯の配慮をしているのがよくわかる。ただチップ・ホワイトのシンバルだけが全編に渡って強調されている。まるで夜空に響き渡るようだ。ここにもヴァン・ゲルダーの意図を感じる。人によっては好き嫌いが分かれるところだろうが、私には高音をしっかり拾うことで広がりを出し、よりパーソンのテナーの音色を柔らかくしようとしているように聞こえる。
私は誰それの追悼アルバムというのは、正直言ってあまり好きではない。
深刻でおセンチな雰囲気が嫌いなのだ。
しかしこのアルバムは私が言うほど暗くも深刻でもない。ヒューストン・パーソンは、亡くなったエッタ・ジョーンズに対して悲しく「なぜ?」と聞かずに、笑顔で「ありがとう」と言っているのだ。
ルイ・アームストロングの名曲「What a wonderful world」を聴けばわかる。この曲はこのアルバムのハイライトであり、彼の生涯の名演である。
だから余計に涙が溢れてしまうのだ。