SENTIMENTAL JAZZ DIARY

感傷的ジャズ日記 ~私のアルバムコレクションから~

TOMMY FLANAGAN 「SEA CHANGES」

2007年06月09日 | Piano/keyboard

トミー・フラナガンは名手という言葉がぴったりする人だ。
彼の演奏スタイルからはそれほど大きな特徴らしきものを感じないのに、存在感は誰にも負けないものがある。
彼の弾き方はウィントン・ケリーやバリー・ハリスらと同様にバップスタイルをベースとしているが、ある意味品のないケリーやハリスに比べると気品に満ちていた。それは癖のないなめらかさからきているのだろうと思うが、バド・パウエルを濾過させたような弾き方だいうとわかってもらえるかもしれない。
彼の参加した作品がことごとく名盤になっていくのは、そうした透き通った美しさが主役を引き立てるからなのだ。

彼の実力は脇役に徹したときだけに発揮されたのではない。
初リーダー作である「オーバー・シーズ」がその証である。このアルバムは確かにすごかった。エルヴィン・ジョーンズのすさまじいブラシに引っ張られてフラナガンが溌剌としたプレイを見せている。一頃は幻の名盤の筆頭に挙げられており、手に入れることが難しかった時代もあった。
しかしフラナガンにとっては、そのアルバムを超えることが生涯最大の難関になっていたに違いない。
事実、「オーバー・シーズ」の続編を作ろうと何度持ちかけられてもかたくなに拒んできたようだから、その思いはかなりのものだったようだ。
このアルバム「SEA CHANGES」は、そんな彼がようやく重い腰を上げて取り組んだ「オーバー・シーズ」の続編ともいえる海をテーマとした作品だ。タイトルだけを見れば、バド・パウエルの名作「シーン・チェンジズ」にも似ているので、そうした意識もどこかにあったのかもしれない。
内容はというと彼独特の洗練された音世界が拡がっていて、これならどなたにも安心してお薦めできる。

ジャズは思いっきり癖のあるプレイヤーが常に人気の中心にいるのが普通だが、唯一例外なのがこの人トミー・フラナガンだ。
彼はジャズを品のある音楽にしてくれた最大の功労者なのである。