三月の初旬は萌える新緑には早いし花もこれから。
中途半端でちょっと地味な季節といえる。
おかげで観光客も少ないのでマイペースで静かな観音めぐりができる。
■金剛輪寺
西明寺から3キロ、湖東山三の2番目のお寺、金剛輪寺に到着。時間は午前11時半。
山門を入り、ゆるやかな石段をのぼっていくと受付所。
600円を払って先に進む。
日本庭園を拝観し、本堂へ。鎌倉期和様建造物の代表例として本堂(大悲閣)は国宝指定されている。
ご多分にもれず、この寺も織田信長による焼き討ちにあうが本堂、三重塔は難を逃れ、700年を超えて今の姿がある。
本堂内はひんやりした気が漂い、ふた抱えもある太い柱が堂を支える。
後陣にまわると重要文化財の仏像が建ち並んでいる。
とりわけ十一面観音立像は何度も見入ってしまった。
やさしい慈悲にみちた顔である。
堂内はもちろん撮影禁止である。なので、あちこちの寺巡りをしていると、どの寺がどんな様子だったか正確には思い出せなくなってしまう。
それでも、金剛輪寺の十一面観音立像は印象深く心に残った。
■百済寺
びわ湖の東側の山中にある天台の三ケ寺、西明寺、金剛輪寺、百済寺は「湖東三山」を呼ばれ、なかでも最古の寺が百済寺である。
1400年前の飛鳥時代、聖徳太子の発願によって建立されたという古刹である。
喜見院の庭園を愛でたあと、ゆるやかに続く石段を進むとやがて仁王門。大きな草鞋が両側にかかっている。
金剛力士像に挨拶し、さらに歩を進める。
ここは森の中。小鳥のさえずりが絶えず聞こえ、思わず佇んで聴き入ってしまう。木立の向こうで何か動くものがいる。
野生の猿だ。5~6頭いる。小猿もいるのできっと家族だろう。
「仁王門をくぐると、まるで空中に浮かんでいるかのように現れる」(五木寛之)という本堂。
実際に下から見上げるとこれは少しオーバーな表現だなと分かる。
他の寺と違ってここの本堂には寺の関係者がいない。無人ということ。
堂内には秘仏の十一面観音立像に代わって如意輪観音菩薩半跏思惟像二体が出迎えてくれる。
ライトアップされた菩薩像はなかなかになまめかしい。
親切なことに双眼鏡も用意されていて堂内の奥を眺めることができる。
百済寺の最盛期は三百余坊といわれるほどの僧坊を擁し、壮大な大寺院であった。
しかし、1573年、織田信長によって全山を焼かれ伽藍や寺宝を失い、ついに廃寺に追い込まれる。その後、1650年に本堂、仁王門、山門が再建され、今日に至っている。
近江地方は奥深い歴史が刻まれている。