韓国飲み屋事情～観光キーセン

　赴任して一年ぐらい経ったころでしょうか，会社に一通の招待状が来ました。飲み屋からです。

　（また漢南洞の駐在員クラブからかな）

と思ったら，珍しく梨泰院。ボトルが一本サービスということで，行ってみました。

　すると，店内の雰囲気もシステムもほとんど駐在員クラブと同じ。客は１００％日本人。出てきたチーママの説明によると，これまで日本人観光客相手でやっていたが，平日の客入りが悪くてソウル在住の駐在員にも来てもらおうと思い，駐在員名簿を入手して招待状を送ったとのこと。チーママは，最近まで漢南洞の駐在員クラブで働いていて，最近こちらの店に移ってきたそうです。

　アガシたちの年齢がやや高めかなという気はしましたが，飲み代は３０％ほど安い。また，一人で行っても１０万ウォン台で飲めるというのが魅力で，ときどき行くようになりました。

　しばらくして，ちょっと変わったことに気づきました。

　週末に遭遇する光景。団体の日本人のお客さんが入ってくる。ビールを一杯ずつ飲んだかと思うと，全員でどこかへ消える。１０分ほどして全員戻ってくるのですが，今度は各自それぞれアガシを連れている。そして，３０分ほどまたビールなどを飲んで，歌も歌わずに店を出て行く…。

　？？？　

　少し親しくなったアガシに聞いてみました。

「あれ，どういうこと。」

「…。犬鍋さんも，ここがどんな店だかうすうすわかっているんでしょう？」

「えっ？」

　説明を聞くと，ここはつまり「観光キーセン」なのでした。日本人男性の団体さん相手に，その夜いっしょに過ごすアガシを紹介する。最初に団体さんが消えて行った部屋は女の子の待機室。そこでみな自分のパートナーを指名する。そして，簡単に飲みながら自己紹介などをする。

　伝統的なキーセンハウスのアガシのように韓服を来ているわけではない。韓定食を食べたり，歌を歌ったりという面倒な手続きなしに，ホテルに直行する，いわば「売春クラブ」です。

　昔は国策としての「キーセン観光」が盛んだったと本で読んだことがあります。時が移り，グルメツアー，エステツアーなどに押されて，キーセン観光はなくなったのかと思っていましたが，こういう形態で健在だったわけです。

「じゃ君も，ときどきホテルに行くんだ」

「もちろん行くわよ。だって，サービングだけじゃお金にならないし」

　説明をしてくれたアガシ，年の頃３０歳で，底抜けに明るい。でもいろいろ話を聞くうちに，苦労多い半生を生きてきたことがわかったのですが，そのお話はいつかまた別の機会に。