犬鍋のヨロマル漫談

ヨロマルとは韓国語で諸言語の意。日本語、韓国語、英語、ロシア語などの言葉と酒・食・歴史にまつわるエッセー。

慰安婦の契約

2014-03-13 23:45:41 | 慰安婦問題

 二つ前の記事でご紹介した永井教授の論文の中に、日本人の業者が慰安婦募集のときに持ち歩いていた「契約書」が掲げられています。

 主な内容は次のとおり。


一、契約年限 満二ヶ年

一、前借金 500円ヨリ1000円迄。但シ前借金ノ内二割ヲ控除シ、身付金及乗込費ニ充当ス

一、年齢 満16才ヨリ30才迄

一、身体壮健ニシテ親権者ノ承諾ヲ要ス。但シ養女籍ニ在ル者ハ実家ノ承諾ナキモ差支ナシ

一、前借金返済方法ハ年限完了ト同時ニ消滅ス。即チ年期中仮令(たとい)病気休養スルトモ年期満了ト同時ニ前借金ハ完済ス

一、利息ハ年期中ナシ。途中廃棄ノ場合ハ残金ニ対シ月1歩(分)

一、違約金ハ一ヶ年内前借金ノ1割

一、年期途中廃棄ノ場合ハ日割計算トス

一、年期満了帰国ノ際ハ、帰還旅費ハ抱主負担トス

一、精算ハ稼高ノ1割ヲ本人所得トシ毎月支給ス

一、年期無事満了ノ場合ハ本人稼高ニ応ジ、応分ノ慰労金ヲ支給ス

一、衣類、寝具、食料、入浴料、医薬費ハ抱主負担トス

 内容がよくわからないところもあるのですが、契約時に500円から1000円のお金を(親に)渡し、契約期間の2年間、軍慰安所で売春をすれば、その間の稼ぎがいくらであろうと、前借金は完済したことにする、という契約のようです。ただし、2年間は働き続けなければならず、途中でやめると前借金を日割りして、残額に対し月利1%の利息をつけて返さなければならない。さらに1年以内に廃業した場合は、違約金として前借金の1割が加算される。女性の月々の収入は売上の1割しかありませんが(その半分は強制的に貯金させられるらしい)、女性はその少ない収入の中から借金を返済するわけではなく、業者の取り分の9割の中に、借金の返済分が入っているようです。

 永井氏はこの制度について、女性が毎日5人の客をとった場合、下士官の利用料は2円なので、一日の売上は10円、慰安婦の収入は1円、月の実働が25日なら、月収は25円(半分は強制貯金)。一方、業者は1人の慰安婦から毎月225円の収入を得られると解説し、業者が暴利を貪っていることを印象づけます。

 一方、年齢の下限が当時の法律(売春は21歳以上)に違反しているという問題はあるものの、この契約条件は、当時の公娼制度の現実の下では、働く場所が国外である点を除き、とりたててひどいものとはいえない、と書いています。

 じゃ、当時の内地の公娼制度における契約はどうなっていたのか。

 秦郁彦氏は著書の中で、前借金による「酌婦契約証」の一例を紹介しています。

貸借金○○○円也

抱主を甲、酌婦を乙、連帯借用人を丙とする。

一、乙は丙を連帯借用人として、頭書○○○円を本日通貨をもって受領借用した。但し無利子とする。以後の追加貸しに対しても無利子とする。

二、(略)

三、債務弁済の方法は、契約締結の日より乙は甲片に寄居し、酌婦営業免許証の下付のあった日より月給二円および酌婦料金の10分の4(組合協定額による)を乙の所得とし、漸次弁済していくこと。

四~六、(略)

七、乙は無断で甲方を去ることはできない。万一無断逃走等の場合には、その捜索に要した費用は乙の負担とする。

八、債務皆済の日をもって契約期限到来とする……もし債務履行前解約の場合には、乙、丙は即時に残り債務を甲に弁済しなければならないものとする。

九~十一、(略)

 さきほどの契約書との大きな違いは、この契約には期間が定められていないことです。つまり、女性は借金を全額返済し終わるまで、何年でも売春をし続けなければならない。もちろん、たくさん客をとって売上をあげれば、短期で債務を返し終えることも可能でしょう。

 もう一つの違いは、慰安婦の収入。前者では売上の1割なのに、後者では4割。しかし、後者はその4割の中から借金を返さなければならず、食費や服飾費も自己負担かもしれません。

 内務省警保局は娼妓の稼業契約を5つに分類しているそうです(眞杉侑里→リンク)。

1 年期制:稼業期間を決め、期間満了をもって債権・債務が消滅するもの

2 月給制:毎月の給金を決めておき、その給金により債務を弁済するもの

3 歩合制:売上を抱主と娼妓が一定割合により取得、娼婦はその分配金で債務を弁済するもの

4 年期歩合折衷制:稼業期間を決めると同時に抱主と娼妓が売上の分配割合を決め、分配金からの返済が債務に達したら期間満了を待たずに稼業をやめてよい。また期間が満了したら返済が債務に達しなくとも完済とみなす。

5 自賄制:娼妓は抱主の家に寄寓し、食費、衣類諸道具の損料、座敷料を抱主に払うが、売上はすべて娼妓が取得する。娼妓はその中から債務を弁済していく。

 永井氏があげた例が、1の年期制、秦氏があげたのが3の歩合制ということになるでしょう。

 どちらが女性にとって有利なのかわかりませんが、前出の業者が、この契約条件を示して全国を回り、短期間に数百人の女性を集めたらしいので、契約内容が当時の一般的な公娼制度の契約よりずっと魅力的だったのでしょう。

 特に年期が2年というのは、短い。公娼制度における年期は4年から8年が普通だった(秦の著書)そうです。

 秦氏はいろいろなタイプ(内地、戦地、沖縄など)を調べ、抱主と慰安婦の分配割合は、内地では40%が普通なのに、戦地では50~60%と有利に設定されていた(戦争末期の沖縄では70%の例があった)と書いています。

 上の二つの資料はどちらも日本人相手なので、朝鮮人相手の契約についてみると、米国陸軍によって1944年9月に作成された報告書に、ビルマの朝鮮人慰安婦の例が載っています(2007年5月18日産経新聞)。

 これは、ビルマ北部ミッチナ地区の「キョウエイ」という名の慰安所で米軍の捕虜になった朝鮮人女性20人と日本人経営者からの聞き取り調査。概要は以下のとおり。

▶ ソウルで金銭と引き換えに集められた

▶ 慰安婦の取り分は、売上の50%

▶ 移動費用、食糧、医療は無料(移動と医療は軍が、食糧は経営者が負担)

▶ 経営者は衣類、日常必需品、贅沢品を法外な値段で慰安婦たちに売って利益をあげた

▶ 慰安婦が家族の借金を利子つきで返済したら、自由の身となって交通費の負担なしに朝鮮へ帰れることになっていたが、戦況悪化のため、帰国した者はいなかった

▶ 女性の売上(2か月)は、300円~1500円。経営者に毎月最低150円を払わなければならなかった。

 この例も、秦氏の例と同じタイプ3の歩合制のようですね。慰安婦の取り分は50%で、内地よりも有利に設定されています。

 参考として、現代の性奴隷たる「韓国人遠征売春婦」の例を見てみましょう。

 朝鮮日報2013年6月19日付報道によると、米国マサチューセッツ大学のチュ・ギョンソク教授がニューヨークで売春している18人の韓国人女性(30歳~51歳、うち6人は短大・4年制大卒業)に面接し、遠征売春婦の実態を調査したそうです。

 概要は以下のとおり。

▶ きっかけは、インターネット広告や友人の誘い

▶ 借金返済のため、抱え主やブローカーから5000~4万ドルの金を借りた。

▶ アメリカ到着後、前借金1万~1万5000ドルから20%を利子として引かれ、8千~1万2千ドルを受け取って、売春を開始。

▶ 女性の取り分は売上の40%

▶ 接客数は、平均1日平均7.2人

▶ 労働時間は平均12.3時間(休日なし)

▶ 前借金は120%以上の高利(年利?)でふくれるので、その返済のために売春をやめられない。

▶ 暴力によって強圧的に売春をさせられたケースはなかった。

▶ パスポートを、抱え主やブローカーに奪われたり、預けたりしており、一か所で一定期間売春すると別の都市に強制移住させられ、居住の自由を奪われていた。

 女性の取り分は40%で、軍慰安婦よりも低く、戦前の内地の公娼並。しかし、公娼制でも軍慰安婦でも前借金には利子がつかないのに、遠征売春婦の場合は120%の高利がつくところは、女性にとって厳しい制度といえるでしょう。

 参考に、上記韓国語の記事の全訳は以下。

朝鮮日報2013年6月19日

米国遠征売春
毎日12.3時間、客7.2人を相手に

 調査によれば、米国で遠征売春をしている韓国女性たちは、1日平均12.3時間働いて7.2人の客をとっていた。遠征売春婦たちは、業者にパスポートを奪われたり、預けたりした状態で、あちこちの都市を転々としながら売春し、居住移転の自由をひどく制限されていることがわかった。

 「ヘラルド経済」の19日の報道によると、米国マサチューセッツ大学ローウェル校のチュ・キョンソク教授は、韓国刑事政策研究院と在米韓国人犯罪学会が共同で主宰した国際学術行事「韓国と米国の犯罪被害調査・政策の比較研究」で、これらの内容を含む「性的人身売買の概念定義、人身売買の犠牲者か、売春移住労働者か」を発表した。

 チュ教授は、この研究のために、ニューヨークで売春をしている18人の韓国人女性との詳しい面接調査をしたことを明らかにした。その結果、対象者の60%以上が、1日12時間以上働いており、2人は一日中働いていると答えるなど、休日なしで1日平均12.3時間仕事をしており、平均7.2人の「お客さん」をとっていることがわかった。花代は業者が6、本人が4の割合で分けているという。

 これらの女性たちは、おもにインターネットの広告や友人の勧誘など通じて遠征売春を始めた。借金のある女性がブローカーや業者から5千~4万ドルの借金をして渡米。

 米国到着後、前借金の1万~1万5千ドルから20%を事前利子として差し引き、8千~1万2千ドルを受け取って仕事を開始。前借金は120%以上の高利でふくらみ、大部分の売春婦が借金まみれになり、これが売春を続ける原因となっていることがわかった。

調査対象者の中には、業者の暴力などで強制されて売春を始めたケースはなかったが、パスポートを業者やブローカーに奪われたり、一定期間売春をしたあとは別の都市に強制移住させられて売春をするなど、居住移転の自由を制約されていると、報告書は指摘している。

 調査対象者は30~51歳(平均38.5歳)で、うち35%(6人)は、2年制もしくは4年制の大学を卒業していた。


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