犬鍋のヨロマル漫談

ヨロマルとは韓国語で諸言語の意。日本語、韓国語、英語、ロシア語などの言葉と酒・食・歴史にまつわるエッセー。

韓国便り~鮟鱇、海鞘、饅鰻

2023-10-15 22:46:29 | 韓国便り(帰任以後)
写真:鮟鱇(あんこう)と饅鰻(ぬたうなぎ)


 二日目の夕食は会社の会食はなく、フリーでした。

「さて、何を食べましょうか」

「犬鍋さんがくわしいから、お任せします」


 同行の3人(日本人2人、韓国人1人)から、一任されました。

 以前、気に入っていた「カンジャンケジャン(蟹の醤油漬け)無限リフィル(食べ放題)」の店(リンク)が、コロナ禍で店を閉めたのは残念でした。

 三角地(サムガクチ)の峯山(ボンサン)チプ(チャドルパギの店、リンク)は、大統領府が近くに移転したので、どうなっているかわからない。馬場洞(マジャンドン、カルビの店、リンク)や加里峰洞(カリボンドン、朝鮮族集住地、リンク)は遠い。

「アグチムにしましょう」

「アグチム?」

「あんこう(鮟鱇)料理です。蒸したあんこうを、もやしなんかと炒めたものです」


「あんこうというと、日本では鍋ですね」

「ホヤ(海鞘)も入ってます」

「ホヤ?」

「日本でも食べますよね、刺身とか」

「ぼくはあまり食べないです」


 アグチムの店が多いのは、ナグォンサンガ(楽園商街)。明洞から歩いて10分ほどの距離です。

 韓国によくあるのが、同じ通りに、同じ系統の店がずらりと並んでいる一画。楽園商街のアグチム屋さんも、10軒以上の店が狭い一画に集中しています。

「どの店がいいんですかね」

「どこでも同じです。味はまったく変わりません(キッパリ)」

 混み過ぎず、空き過ぎてもいない店に入りました。

「アグチムですね。4人なら「大」がいいです」

「いえ、「中」にしてください。ほかにも頼むので」

(といっても、この店にはアグチムしかないが…)


 価格は、

大 70,000ウォン
中 60,000ウォン
小 45,000ウォン


 大と中は1万ウォンしか変わらない。「大」でもよかったかもしれません。

(ん? あれは?)

 冷蔵庫に見慣れない酒がありました。

 ファヨというラベルが見えます。

「最近出た焼酎です」

「昨日、セロというのを飲んだけど…」

「それとは違います。ちょっと度数が高いです」

「ファヨってどういう意味?」

「さあ、火曜日の火曜かな?」


「今日は水曜日だけど」

 注文してみると、瓶には、「蒸留焼酎火堯」という漢字表記がありました。

 火堯、漢字がわかっても、意味はわからない。

(中国の古代の王様に「堯」という人がいたっけな)



 アルコール度数は25度。今、チャミスルなどは16度ぐらいですから、かなり強い焼酎です(30年前の眞露は25度でしたが)。また、チャミスルには原料名がない(たぶん雑穀なんでしょう)のに、この焼酎には「米」と明記されています。

 飲んでみて驚きました。ちゃんとした焼酎の香がする!

 さらに、今回の出張で初めて出会うビールもありました。



 Kelly

 メーカーはハイト眞露。

 こちらも今年になって発売されたもの。そばのポスターには、「ラガーのパンジョン」とあります。

「パンジョンって?」

「反転かな?」

「反転攻勢の略?」


 先ほどの「火曜」の件があるので、余り信用はできません。

 そしてビールの味は、こちらもすばらしい。日本ビールと遜色のない、ちゃんとしたビールです。

 そして、メインのアグチム。

「中」ながら、大きなさらにドバっと出てきました。



「かなり辛いから、気を付けて」

 あんこうを蒸したものと、ほやと、もやし、ミナリ(せり)、そして大量のニンニクがいっしょに炒められています。とろみがあるのは、片栗粉か。

「これがほやですね?」

「はい、嚙み潰して中の磯の香りを味わったら、殻は出してください」

「うーん、ぼくはちょっと苦手かも」


 ビールも焼酎もおいしいので、ソメク(焼酎とビールを混ぜた混合酒)にするのはもったいない。

 辛さでハーハー言いながら、食べかつ飲みます。

 おおかたアンコウがなくなった時点で、シメに入ります。

「ふつう、この余ったタレにご飯をぶち込んで、ポックンパプ(炒めご飯)にしてもらうんです」

 かなりお腹もいっぱいになったので、一膳分だけポックンパプを作ってもらいました。

 これで、お酒も含めて12万ウォン。一人3000円ちょっとです。

「ホテルまでの道、わかりますか?」

「大丈夫です」


 ここで韓国人職員が帰りました。

 われわれ日本人三人は、ホテルまで、タプコル公園とか、仁寺洞とかを歩きました。観光ガイドの気分です。

「ここに安いマッコルリの店があったんだけど…」

 歴史ある瓦斯燈(ワサドン、リンク)も、コロナで店を閉めたようでした。

「あ、ここ、空いてる」

 移転前の事務所の向かいにあったコムチャンオの店は、退勤時間帯はいつも行列ができていました。私はコムチャンオが好きなのですが、新村に行きつけの店があったので、この事務所近くの店には入ったことがありませんでした。

 10時過ぎでピークを過ぎていたのでしょう。行列はありませんでした。

「コムチャンオで軽く飲んで帰りませんか」

「コムチャンオ?」


 チャンオ(長魚)はウナギの韓国語。コムチャンオはウナギに似ていますが、別の生き物です。日本語ではヌタウナギ(饅鰻、沼田鰻)という名前がありますが、日本人は食べない。

 ウナギには背骨があるけれど、ヌタウナギはない。ヤツメウナギと近縁だということです。

 狭い店内にはドラム缶式のテーブルが並んでいて、私たちが席に着くと、テーブルの真ん中に炭火が置かれます。

「ヤンニョムクイ(タレ焼き)とソグムクイ(塩焼き)を1人前ずつ、それにビールとチャミスル」

「ウナギよりコリコリしてますね」

「なかなかいけます」


 鮟鱇(あんこう)、海鞘(ほや)、饅鰻(ぬたうなぎ)と、ゲテモノっぽいものばかり連れ歩きましたが、好評だったのは幸いでした。

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