犬鍋のヨロマル漫談

ヨロマルとは韓国語で諸言語の意。日本語、韓国語、英語、ロシア語などの言葉と酒・食・歴史にまつわるエッセー。

韓国便り~魚市場移転

2016-11-05 23:00:14 | 韓国便り(帰任以後)

 日本では今、東京築地の魚市場移転問題が大騒ぎになっていますが、ソウル最大の魚市場であるノリャンジンも移転の最中です。移転とはいっても、離れたところに行くわけではなく、今までの市場のすぐ隣に新しい建物を建てて、そこに移るという話です。

 今年の1月に行ったときは、すでに新しい建物は完成していましたが、移転はまったく進んでいませんでした。

 その理由は、移転先の賃貸料が高いこと。

 旧市場の魚屋さん、料理屋さんが「移転反対」を叫んでいました。

 今回行ってみると、食堂はほとんどが、魚屋さんも半分ぐらい移転していましたね。

 まず、市場を歩いて魚を買います。それを食堂に持ち込んで、調理してもらうわけです。

 「ノリャンジンなんて久しぶりだなあ。最後に来たのは何年前だろう」

 築地もそうかもしれないけれど、ここも韓国人より外国人のほうがかえって知っているのかもしれません。


 「「クァメギ」が食べたいんだけど」

 クァメギというのは、このブログで方言の一つとして取り上げ、コメンテーターの方からそれが食べられる店を教えていただいたのですけれど、その店に電話してみると、今年はまだやっていないと言われたのです。ニシンやサンマ、サバなどを、凍らせたり溶かしたりしながら干物にしたもので、12月以降に出回るものらしい。

「ちょっと聞いてみましょう」

「クァメギ? あっちの店にあるけど、今日はもう閉まってるね。クァンオ(平目)にしなよ」

 夜までやっている店は少ないので、仕方がない。

「カニにしましょうか?」

「カニは高いでしょう。刺身がいいですよ」

 結局、モドゥムフェ(刺身の盛り合わせ)20000ウォンと、ホヤとケブル(ユムシ)を合わせて1万ウォン買い込み、行きつけの食堂に行くことに。

「あれ? ないな」

「すいません。ユダル食堂ってなくなりましたか」

「ああ、ユダル食堂ね。新館に移転したよ」

「じゃ、行ってみよう」

 新館は新しくて、エスカレーターも完備しているけれども、一階の魚市場は閑散としています。食堂を二階にあって、こちらもまだ空きが多い。おしゃべりをしているアジュンマに聞くと、店まで連れていってくれました。

 ユダル食堂はほぼ満席。宴会のお客さんがいるようで、幸い、最後の二人席に座ることができました。

「お父さんの具合はいかがですか」

「先週の土曜日に倒れて、それから意識がないんです。心筋梗塞らしくて」

「それは心配ですね」

「元気だったから、あまり会ったりしていなかったけど、今考えるともっと親孝行しておけばよかったなって」

「そういえば、うちの娘たちはホッケーやってるんですよ。長女は高校時代に、マンネ(末っ子)は今大学で現役です」

 彼のお父さんは、韓国ホッケーの元国家代表選手。引退後は不動産屋に転じて、バブル期にはけっこう羽振りがよかったそう。

「ぼくが中学1年のときに離婚しましてね、父とはそれからあんまり連絡をとっていなくて。母には毎日のように電話するんですけど」

 大学を卒業したあと、日本に留学し、映像関係を専門学校に行ったそうです。当時の苦労話は前も聞いたことがある(→リンク)。

「ところで、毎日示威(シウィ、デモのこと)がすごいらしいね」

「恥ずかしいです。なんであんな奴を大統領に選んじゃったのか」

「国民は何に怒ってるの?」

「大統領が不甲斐ないからですよ。一人じゃ何もできないってことが、今回わかっちゃいましたから。李明博も悪いやつだったけど、リーダーシップがあった。朴槿恵は悪いうえに、力もない…」

「盧武鉉は?」

「彼は素晴らしかった。われわれの心の大統領です」

「でも、なんか高級時計をもらったとか何とかで、自殺しちゃったよね」

「時計っていくらですか。700万? 800万? 李明博は何千億ですよ。桁が違います」

 われわれが店に入ったのは9時近く。隣の団体さんは宴もたけなわで、コンペ(乾杯)、ワンショット(一気)の連続。

 そのときです。

 テーブルをバーン!と叩く音がしました。

「シックロ!(うるさい!) あんたたち、もう少し静かに飲めないの?」

 近くで飲んでいたアジュンマがものすごい剣幕でどなりました。

 店内は一瞬静まり返ります。

「ミアネヨ(すみません)。もうすぐ帰りますから」

 団体さんの一人がアジュンマに謝ります。幸い、けんかにはならず、宴会の一行はこれを機に帰り支度を始め、10分ぐらいあとには店を出て行きました。

「よくあることですよ。気にすることはありません」

 持ち込んだ刺身を平らげたところで、メウンタンや出てきた。注文したわけではないのですが、基本のセットのようです。

「でも、今日、連絡いただいて嬉しいです。ちょっと気分が落ち込んでいたんで」

 彼とはノリャンジンで別れ、私のほうは光化門の近くのカフェ(スナック)で独り二次会をしたのでした。


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