日はまた昇る②

　奥さんの病状が悪化してきた中国人の友人。（→リンク）

「今日は病院行くの？」

「いえ，明日行きます」

「じゃ，一杯やろうか」

というわけで，件のタイ料理屋へ行ったのでした。

「で，ご両親には話したの？　結婚のこと」

「いえ，まだです。父はとにかく大反対だから」

「そう。一人っ子だからね」

「僕は一族の中で唯一の息子なんですよ。子どもが産めないのは困るって。それに僕が苦労するだろうからって」

　韓国と同じ儒教的な考え方に加えて，一人っ子政策の影響も大きいようです。

　子宮癌の発病を知り，両親の反対を押し切って結婚。予期していたのより早く転移が進む。

「父は高血圧なんです。それに激しやすい性格だし，結婚のことを聞いたら倒れるんじゃないかと思うと，言えなくて。看病や，経済的なことも大変だけど，親に言えないのがいちばんつらいです」

「奥さん，痛みはあるの」

「今は頭痛がひどいですね。それにイライラしていて，ちょっとしたことで興奮するんです。この前の出張中なんか，疲れたからと言って電話を切ろうとすると，急に怒りだした。次の日は離婚するなんていいだすし」

「我慢，我慢。不安なんだよ。時間は限られているんだから，喧嘩して過ごすのはもったいないよ」

「そうですけど，やっぱり疲れちゃって」

「明日は早く出るの」

「いえ。でも早く起きてごはんを作ります。病院の食事が口に合わないらしくて」

（……なんてえらいんだ）

　日は昇り，沈む。

　人は生まれ，死ぬ。

　店が出来，つぶれる…。

　人生流転。

　諸行無常。

　この友人の頭上にも，そしてお店のタイ人母子の頭上にも，また再び明るい太陽が昇ることを祈ります。