犬鍋のヨロマル漫談

ヨロマルとは韓国語で諸言語の意。日本語、韓国語、英語、ロシア語などの言葉と酒・食・歴史にまつわるエッセー。

ただものでなかった「ただの居酒屋」

2024-04-07 07:28:40 | 飲む

 仕事帰りに、上野で飲みました。

 正確には御徒町。「上野千里香」は予約で一杯。花見帰りの客が流れてきているのでしょう。羊の串焼きが食べたかったので、別の朝鮮族の店、羊不同(リンク)で一次会。串焼きと、豚の脳みそをいただきました。酒はビールと紹興酒。

 二次会は行きつけの居酒屋に行こうと思いましたが、営業していませんでした。

(定休日じゃないのにどうしたのかな。もしかしてユウスケに何かあったのか?)

 この店には、ユウスケという名前の、17歳になるポメラニアンがいます。歳も歳だし、病気がち。この前行ったとき、ママさんが「そろそろ危ないかもしれない」などと言っていました。(リンク

 仕方なく、その近くで別の店をさがします。

「韓国のお店があるね」

 見ると、韓国語の看板がありました。

그냥포차(クニャンポチャ)

「ここにしよう」

 階段を上がっていくと、きらびやかな装飾のお店。テーブルはドラム缶です。

「韓国みたいだ」

 ポチャというのはポジャンマチャ(布張馬車、屋台式飲み屋)を縮めた言葉。もともとは路上にビニールシートのテントを張って営業する屋台式飲み屋のことで、それを西部劇などで出てくる幌馬車に見立てたもの。室内の居酒屋も、室内布張馬車(シッレポジャンマチャ)などと言ったりします。

 クニャンは、「ただ、なんとなく」などを意味する副詞。

「ただの居酒屋、普通の居酒屋」といったところでしょうか。

 一次会でお腹いっぱいになっていたので、プチュジョン(ニラのチヂミ)だけ頼み、生ビール、続いてチャミスル(韓国焼酎)。

「まだこれも残っているんですけど」

 連れがカバンからとりだしたのは、一次会で余った紹興酒。

「もったいないからそれも飲もう」

 お店の人に気づかれないよう、焼酎グラスにこっそり注ぎます。

 ビール、チャミスル、紹興酒のトリプルパンチが効いて酔いが回ります。

 トイレに立ったとき、思わずよろめきました。

「なんか、足にきたみたい」

 席に戻るとき、カウンターのところでお店の人に韓国語で話しかけてみました。サービングの女性が韓国人であることは、注文の受け答えでわかっていたからです。

「韓国の方ですか?」

「はい、私は韓国人で…」

「ぼくはキョッポです」


 厨房からマスターが答えます。キョッポ(僑胞)というのは在日韓国人のこと。

「お客さんも韓国人ですか」

「いえ、日本人です。昔、韓国に住んでいたんですよ」


 そろそろ終電の時間が気になり始めていたので、席を立ちました。

 三人全員、千鳥足で御徒町の駅に向かいました。

 翌日、お店のことを調べてみると、マスターはすごい経歴の持ち主でした。

 なんと、元ボクシングの世界チャンピオン!

 WBA世界スーパーバンタム級チャンピオン李冽理(リ・レツリ)さんということです。



 ぜんぜん「ただの居酒屋」ではなかった!

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