犬鍋のヨロマル漫談

ヨロマルとは韓国語で諸言語の意。日本語、韓国語、英語、ロシア語などの言葉と酒・食・歴史にまつわるエッセー。

ALTという仕事⑤~派遣会社

2022-09-22 23:43:55 | フィリピン

 現在、派遣会社のALTは、全体の31.6%で、JETプログラムのALT(26.5%)を上回っています。

 なぜこれほど増えたかというと、地方自治体にとっても、JETプログラムよりも派遣会社のALTを導入するほうが、メリットがあるからです。

 一つは安いこと。

 JETプログラムのALTの収入は、2011年以前は約360万円(税引き後)。2012年以降は336万円~396万円(税引き前)。このほか来日・帰国時の渡航費用、社会保障費の半分、住居費などを含めると、自治体は年間600万円の負担になるそうです。

 もう一つは、手間がかかること。

 JETプログラム参加者は、日本に初めて来る外国人で日本語ができない場合が多く、日本で生活するためのルールを教えたりするのも自治体の仕事。英語ができる職員が必要です。

 財政が苦しい自治体の中には、もっと安く、手間をかけずにALTを雇いたいという需要が生まれ、それに応えたのが派遣業者だったわけです。

 しかし、民間雇用のALTにも問題点があります。

 それは待遇が悪いこと。

 給料が安い(JETの3分の2以下)だけでなく、社会保険に入れてもらえないケースもあるようです。

 民間のALTは、JETプログラムのALTより業務時間が短かったり、業務負担が軽いから給料が安いのか。

 そんなことはありません。

 業務時間も業務内容もほとんど同じです。

 むしろ、ある論文によれば、JET-ALTは授業計画にまったくかかわらない比率が高く(16%、民間雇用は3%、直接雇用は4%)、逆に英語の授業を丸投げされてすべて自分でやるケースが民間雇用のALTに多い(24%、JETは4%、直接雇用は7%)という点を見ると、民間雇用のALTのほうが業務負担が重いケースがあるのです。(園田、リンク

 では、なぜ待遇格差が生まれているのか。

 毎年、ある時期に入札が行われ、条件のよい派遣会社を選定されます。条件の中にはもちろん「安さ」も含まれるはずです。自治体にとっては安いほうがいいわけですから。

 一方、派遣会社は営利企業ですから、一定の利益を確保したうえで、英語教師に給与を支払います。会社の利益を大きくするためには、ALTの給与を安く抑えるほうがいい。

 給料計算は月給ではなく時給制で、授業日数の少ない月は給料を減額またはゼロにするなどの例があるそうです。

 さらに、派遣会社の多くは教師との契約を「週29.5時間労働」として公的保険の適用外とし、派遣会社が負担すべき社会保険の補助を逃れるなどして、自社の利益を増やそうとしています。

 一方、JETプログラムを利用しない方法として、直接雇用があります。これは、自治体自身が募集から労務管理まで一切を行う方法です。給料は非正規公務員と同等になります。

 しかし、自治体としては、外国人を英語で募集、面接しなければならないだけでなく、応募が少なくて必要人員を確保できないというリスクもあります。日本での生活サポートは、JETプログラムと同様に必要です。

 こうしたことを一切引き受けてくれ、しかも契約金額も安いとなれば、派遣会社を利用したくなるでしょう。

 一般に、直接雇用は地方自治体にとって割高だと信じられていますが、「そんなことはない、派遣業者のほうが高い」という反論もあります。

 学校の教職員が多く所属するゼネラルユニオンは、『「派遣は安上がり」という神話』という文章をネットにあげ、「自治体は派遣会社を通さず直接雇用すべき」という論陣を張っています(2016年12月8日、リンク)。

 自治体が派遣会社に頼む理由は、「教育委員会が直接雇用をするとあまりにお金がかかる」というもの。これはまったくの虚構だ。
 派遣会社は、日本在住外国人に向かって次のように言う。
「現在日本に在住しているのでJETプログラムには申し込めない。残るは教育委員会の『直接雇用』だが、これはめったにないし(教育委員会にとって)費用がかかる。もし見つけたとしても、この仕事を得るには日本語・英語ともに流暢に話せることが必要だし、教員免許を(時には二つ!)持っていなければならない」

 ここでは宮城県のある市の例が取り上げられています。

 平成26年度、教育委員会は派遣会社にALT一人当たり約480万円を支払った。ALT一人当たり毎月約40万円である。
 各ALTの年間所得を約250万円とする(満額の23万円が8か月、75%の約17万円が3か月、60%の約14万円が1か月)。
 そうすると、派遣会社は一人当たり年間230万円の粗利益を得る。
 派遣会社は給与以外に月2万円の「地域手当」を払っている。しかし、ALTを社会保険に加入させておらず、月2000円の雇用保険のみ負担している。これらを差し引いても、派遣会社は一人当たり200万円以上の「純利益」を得ている計算になる。
 仮に派遣会社が月約4万円の社会保険を負担したとしても、派遣会社の純利益は150万円以上になる。
 実際に派遣会社がやる仕事は、外国人を募集採用し、「メールを送り、時々電話をかけ、見回りをやるだけ」だ。


 この実態について、ゼネラルユニオンは「濡れ手に粟の商売」と表現しています。

 地方自治体がALTを直接雇用した場合、派遣会社が言うように、もっと費用がかかるんでしょうか。同じホームページに試算があります。

 直接雇用のALTの平均給与は月約30万円。社会保険4万円、雇用保険その他を1万円として、自治体が負担するのは、月35万円、年間420万円です。

 これは、派遣会社に支払う年間480万円と比較すると、60万円も安い。

 ALTの費用は税金で賄われています。もし自治体が派遣会社を通さず、直接雇用に切り替えたなら、ALT一人当たり年間60万円の税金の節約ができるうえに、ALTにとってはよりよい賃金、社会保険、生活の安定が得られるというわけです。

 しかし、自治体にとって、「直接雇用」は、募集や生活サポート、場合によっては研修まで、自分たちがやらないといけないという負担がある。

 首都圏や大都市では、ネットで募集をかければ、日本在住の外国人を集めることができるかもしれませんが、地方には外国人が少ないので、応募者が少ないかもしれない。

 しかし、JETプログラムや一部の派遣会社のように、海外に出かけて行って、あるいは海外のネットワークを使って、現地で募集するというのは、さらに大変。

 自治体にこうした弱みがあるため、派遣会社が決して安くない金額でALTを「落札」しているのですね。

 こうしてみると、ALTの派遣会社は、自治体の弱みにつけこんで外国人を搾取する悪徳業者のように思えてきます。実際には、きちんと社会保険にも加入させ、給料ももっと払っている派遣会社もあるんでしょうが。

 なお、社会保険については、2016(平成28)年から、従業員501人以上の会社は週30時間未満の短時間労働者についても従業員の希望があれば、社会保険に入れなければならなくなりましたが、大規模な派遣会社は、分社するなどして従業員を500人以下に抑え、「社会保険逃れ」をしているとのこと。しかし、今年10月から「501人以上」を「101人以上」にする法改正が行われ、事実上、ほとんどのALTは希望すれば社会保険に入れるようになるそうです。

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