ふらりと声をかけあう男友達がいる。
ちょっとおいしいもんでも、どう?
ちょっと無愛想なくらいのメールでやりとりが始まる。
和食にしよか、イタリアンもいいなあ、といいつつ、このところはずっと和食に落ち着く。
お互い四十路の半ばを過ぎて、口当たりの心地よい素材を、頃よい量でいただきたい。
そういうおなかを分かり合えるから、気も楽だ。
店は彼が選んでくれる。調査力と口コミの聞き取りが抜群なのは、人柄のおかげだろう。
私は足元にも及ばないので、いつもいくつか上げてくれる候補の店から、
ちょっと意見を言わせていただいて、4~5回のやりとりをすぎて、日どりと店が決まる。
今回は、10月初旬に最初のメールが来て、決まったのが11月上旬、それから2週間たって
迎えたのが昨日の晩だった。
東京・神楽坂。
江戸の土地名のなかでも、特に響きがよい街だ。
通っていた大学から遠くないこともあって、昔から親しんでいたこともあるかもしれない。
ただ、神楽坂に夕餉をいただきに向かうのはこれが初めて。
彼女と来たときは夏の午後の”紀の善”さんだったし、
春のお堀に向かうため駆け抜けるのは、人出もまばらな朝だった。
晩秋の19時は、すっかり暗くなって十分に時間がたつ。
飯田橋の駅で降りて、外堀通りを越えて神楽坂界隈へ。
坂を登ると、急に店々が並び明るさも、呼び込みの声もにぎやかになる。
めざす「おの寺」さんは、坂中程の越後と名が付いた、毛筆店名の多いびるの4階にあった。
開き戸をあけて、カウンターから威勢のいい迎えの声がかかり、
身をすべりこませると、ふっと肩から力がぬける。
居心地がよさそうだ。
品よくととのって、華美にあらず。敷居が高くないのも男二人にはありがたい。
カウンターに予約席のプレートがおかれて案内される。
お品書きはコースのみで、すでに献立の羅針が置かれている。
刺身はかつおとアオリイカか。
蕪のすり流しに、
焼き物は・・秋鯖だな。
間には、治部煮で鴨はフランス産と書いてます。
ほお、締めは瀬つき鰺の土鍋ごはんとなりますか。
体の芯から温まる献立です。
そして男二人、芋焼酎のお湯割りいっぱいだけで、
ゆっくり夜の口遊びの時へと入り込んで参りました。