マイルス・デイヴィスのアルバムをレコードで最近頻繁に聴いているが、今回彼のアルバムの中でも傑作と名高い1957年にリリースされた『Walkin’』を先日入手した。聴いた結果、モダンジャズの魅力に溢れた素晴らしいアルバムであり、これまで聴いたマイルスのアルバムの中では一番お気に入りの1枚となった。
『Walkin’』に収録された曲は元々1954年にニューヨークで録音された音源だが、当時契約していたPrestige Recordsから3年後にリリースされたものだ。Miles Davis All Stars名義のアルバムで、下記全5曲が収録されているが、ちょうどマイルス・デイヴィスがクスリを断ち、再出発を図った時期で、彼のキャリアの中でも大きなターニングポイントとなったアルバムとしても知られている。そのせいか、他のアルバムに比べてもどこか明るく爽やかなサウンドとなっており、希望に満ちた輝きが魅力のアルバムである。マイルスの演奏テクも冴えわたっており、村上春樹もこのアルバムがマイルス最高のアルバムだと絶賛していたこともあって、前からぜひ聴いてみたいと思っていた1枚だ。
メンバーは、マイルス・デイヴィスがトランペット、ホレス・シルヴァーがピアノ、パーシー・ヒースがベース、ケニー・クラークがドラムス、ラッキー・トンプソンがテナーサックス(1-2曲目)、JJ・ジョンソンがトロンボーン(1-2曲目)、デイヴ・シルドクラウドがアルトサックス (3-5曲目)。
『Walkin’』収録曲
- Walkin’
- Blue ‘n’ Boogie
- Solar
- You Don’t Know What Love Is
- Love Me or Leave Me
まず、ジャケットデザインのセンスがなかなかいいし、インパクトがある。レトロな信号機がデザインされており、Walkin’というタイトルも相まって、信号が青になって前に歩み出そうとするエネルギーが感じられる。
1曲目の『Walkin’』はマイルスの代表曲の1つで、多くのセッションで演奏しており、様々なアルバムに異なるバージョンが収録されている人気曲でもある。後年に演奏していた『Walkin’』はもっとテンポが速く、ややアグレッシブな曲というイメージがあるかもしれないが、このオリジナルとも言える『Walkin’』はどこかどっしりとして、威厳のあるややゆっくりしたテンポのバージョンとなっている。個人的には速いバージョンも好きではあるが、こちらのゆっくりバージョンの方が丁寧な演奏のように感じられ、マイルスのトランペットを味わうにはちょうど良いスピードという感じもしてしまう。
2曲目の『Blue ‘n’ Boogie』はテンポの速い、活きのいいトランペットとピアノが何とも心地良いダンサブルなブギウギサウンドである。そして3曲目の『Solar』がまたムードたっぷりのジャズで実にカッコいいのだ。マイルスのカップミュートが冴えわたり、絶妙なタイミングでマイルスのトランペットソロから、デイヴ・シルドクラウドのサックスソロにバトンタッチされるのが見事。
続く4曲目の『You Don’t Know What Love Is』では何とも哀愁のある美しい演奏が堪能できる。秋の夜長に聴きたくなるような1曲である。ラストの『Love Me or Leave Me』はまた一転してテンポの速い、リズミカルでオシャレなジャズサウンドとなっており、マイルスのカップミュート演奏を満喫出来る素晴らしい1曲となっている。即興演奏の素晴らしさがあるものの、どこかクールで統制が取れているようでもあり、何とも完成度の高い演奏のように聴こえる。
アルバム『Walkin’』を再度総括すると、前評判通りの素晴らしいアルバムだと感じた。マイルスの素晴らしい演奏テクを堪能出来る上、曲としてもバラエティに富んだ内容。全体的に明るく爽やかながらも、時に激しく畳みかけ、それでいてクールな視点を常に忘れず、全体的に統制の取れた見事なクオリティのアルバムであった。改めて帝王マイルス・デイヴィスの偉大さと魅力がひしひしと感じられる、そんな珠玉の1枚で、すっかり僕のお気に入りのマイルスアルバムとなった。