▲奥入瀬渓流の森にて(11月・青森県)
あっという間に今月も中旬に入ろうとしている。は、早い!
フリーの編集ライターを細々としている私は、
サラリーマンの皆様よりも一足早く年内の主な仕事は一段落。
今日からやっと、じっくりがっつりどっぷりと
机に向かって奥入瀬コケ紀行の続きが書ける。
いやー、ありがたや。ありがたや
だいぶ時間が空いてしまったが、
奥入瀬コケ紀行は始まってまだ二日目なわけで。
かなり時計の針を戻しますヨ。くるくるくる・・・
今回、モス・プロジェクトにお招きいただき、
青森県十和田市・奥入瀬に滞在したのは11月7~11日の5日間であった。
十和田市に着いて翌日の8日、
市街地から20キロほど車で移動し、
いよいよ目的の奥入瀬渓流に入る。
今日は、10日に地元のガイドの皆さんを集めて行う講習会のため、
丸一日、渓流の下見というスケジュール。
ノースビレッジの河井さんを筆頭にモス・プロジェクトメンバーの皆さんに案内されながら、
同じく今回の講習会講師として招かれた屋久島のコケ師匠・小原さん(本業はエコツアーガイドさんです)、
そして、なぜかうちの母(奥入瀬に憧れ、娘の仕事に便乗)と共に沢沿いの森を歩く。
「奥入瀬渓流」とは名前はよく聞くが、いったいどんな場所なのか。
知らない方のために(というのは口実で、まずは自分の復習のために)先に少し説明する。
「奥入瀬渓流」は、青森県と秋田県をまたぐように
位置する十和田湖の北東岸に端を発し、
太平洋に向かって伸びる約70kmの「奥入瀬川」の
上流約14kmのエリアを特定して指す。
14kmエリアの末端、下流側のスタート地点から上流の十和田湖に向かう道のりは、
緩やかな上り坂になっていて、1km進むごとに標高が14mずつ上がる。
つまり十和田湖に着く頃にはスタート地点から
約200mの標高差を上ったことになるわけだ。
しかし上り坂が非常にゆるやかなので、まったくそれを感じさせない。
ぶらぶらと気ままに自然を見て歩くのにはもってこいの場所なのである。
奥入瀬渓流はその名のとおり、谷川である。
渓流の北側には八甲田山という(これまた誰もがその名を知る)火山群がそびえる。
八甲田山がその昔、噴火した際に火砕流がこの地に流れ込み、侵食されたことで渓流は生まれた。
なので、渓流沿いの森の中にはいまも
その当時を思わせる巨岩があちらこちらにゴロゴロと、
シンボリックに鎮座している。
▲下流側から5.5kmほど歩いたところにあるのは、カツラの大木に巨大な一枚岩が寄りかかり屋根を形成している「石ヶ戸(いしげど)」。
現地の方言で「石でできた小屋」という意味を持つ。
▲画像の右側にご注目。国道沿いの石垣の上には巨岩が自然のままに残されている。
さらに渓流は十和田湖の豊富な水に恵まれると共に気候的にも空中湿度が高いため、
地面や巨岩などいたるところにはコケやシダ、そして地衣類が豊富に生えている。
さらにブナを主体とした落葉広葉樹が枝葉を広げて、美しい緑の景観を作り出している。
いままでは紅葉が美しい落葉広葉樹が人々の人気を一手に引き受けていたわけであるが、
ノースビレッジの河井さんは、またそれとは別の視点でこの森を眺めてきた。
それはいかに?と問えば、「ここは東北の隠花帝国なんですよ」と河井さんは笑いながら教えてくれた。
つまり、大きな木々の縁の下の力持ちとなって地面や岩を覆い尽くすコケをはじめ、
シダ、地衣類、キノコなどの隠花植物の豊富であることもまた、
この奥入瀬渓流の大きな特徴の一つなわけである。
そういう今までは取るに足らない、それこそ一般では日陰者扱いで、〝コケ〟にされてきた隠花植物たちが、
ここではいかにイキイキと、豊富に、美しく華麗に森を彩り、森を生かし続けてきたことか。
この森を訪れる人には、ぜひそんな隠花植物たちの魅力にも触れながら森歩きをしてほしいという河井さんの強い思いが
周囲の現地ガイドの皆さんにも伝染し、今回のモス・プロジェクトも発足したわけである。
ちなみに現在、この地は「国の特別名勝および天然記念物」に指定され、
さらに十和田八幡平国立公園の「特別保護地区」となっているため、
コケはもちろん、キノコや他の植物の葉1枚もこの地から採取することはできない。
▲枝についたモコモコの地衣類。このまま腕や首につけてジュエリーにしたいくらいアーティスティックです。
さて、奥入瀬渓流に来てみて私がまず驚いたのは、
渓流にぴったりと沿うように国道が走っていて、
非常にたやすく森へ入れるということだ。
来る前にパンフレットやインターネットで
奥入瀬渓流の写真を見た限りでは、
あれだけ自然豊かな場所なのだから
てっきり渓流に行き着くまでに
ある程度は山歩きをするのだとばかり思っていた。
しかし、実際は(これは大げさではなくて)
国道と渓流は目と鼻の先という距離。
車を止めて一歩車外に出ればもうそこは森なのである。
▲これまた画像の右端にご注目。渓流のすぐそばを国道が走っているのがわかる。
事実、紅葉のシーズンには観光バスが何台も渓流沿いの道路脇に並び、
ラフな格好やヒールを履いた観光客でもすぐに森に入って、記念撮影をしていかれるとのこと。
また、森には遊歩道が渡され、勾配もきつくないので、
体力に自信のない人でも、時間のない人でもここならば
安心して自分のペースで森歩きができる。
▲渓流に沿って遊歩道があるので歩きやすい。さらに道は水面とほぼ同じ高さにあるので、水との距離が近いこと!
水中に泳ぐ魚もしっかり見ることができた。
こんなに人間に都合の良い立地ながら、
ここまでの豊かな自然が残っているとは!
これぞ、まさに東北の奇跡(ミラクル)!! ←(おおげさw)
いままで屋久島や赤目四十八滝、吉野の山や八ヶ岳など
自分なりにコケを求めて方々を歩き回ってきたが、
ここまで万人の足に優しいコケの森は初めてで、
車を降りて早々、私はすっかりたまげてしまったのだった。 (つづく)
☆奥入瀬の巨岩にお住まいのコケたち☆
▲もうここからでも十分コケに覆われていることはわかりますが、近寄ってみるとさまざまなメンツがお住まいになっていました。
▲エビゴケ。赤茶色の胞子体がまるでエビの目のよう!?
▲ネズミノオゴケ。頭隠して尻隠さずな、ネズミたちのしっぽのようなコケ。胞子体もたくさん出ていた。
▲オオトラノオゴケ(おそらく)。いままで東京都内の山々でも見かけたことがあるが、ほとんど乾燥している姿ばかりで、
ここまで潤ったトラさんは初めて見た。なんとなく色も若い感じがした。
▲トラさんのお次は〝リュウさん〟のミヤマリュウビゴケ。いったいどのあたりが〝竜の尾〟を表しているのか皆目見当がつかないが、
光を透かすような優しい黄緑色に、赤褐色の茎、水に濡れた姿はなんとも繊細で美しいこと!
ちなみにこのコケは、イワダレゴケと同じグループ。不規則な羽状に枝分かれするが、イワダレゴケのように階段状には成長しない。
というわけで、偶然なのだろうけど、不思議と動物の名前がつくコケたちで覆われた巨岩なのでした。