▲ヤマトフタマタゴケ/Metzgeria lindbergii (2016年5月・東京西部 沢沿いの樹幹にて)
気がついたら6月に入ってしまっていたが、遅まきながら5月の振り返り。
5月は、ゴールデンウィークの「KOBEコケ展」に始まり、岡山コケの会関東支部の観察会に参加するために上京、
そして最終週の週末は道草さんの「小さなコケ展」のイベントに参加と、じつに内容みっちり、充実した1か月だった。
5月21日(土)に行われた岡山コケの会関東支部のコケ観察会には、約2年半ぶりの参加だった。
関西に引っ越してから、まさか飛行機に乗ってまで関東の観察会に参加することになろうとは。
交通費だってバカにならない、今月は仕事の締切もそこそこある。
しかし無理をおしてでも参加することにしたのは、なんといっても講師陣が豪華だったから。
蘚類にとても詳しく「歩くコケ図鑑」との異名もあるKさん、苔類の研究者のFさん、
そして元コケ写真家で現在は「糞土師(ふんどし)」のIさんがまさかのコケ界にカムバック!
こんな3人が揃う観察会なんて、もう次の皆既月食くらいまでないんじゃないかと思えるくらい稀有なこと(たぶん)。
こりゃなんとしても行かねばなるまいと、前日から上京し、鼻息を荒げて土曜の朝8時の中央線に飛び乗ったわけである。
乗車して5分後、茨城県から来られたコケ友Yさん(といっても人生の大先輩)とバッタリ遭遇。
久々にお会いできた喜びを噛みしめつつ、近況を話したり、コケの話をしたりして盛り上がる。
そうこうしているうちにあっという間に小一時間がたち、今回の目的地である青梅市のとある駅前に到着。
集合時間の40分くらい前にもかかわらず、もうすでに苔類のFさんが駅前で待っていらっしゃる。
そして、そのかたわらには「今回の観察会にはなんとしても!」と同じく鼻息を荒げて
宮崎県と岡山県から上京してきた同志たちが手を振って出迎えてくれる。
さらには関東支部世話人のYさん、また関東支部の観察会の常連さんも何人かちらほらと。
「お久しぶりです」と挨拶しつつ、皆さん以前と変わらず「コケが見れるのを楽しみに待ってた!」というような顔をされているのを確認し、なんだか嬉しくなる。
そしてしばらく駅前でおしゃべりしていると、コケ友Mさんがなにかを発見!
▲何かを発見し、カメラを構えるMさん(の手)。
▲なになに?!コケ?!
▲はっ、これは高地に生える大型の蘚類「ダチョウゴケ」では?! なぜこんな所に?というか、でかすぎる!
はい、じつはこれ常連参加者のOさんがご友人に頼んで
「ダチョウゴケ」をイメージして作ってもらったというアクリルたわしなのである。
ちなみにこちらが本物のダチョウゴケ。
ひと目見て「何これ!」「かわいい!」と盛り上がるコケ好き女性陣。
せっかくだからとダチョウゴケが群落で生えている姿をイメージして、このように立ててみた次第。
ちなみに太っ腹のOさん、現地に早く到着していた女性優先で
プレゼントしてくださるというので、私も1枚いただくことができた。
朝からまことにラッキーである。
さすが豪華講師陣がいらっしゃるとあり、この日集合したのはなんと約30人の参加者。
コケ観察会としてはちょっと人数が多過ぎるが、これは楽しい観察会になりそうだ。
予定では、駅から徒歩数分くらいにある山道に入り、
そこでじっくり観察しようということだったはずなのだが・・・。
駅から歩き始めてわずか10秒。
まずIさんがやにわに立ち止まり、ハイゴケを拾い上げて
「糞土師的コケ活用術」についてアツく語り始めた。
じつはIさん、コケの撮影方法を教える講師と見せかけて、
今日はこの活用術の伝道と実践が一番の参加目的だったのである!
糞土師的コケ活用術ってなに?! うーむ、じつに怪しい。
注)もちろん撮影方法についても質問すれば、ちゃんと答えてくださいました!
さらにIさんに続けとばかりにKさんもすぐに立ち止まり、
そばにあった岩にはりついてコケを見始めたので、これまたあっというまに人だかり。
そしてもちろんFさんも・・・(以下略)。
あぁ~、まずは山道へ行くって言ったのに、皆さんコケ見つけちゃった・・・。
世話人Yさんは思わず苦笑いである。
▲岩場に生えていたコバノスナゴケ(写真中心にある大きな群落)とエゾスナゴケ(写真右下のややピンボケの群落)
その後は、蘚類Kさんグループ、苔類Fさんグループに分かれ、
さらに希望者はIさんの糞土師レクチャーを歩きながら受けつつ、
それぞれにじっくりとコケを観察。
▲目的の山道の入り口。石垣のコケを見る苔類グループ
先ほどは怪しいと言ってしまったが、じつは私は今日の参加目的の半分はIさんのお話を聞くことだったので、
苔類グループと一緒にコケを見たりしつつ、Iさんからレクチャーを受けることにする。
すると、話している途中でIさんがよいコケ(もちろん糞土師的に)を見つけられ、
なんと目の前でカメラを構えてコケを撮り始めたではないか!
10年近く前に写真家を辞められると決めた時から
「もうコケは撮らない」とおしゃっていたにもかかわらず、
まさか目の前で再びカメラを手に取る姿が見られるなんて!!
▲お知り合いの編集者さんにコケを持たせて撮影するIさん。
コケを好きになった当初からIさんが図鑑に提供されているコケの写真でコケのことを学ばせてもらってきた、
Iさんの写真によってさらにコケに開眼したと言っても過言ではない自分にとって、
これはあまりにも貴重な場面、思わずお姿を激写させていただいた。
(この気持はコケ好きでIさんの図鑑を心のバイブルにしてきたものにしかわかるまい!)
▲「フィルムもデジタルも撮り方はほとんど変わらないよ」とIさん。
▲(ピンボケですみませんが)ちなみに撮影されていたのはトガリバイチイゴケ。
下に葉っぱが敷いてあるのが糞土師的コケ活用術のポイント。
ちなみにさっきから繰り返している「糞土師的コケ活用術」だが、
これについては、Iさんが主宰する糞土研究会(HP:ノグソフィア)の今秋の会報誌にて
今回の体験談をレポートする機会をいただいたので、またその時が来たらこちらでも詳しく話そうと思う。
そう、なにげに私はレクチャーを受けただけでなく、
このあとちゃっかり実践にも及んだのだ。
実践してどう感じたか。
新たなコケの世界が広がった。
そして今、こういう時代だからこそ、
この活用術は広く世間の人が知っておいて損はない。
いまはそう言うにとどめておきたいと思う。
さてさて、コケ観察会の話に戻る。
この日、自分の中のいちばんの発見はヤマトフタマタゴケと出会い、
どこをどう見ればよいのか、その見方がわかったことだった。
フタマタゴケ科のコケは、これまで幾度となくフィールドで見てきたものの、いつ見ても、どこで見ても、同じ表情ばかり。
横で胞子体をつけた別科のコケでもいようもんなら、このコケの存在感は途端に薄くなってしまう。
どうもとっつきにくいというか、どこをどう見ればよいのかわからない、面白味の少ないコケという印象しかなかった。
▲樹幹に生えるヤマトフタマタゴケ(フタマタゴケ科)。言っちゃ悪いが、明らかにコケの中でも表情に乏しいほうだと思う
しかしこのコケの見るべきポイントは背面(表面部分)ではなく、腹面(樹幹に接着している部分)だったのだ。
今回Fさんと、苔類大好きなコケ友Tさんに見方を教えていただけたことで、このコケががぜん輝いて見えてきた。
そして自分はまだまだ表面的にしかコケを見ていないのだと痛感・・・。
▲見た目の面白味に欠けるヤマトフタマタゴケですが・・・
▲ちょっとアップで見てみると、なにやらひっついているのがわかるでしょうか
▲こんなにたくさんひっついております
じつはこれヤマトフタマタゴケのからだの一部分で、
まだ未熟な若い胞子体を包んで保護する袋状のもの、専門用語で「カリプトラ」と呼ばれる器官なのである。
胞子が成熟すると、この袋を破って胞子体が出てくる。
いままで「丘に打ち揚げられて干からびてしまった海藻」程度のイメージだったのに、
このカリプトラの存在に気付くと、途端にこのコケが生き生きと見えてしまうから不思議だ。
さらに樹幹にへばりついているこのコケをそおっと丁寧に剥がし、
樹幹に接していたコケの腹面を見てみると、さらに面白い。
このコケは1つの個体に雌と雄が同居しており(「雌雄同株」という)、
からだの中心部を走る中肋には雄・雌それぞれの生殖器官がくっついている。
雌雄の生殖器官が目と鼻の先のような近距離にあるということは、
それだけ受精をして胞子ができる可能性も高いというわけで、
そのためなのか、ヤマトフタマタゴケは無性芽はつくらない。
さきほど背面からちょこっと顔をのぞかせていた「カリプトラ」は、雌の生殖器官から出ていたもので、
繰り返しになるが、若く未熟な胞子体を守るための袋であるが、腹面を見ると中肋から伸びている様子がつまびらかになる。
面白いのはその形。先ほどの画像も目を凝らすと確認できるが、
このカリプトラ、頭でっかちなこん棒のような形で、
さらになぜか全身毛だらけというユニークな風貌なのである。
一方、雄の生殖器はというと「雄包膜」という膜で守られているのだが、
背面から顔をのぞかせるほど勇ましく伸びた雌のカリプトラとはうってかわって、
ぎゅっと饅頭を手でつぶしたかのような半球状で、中肋付近で縮こまっている。
雌が毛付きのこん棒なのに、雄はつぶれた饅頭・・・
この両者のコントラストがなんとも面白いではないか。
しかしそれもこれも、コケを表面だけしか見ていないような人(つまり私のような…)はいつまでも気づけない魅力であり、
のぺーっと無表情っぽく装いながらも、じつはヤマトフタマタゴケは大事なものは全部腹側に隠して、ちゃくちゃくと繁殖している。
このギャップにまた心惹かれてしまう。
最後に。今回のこのコケとの出会いがとても印象深かったことと、
現地でうっかり腹面の写真を撮り忘れたので、久々にイラストにまとめてみた。
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●おまけ
観察会終盤、唯一蘚類班Kさんの解説を聴けたのがこちらのヘチマゴケ属のコケ。
肉眼から、次第にミクロの世界へと入り込む。
上部の葉の付け根にねじれた糸状の無性芽がたくさん見える。
こういった無性芽をつけるのはケヘチマゴケやホソエヘチマゴケなどいくつかあり、
フィールドでのヘチマゴケ属の仲間は同定が容易ではないという。
コケの観察会を開催している機関は、全国各地の植物園や自然公園、また博物館など、調べればいくつか出てくるのですが、頻繁に開催しているところは少ないと思います。
また、観察会の情報を調べる時には、コケの愛好者が集まる「岡山コケの会」という全国組織がありまして、こちらでは、同会が主催する、または会員が行うコケ観察会の案内をよく出していますので、こちらのサイトをまずはご覧になってみるのがおすすめです。
「岡山コケの会」で検索してもらえれば、ホームページが出てきます。
なお、岡山コケの会の関西支部では、会員向けにほぼ
毎月1回観察会を関西エリアで開いています。もしご興味がありましたら、同会に問い合わせをしてみてくださいね。
あの。。苔についてちょっと興味がありますので、
もし観察会を参加したければ、どこが情報や申し込みますか?