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奥入瀬コケ紀行 その2: 森を愛する旅人に〜「奥入瀬自然誌博物館」のこと〜

2016-09-06 17:22:46 | コケの本棚


▲「奥入瀬自然誌博物館」のコケのページ


8月29~31日開催の日本蘚苔類学会 第45回屋久島大会から無事帰宅した。

8月しょっぱなは奥入瀬渓流のコケ旅から始まって、
最後のしめくくりが屋久島だなんて、なんという贅沢な夏だったんだろう。
こんな夏休み、人生でもう二度とないかもしれない。

旅から帰ってきたら私の住む街はすっかり涼しい風が吹き、秋になっていた。
窓辺から秋の虫が歌うのを聴きながら、しばらくはこの夏の思い出をゆっくりと噛み締めて秋の夜長を過ごすことになるだろう。


さて、前回の奥入瀬コケ紀行のつづきである。
今日は一冊の本を紹介したい。

それはこちら。





前回のブログにも書いたが、河井大輔さんの「奥入瀬自然誌博物館」である。
この春に出版されて出版当初も読んだが、今回の奥入瀬の旅に向けて再読。
あらためて、じつによい本だと思う。

河井さんは北海道でアウトドア雑誌の編集や野鳥図鑑の執筆、環境調査業などに携わられたあと、
2007年から奥入瀬渓流を拠点に仲間の皆さんとネイチャーガイド業をされるようになり、
2014年からは「NPO法人 奥入瀬自然観光資源研究会」(通称:おいけん)の理事長として
奥入瀬観光のますますの発展と充実に努めておられる方である。

この本は、奥入瀬渓流がどうして今のような姿になったのかという成り立ちや、奥入瀬渓流で出会えるさまざまな生き物のお話が、
長年、奥入瀬の自然を見つめ続けてきた河井さんならではの視点で語られている。
具体的には樹木、野草、シダ、コケ、地衣類、菌類、哺乳類、鳥類、両性類、爬虫類、昆虫、
さらには水や地層にいたるまで、そのジャンルは多岐にわたる。











▲誌面の一部。どの写真も「よくぞこんな瞬間を!」と言いたくなるほど、芸術的で美しいのも特筆すべき点のひとつ


私は屋久島や奥入瀬渓流などを訪れた時には、現地の自然についてより深く理解したいという思いから、
必ず河井さんのようなプロのガイドがついてレクチャーしてくれるネイチャーツアー(なかでも森歩きツアーは必須)を利用するのだが、
欲張りなツアー利用者である私にとって、この本はまさに救いの書であった。

というのもこの本には、ツアー中にガイドさんの話を聞きつつも、その解説された対象物についつい夢中になるあまり、
途中からきっと聞き逃している(こういう経験って私だけだろうか?!)であろう話がふんだんに散りばめられており、
さらには私のように感覚的に森を楽しんできた人間が、もう一歩森に理解を深めるのに役立つ「自然科学的な眼をもつこと」の重要性を説いてくれているからである。

しかもまったく小難しくなく、読んでいるとまさに本のタイトル通り、
奥入瀬の森の博物館で河井学芸員が老若男女に向けて
ミュージアムトークをしてくれているかのように、語り口が優しく大変読みやすい。





たとえばこの「流れのしくみを読む」という短い文章。
「沢の流れ」とひとことで言ってもじつは「流心」「副流」「逆流」など場所によってさまざまな流れ方がある。
それがどのように生き物の暮らしに作用しているのか、そういうことも考えてみませんかと読者に説いている。

正直、私は水流の美しさには毎度のように目を奪われるものの、それが何にどう影響しているかなんて考えもしなかった。
ちょっと立ち止まって沢の流れをじっくりと見ることで、そこに生きる虫や魚、そしてコケの姿までもが見えてくる面白さ。

そいう眼差しを持ち、想像力を膨らまして、見えていないものにも思いを馳せること。
この本で河井さんが伝えたいことの一つなのではないかと思う。






奥入瀬の森をすでに歩いたことがある人、またはこれから訪れる予定がある人はもちろん、
奥入瀬に行ったことがない人も、この本を読めばきっと、どこかの森へ行って自分の「森を見る眼」を試したくなるだろう。

そう言った意味では全国各地の森歩きで役立つ本だと思うし、これは素人のみならず、案内する側のガイドさんにも参考になること間違いなしなのではないかと思う。
まったくもって素人の余計なお世話だが、全国のネイチャーガイドの方も各自1冊必携!と強くオススメしたい。

そしてこれはひそかな期待なのだが、もしも河井大輔さんのような自分のフィールドを心を尽くして見つめ続ける、そして発信し続けるガイドさんが全国各地いたら。
森好き、ネイチャーツアー好きの私としては、これからの森を巡る旅にとても希望がもてる。


ちなみに、この本は限定600部のみの販売なのだが、現時点で残り200部を切ってきたとのこと。
「限定」とある通り、おそらく売り切れてしまうと再版があるかどうかわからないので、
どうぞご興味のある方はお早めに。 → お問い合わせ・お申し込みはこちら  (※スクロールしてページの下の方を見てください)

ちなみにここまで勧めておいて最後に水を差すようだが、お値段は正直、高い。
でも以前『コケの自然誌』(ロビン・ウォール・キマラー著)を「いい値段するなぁ!」とちょっと財布を出し渋りつつも買って読み、
予想以上に満足感があったあの感じとこの本はどこか似ている。
コケ好きの方なら、この気持ち、たぶんわかってもらえると思います(笑)


   
    ▲奥入瀬の森の上流、十和田湖畔近くで見かけたツチアケビ。菌類から栄養をもらって生きる不思議な植物。
     秋につける真っ赤な果実は「森のソーセージ」とか「山のトウガラシ」などと呼ばれるそう


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