はじめに書いときますが、
今日の記事は長文、
そしてなかなかマニアックですヨ。
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コケ探しをしたことがある人なら、
庭や公園などで一度はその姿を見かけたことが
あるだろうコスギゴケ。
また、コケに興味のない人でも、
理科の教科書でその名前だけは
聞いたことがあるかもしれない。
比較的多くの私たちになじみ深いこのコケは、
(胞子が入った袋)を包む帽子(専門用語では「帽」と言います)が、
白い毛で覆われていることが大きな特徴の一つ。
学名の「Pogonatum inflexum(ポゴナトゥム インフレクスム)」の
Pogonatum(ポゴナトゥム)が「たてがみ」を意味するのも、
この帽の白い毛から発想を得てのことのようだ。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/27/91/fbab51617e6262c475d834fbf70f623c.jpg)
▲こちらがご存じコスギゴケ。が温かそうな白い毛で包まれています(2011年10月 伊豆高原)
ちなみに信じがたいことにその昔、
この帽の白い毛は、毛生え薬になると考えられていたとか。
やはり薄毛は現代に限ったことでなく、
昔の人にも大きな悩みのタネの一つだったのか。
しかし〝ワラにもすがる〟どころか、
コケにまですがるほどだったとは・・・。
当時の薄毛に対する深刻ぶりがうかがえて、
なんだかせつない気持ちになる。
さて、話がそれてしまったが本題はここから。
私はこのコスギゴケの帽について、
前々から気になっていたことがある。
それはこの羊毛のように温かそうな毛が
どうやってから取れるのか、ということ。
そもそも帽というものは、(およびその中の胞子)を守るのが役割であり、
の中の胞子が外へ飛び立つ準備ができると、から取れる(外れる)ようになっている。
帽が取れた後は、蓋のついたがあらわになり、
そしてその蓋も取れると、いよいよ胞子が外へ飛び立つという段取りだ。
他のコケ(蘚類。帽は蘚類にしかないので)を見てみると、
帽がを覆うの面積はの上半分もしくはそれ以下が多い。
つまり、すっぽり被るというよりも浅く被っているような状態なので、
が熟した頃にもし風に吹かたり、雨に打たれたりすれば、
ごく自然に取れるというのは、なんとなく理解できる。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/3a/dd/d02eeaa169bd09308dfb8269ddd968c7.jpg)
▲ナミガタタチゴケの帽は蓋に斜めにのった状態。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/10/92/b63fdd8e0ea3b61bc1ebf8c2c8b05bfb.jpg)
▲こちらはエゾスナゴケ。蓋だけをすっぽり包む。小人が被っていそうな帽。
コスギゴケの場合も、実は本来の帽の面積はさほど大きくなく、
他のコケ同様、蓋にちょこんとのっかる程度。
しかし、帽から多くの長い白い毛が伸びて、
全体をすっぽりと覆うようになっている。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7f/9f/e946251ee34be657212b2e37871e1cc4.jpg)
▲コスギゴケの帽。写真中央のを見ると、まだ小さく膨らむ前からすでにしっかりと毛に覆われているのがわかる。
ご覧のとおり、茎の部分から
すっぽりと全体が毛に包まれた状態だと、
やはり風に吹かれたり雨に打たれただけで、
取れるとはなんとなく想像しにくい。
今までコスギゴケはいろんな場所で
よく見かけてきたとはいうものの、
じっくりと成長経過を観察したことはなかった。
そのためこの疑問は長年、私の中のプチミステリーだったわけである。
ところが先日、そんな長年の疑問が
解決するような場面に出くわした。
それは季節ごとに訪れている伊豆高原で、
いつものごとくコケ観察をしていたときのこと。
その時の様子がこちら。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/74/fb/1ee3ebe9204ed45e3f1f72e23cb7b46d.jpg)
▲とあるコスギゴケの群落。本をスケールにしてみるとおわかりの通り、群落としての大きさはさほど。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/5e/5d/7963edf841fb961b40aeca75c601039f.jpg)
▲近寄って見てみると・・・写真中央のにご注目! 毛の一部が、裂け始めている!?
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/24/81/6fa47bdbc049dd151005c2a79f469f4b.jpg)
▲こちらはさらに裂け目が広がったたち(写真中央と中央右やや下の)。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/4e/af/014a6d9d67bd8365431a7f798914ee44.jpg)
▲こちらの皆さんも。どんどん毛が裂けてめくれあがってきています。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/3d/3f/9fb7564a24b135ab674e3f5d8592f81d.jpg)
▲さらにめくれが進行すると・・・もう蓋部分にかろうじて引っかかっているような状態。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/2e/d5/f4009f46884f12e23a1db22a03562204.jpg)
▲おぉ、ついにがあらわに!
いままで私は、何らかの方法で白い帽が丸ごとスポッと
取れるのだとばかり思っていたのだけれど・・・。
今回の群落の様子を見るに、
①が小さい頃から全体を覆っている帽の毛は、
が成長して膨らむと全体を覆いきれなくなり、
②一部からじわじわと裂け始め、
③最後はトップが蓋に引っかかっただけ
のような状態となる。
この状態なら雨風で
自然に外れるというのもなずける。
しかしまぁ、まだこれはほんの一例だけなので、
もしかしたら他にも帽の取れ方はあるのかもしれない。
今後も引き続きコスギゴケの白い帽子については、
いろんな場所で時間をかけてチェックするつもりだ。
◆今日のコケ絵日記 (今回のまとめとして絵に描いてみました。フリーハンドでたどたどしい筆致ですが・・・まぁ素人なのであしからず)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/0f/b0/edb280ce66c38358611b5d2e68f35ced.jpg)