危機に立つ日本 さんより転載です。
「ネガティブキャンペーンだ」 原発関係者から批判の声 「いざとなれば逃げる」記事が広めた不信感
2014.9.12 14:27 [原発]
産経ニュース
http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/140912/crm14091214270017-n3.htm
政府が「吉田調書」を公表したことを受け、朝日新聞は11日、東京電力福島第1原発事故当時、吉田昌郎元所長の命令に反して所員が撤退した、とする5月20日付記事の誤りを認めた。九州で原発に関わってきた人々からは、「事実の歪曲(わいきょく)だ。正確な情報を伝えるのがマスコミの使命じゃないのか」と批判の声が上がった。
× × ×
九州電力は昭和50年10月、玄海原発1号機(佐賀県玄海町)の営業運転を始めた。初の純国産原子炉だった。「原発で日本のエネルギー不足を解消する」。強い使命感を支えに、苦難を乗り越えた当時の関係者は、朝日新聞の吉田調書報道に憤った。
50年当時、原子力建設課長として1号機建設を担った徳渕照雄氏は「朝日新聞は、きちんと真実をつかんでから報道すべきだった。日本の原子力産業の一角を担ってきた身として、誤解を招く記載があるのは極めて不本意です。間違いがあったのなら、すぐに謝罪や訂正をすべきだったでしょう」と、朝日の姿勢に疑問を投げかけた。
玄海原発2号機建設に携わった檀博之氏も「私たちだけでなく、後輩の原子力関係者も仕事に強い使命感を持っています。ですから、福島原発の所員が命令違反で逃げたという報道を目にした時は『本当かな?』と疑問でした。マスコミは正確な情報を伝えるのが重要な使命ではないのでしょうか」と語った。
九電の川内原発(鹿児島県薩摩川内市)は現在、再稼働一番手の候補となっている。それだけに、反原発団体などからの風当たりは強い。ある九電関係者は「どれだけの読者が、福島原発の所員が現場から逃げたと信じたことか。原発再稼働に対するネガティブキャンペーンに他ならない」と憤慨した。
一方、別の電力事業関係者は「原発をめぐる朝日の報道は恣意(しい)的なものが多い。もともと、誰も信じなかったのではないですか」と吐き捨てた。
× × ×
「電力会社の人間は、いざとなったら逃げる。そんな印象を与え、原発や電力会社への不安をかき立てる記事でした。再稼働には間違いなく逆風ですよ」
東京電力福島第1原発事故の吉田調書をめぐる報道で、朝日新聞が誤りを認めたことに対し、九州の電力事業関係者はこう感想を述べた。
朝日は5月20日付の新聞で吉田調書に関する記事を掲載した。「所長命令に違反 原発撤退」と見出しを掲げ「第一原発にいた所員の9割にあたる約650人が吉田氏の待機命令に違反し、10キロ南の福島第二原発へ撤退していた。その後、放射線量は急上昇しており、事故対応が不十分になった可能性がある」と報じた。
掲載当時、九州電力川内原発は、原子力規制委員会の安全審査において「優先枠」に入り、再稼働候補の一番手となることが決まっていた。
だが、安全審査の見通しは立たず、反原発団体を中心に、再稼働への逆風は強まっていた。
記事掲載翌日の5月21日には、福井地裁(樋口英明裁判長)が「万が一でも危険性があれば差し止めは当然」として、関西電力大飯原発3、4号機の再稼働を認めない判決を言い渡した。
川内原発がある鹿児島県では6月13日、反原発団体が集結し、再稼働反対の集会を開催した。
こうした反原発団体にとって、朝日の記事が運動の高まりに一役買ったことは、間違いない。
「おなじみ、木村英昭記者のスクープです」
福島第1原発事故に関し、東京電力取締役の個人責任を追及するという、非営利団体「東電株主代表訴訟」のフェイスブックでは、5月20日付の記事を、記者の名前入りでこう紹介していた。
九電に対し、朝日の記事を基にした抗議などは、目立っては寄せられていないという。
しかし、「福島のヒーローは、実は怖くて逃げていた」という風評は国内外に広まってしまった。
外国の有力メディアは、朝日の記事を引用し、相次いで報道した。韓国のセウォル号事故と同一視し、「有事に逃げ出した作業員」とする報道もあった。
米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)は5月20日、「朝日新聞によると」という形で、「パニックになった作業員が福島第1原発から逃げ出した」と報じた。
朝日新聞が誤りを認め、訂正したとしても、記事が広めた原発や電力会社への不信感が消え去ることはない。加えて、原発事故という極限下で、命を顧みずに困難に立ち向かった日本人の精神と行動を、国内外で貶(おとし)め続けており、その罪は重い。(小路克明)