誰にも何にも束縛されることなく、好奇心の赴くまま自分の思うように好きなようにしたい、ある意味自己チュ-な「風の旅人」
小学校1年生(6歳)の時、大阪の叔母さん(主人の姉)のところへ新幹線で1人旅して以来、主人の実家である徳島まではもちろんのこと、近場でもいろいろな場所へ「旅」をしています。
去年の夏も、受験生だと言うのに1人で徳島へ帰省したり「江ノ島水族館」へ行ったり…
旅に出る前には、まず自分で「行程」を組み立てます
ネットで検索しながら、目的地とそこに辿り着きいろいろ体験して家に戻ってくるまでの交通手段や乗り換え方法などを自分で決めます。
そして、かかる交通費や食事代などの必要資金を算出して、ハハに請求してくるのです
そんな息子が、22日…
「お母さん、明日、長瀞に行きたいんだけど…」
「(また来たか…)何言ってんの期末が近いっちゅうのに」
「ちゃんと勉強するから…」
「…そんなこと言って、いつもチョロっと申し訳程度にしかしないじゃん」
「やるよー」
「ダメーーー」
「……、……」
「……じゃぁ、24日は期末テストの勉強をするのが条件だからねっ」
…甘いなぁー
長瀞(ながとろ)と言えば、奥秩父の渓谷
相当昔、家族で一度だけ訪れたことがあります。
今ごろは紅葉が見頃。
観光名所の「岩畳」周辺を始め、ライトアップされた「月の石もみじ公園」など、見どころがたくさん
http://www.nagatoro.gr.jp/
6:22 東川口発 武蔵野線 6:29 南浦和着 乗り換え
6:32 南浦和発 京浜東北線 6:41 さいたま新都心着 乗り換え
6:50 さいたま新都心発 高崎線 7:33 熊谷着 乗り換え
7:38 熊谷発 秩父鉄道 8:33 親鼻着
その後、荒川ライン下りに乗船して長瀞まで行き、岩畳周辺を散策。
再びライン下りで終点まで行き、無料送迎バスにて長瀞駅まで戻る。
長瀞からは秩父鉄道に乗り、熊谷まで行き、帰途に着く。
東川口着は、19:00頃の予定…
息子の立てた「行程」はざっとこんなカンジです。
算出した交通費、〆て4690円
「じゃあ、お昼代とあわせて5000きっかり。あとは自分で考えて何とかしなさい」
さて、23日の朝、ちゃんと6時前に起きて出かけていった息子。
その後の息子の「足取り」です。
芥川龍之介作「トロッコ」風に、どうぞ
少年は予定通り「親鼻」に到着した。
早朝で、辺りに人影は全くない…
「荒川ライン下り」の乗船所は一体どこだろう?
みしみしと凍てつくような冷気の中、しばらく途方に暮れ、立ちすくむ少年。
何分待っただろうか、向こうから秩父鉄道に乗るであろう1人の男が歩いてきた。
「あのーすいません。荒川ライン下りの乗場はどこか知りませんか?」
「ああ、それならこの先の自動販売機のところを右に曲がって下りていったところだ」
少年は教えられた通りに歩いて行った。
やがて「ウォータパーク長瀞 ライン下り乗船場」の看板が見えてきた。
近づいていくと、なにやら「ガー、ガー…」という大きな音がする。
大型トラックに積まれた観光船が、クレーンで吊り上げられ川へ下ろされているところだった。
絶妙なバランスで固定され、トラックにうず高く積み上げられた3~4艘の手作り舟。
それを何とはなく下から見上げていると、背後から男の声がした。
「おい、そこのおまえ、おまえもやるか?」
船頭の1人だった。
「えっ、あっ、はぁ、…」
少年は本意とも不本意とも取れそうな曖昧な返事をしたが、船頭は少年のそんな躊躇など一向に気にする風もなかった。
そして、そうすることがまるで日課であるかのように、次から次へと指示を出した。
舟にシートをかけたり救命胴衣をとりつけたりするのが少年の仕事だった。
「そろそろ昼飯にするか…」
船頭の言葉でもう「昼」だとわかった。
「昼」だとわかった瞬間、空腹が少年を襲った。
「おまえ、昼飯は持ってるのか?」
「あっ、いえ、実は、金足りなくって…」
「そうか、なら、昼飯おごってやるゾ」
「えっ?いいんですか?」
周辺には、おそらくそこしか「店」らしきものは見当たらない。
その「店」でムスビを2個とパスタを買ってもらい、もくもくとほおばった。
「おまえ、どこから来たんだ?」
今更のような船頭の質問に一つひとつ丁寧に答えながら、今の自分が置かれた境遇が、少年には何だか楽しくて仕方がなかった。
西日の光が差してきた。
「おまえ、今日はよく手伝ってくれたな。もういいから、帰れ。舟に乗せてやるから」
船頭の1人が言った。
少年は舟へ跳び乗った。
舟は最初おもむろに、それから見る見る勢いをつけて、一息に川を下り出した。
その途端に周りの風景は、たちまち両側へ分かれるように、ずんずん目の前へ展開して来る。
顔にかかる水しぶき、舟べりをたたく怒涛。
船頭は少年のためにわざわざスリルのあるコースを下ったのだった。
少年はほとんど有頂天だった。
終点の船着場に到着すると、そこから長瀞駅行きの無料送迎バスが出ていた。
船頭は少年と一緒に送迎バスに乗り込み、長瀞駅まで見送りに来た。
「じゃあな、今日はありがとよ!気をつけて帰れよ」
熊谷までの切符を買い、無造作に渡すと、船頭は足早に戻って行った。
秩父鉄道の車窓に流れる紅葉を見ながら、自然に顔がほころぶのを、少年は必死でこらえていた。
「じゃあ、渡した5000円のうち、使ったのは2000円だけなんでしょ3000円返しなさい」
「もう銀行に預けてきた」
「ナニ~~~」
「勤労感謝の日」に「勤労」してきた息子。
まっ、いっかーーー