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海鳴りの島から

沖縄・ヤンバルより…目取真俊

謝花昇没後100年

2008-10-29 19:48:01 | 生活・文化
 今日10月29日は謝花昇の没後100年の命日であった。伊佐眞一編・解説『謝花昇集』(みすず書房)によれば、〈午後八時、精神障害の重病化に加えて、慢性胃腸カタルを起こし死去、享年満四三歳(戒名は耕雲軒釈昇道不退位)〉ということだ。1901年5月中旬に神戸駅で精神に異常をきたして以来、謝花は再び歴史の表舞台に立つことなく、故郷の東風平でその生涯を閉じた。
 この数日、謝花の死から100年が経つことについて、県内紙の文化・学芸欄で何か企画が組まれるのではないかと注目していたのだが、まったくの期待はずれであった。かつてあれだけ論じられ、芝居や小説にも取り上げられた謝花が、今ここまで忘れられているのは何故なのだろうか。
 没後100年というイベント的な発想ではなく、謝花研究は地道に進められている。そういう反論があるかもしれない。しかし、専門家が謝花研究の新しい成果を生みだしているとして、それを広く市民に伝えるためにも、県内紙の文化・学芸欄でこの機会に謝花について何か企画してほしかったのだが。
 季刊『けーし風』2008年9月号に、鹿野正直氏の次の発言が載っている。
 〈このごろの沖縄の歴史意識をこちらから眺めていますと、「琉球処分」という言葉が消え失せて、「沖縄戦」という言葉が焦点化してきたことが、私にはひとつの特徴かと思えます。これまで、島津による侵攻を第一次、廃藩置県を第二次、第三次が講和条約で、第四次が復帰というように、何かのときには絶えず「琉球処分」という言葉が浮上した。しかし、今回は、危機的な状況にもかかわらず、「琉球処分」という言葉がほとんど出てこない。「琉球処分」という言葉で事態を解釈しようとしなくなったのではないでしょうか〉(34ページ)。
 来年2009年は1609年の薩摩侵攻から400年、1879年の琉球処分から130年を迎える。沖縄にも奄美にも、それに向けての準備を進めているグループや個人があり、必ずしも〈「琉球処分」という言葉で事態を解釈しようとしなくなった〉とは言えない、と私は思う。ただ、東京に住む鹿野氏の目に、今の「沖縄の歴史意識」がそのように映っていることには、一読以来いろいろ考えさせられている。謝花昇の没後100年に対する無関心ぶりも、琉球処分に対する関心の薄らぎと関わってくるのだろう。
 大江・岩波沖縄戦裁判や教科書検定問題が大きく浮上する中で、沖縄戦、とりわけ「集団自決」の問題がこの二年余り盛んに論じられた。私自身、新聞、雑誌やこのブログで機会あるごとに書いてきたのだが、ある政治状況の中で前面化している問題に、集中的に対応しなければならないことがある。そのために他のことに取り組む機会・時間は少なくならざるを得ないが、大江・岩波沖縄戦裁判に関わる一方で、来年のことはずっと考え続けてきた。まずは沖縄近代史の基本的な文献を読まないことには話にならないので、今はそれを続けている。
 沖縄戦と琉球処分以降の沖縄の近代の問題をどう総合的にとらえるか。それは沖縄の知識人が向かい合わねばならない問題としてこれまであったし、これからもあるだろう。私は歴史研究者ではないので、あくまで小説家としてその問題を考えていくのだが、同時に、絶えず沖縄の現実の問題に交差させて思考し、実践しなければと考えている。そういう立場に立てば、謝花昇はやはり重要な存在なのだ。「義人」「悲劇の英雄」として偶像化することなく、謝花の思想と生き方をとらえ返していくという課題は、決して過去のものではない。
 と、偉そうにアジってしまったが、明後日はいよいよ大江・岩波沖縄戦裁判控訴審の判決を迎える。大阪に傍聴に行くのも最後になるが、勝訴の瞬間を再び見たいものだ。 

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記憶の闘争 (やんばるっ子)
2008-11-01 00:41:58
夕方のラジオのニュースで裁判の判決をききました。勝訴の瞬間を見られて良かったですね。「済州島事件」の集会で講演をした金石範氏の言葉を思い出しました。国家権力による記憶の抹殺が今でも続いている、記憶は闘争で奪い取るものだと言うような事だったと思います。薩摩侵攻400年から歴史歪曲問題など
金氏の言葉を思考しながら、一庶民の位置でとらえ返してみたいと思います。





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