海鳴りの島から

沖縄・ヤンバルより…目取真俊

ゴーマニストの無知と錯乱

2009-07-13 21:47:22 | ゴーマニズム批判
 『SAPIO』09年7月8日号の「ゴーマニズム宣言」で小林よしのりは、沖縄は〈サヨク〉の〈全体主義の島〉というデマキャンペーンの材料として、もう一人お仲間の例を挙げている。

〈沖縄大学の宮城能彦教授は
 わしの『沖縄論』の案内役を
 務めたために、
 それまでかかわってきた
 調査研究プロジェクトに
 いられなくなってしまった。〉

〈「沖縄タイムス」「琉球新報」の
 二紙が作り出す論調に
 真っ向から逆らう人間は
 沖縄では排除される。

 だから異論を持つ人は
 「怖い」と思うのだ〉(『SAPIO』09年7月8日号 61ページ)。

 いやはや、よく描くよ、まったく。〈それまで関わってきた調査研究プロジェクト〉とは、具体的に何というプロジェクトなのだろうか。〈わしの『沖縄論』に案内役を務めたために〉〈いられなくなってしまった〉というのだが、具体的にどうやっていられなくなったのか。小林は宮城教授から直接そのことを確認したのか。そもそも、小林よしのり企画・編著『誇りある沖縄へ』(小学館)では、宮城は次のように語っていたのではなかったか。

〈小林 05年の講演会には1200人強が集まったけど、『沖縄論』はそれをはるかに上回る沖縄県民に売れているわけだし、『わしズム』の沖縄特集も、石垣島の書店で見たら、結構たくさん仕入れたのが1冊しか残っていないという状況だった。
宮城 そういう感覚を持つ人々が存在することを、沖縄のマスコミはあえて拾おうとしていない面はありますね。私たちは相当な覚悟で『わしズム』の座談会に出席して、何かあるんじゃないかという不安半分、期待半分で身構えていたんだけど、びっくりするぐらい何の反応もなかった。もうちょっと嫌がらせや意地悪をしてほしいと思うぐらいですよ〉(36ページ)。

 去年の6月に出た同書で宮城はそううそぶいていたのだが、本人の期待通りに〈嫌がらせや意地悪〉をされたということなのだろうか。だったら、調査研究プロジェクト名や嫌がらせの実態などを具体的に明らかにしてほしいものだ。具体的事実は何一つ示さずに、小林と関わったから、あるいは沖縄の新聞に〈真っ向から逆ら〉ったから排除されたなどと、よくもまあ平然と描けるものだ。
 だいたい、宮城がある調査研究プロジェクトに関わっていたとして、彼なくしてはそのプロジェクトが成り立たないほど重要な仕事をしていたなら、彼が別の場でどういう主張をしようがはずされることはない。仮に色々なトラブルがあってはずれたにしても、本人に実力があれば、活動の場はいくらでもある。高里洋介のところでも書いたが、沖縄は〈サヨク〉の〈全体主義の島〉どころか、自公体制や保守勢力が幅を利かしている地域であり、それに迎合して保守的な主張を行う学者はむしろもてはやされるのだ。
 その代表例が「沖縄イニシアチブ」を唱えた高良倉吉・大城常夫・真栄城守定(故人)たち三名の琉大教授である。「沖縄イニシアチブ」をめぐる論争を、沖縄のマスコミを叩くために利用している者もいるが、実際には高良をはじめとした三名は、当時の稲嶺恵一知事のブレーンとして、あるいは日本政府の基地政策を助ける沖縄側の協力者としてもてはやされ、政府や県が主催する各種審議会に引っ張りだこだったのだ。
 高良らは、日米安保条約を認める立場から、基地問題の実効性のある解決を唱えたが、実際には解決どころか何一つ成果を示すことなく役割を終えた。結局、高良をはじめとした三名の学者は、御用学者として権力に媚びを売って甘い蜜を吸っただけだった。同じく、高良倉吉、真栄城守定と『沖縄の自己検証』という鼎談集を出し、稲嶺ブレーンの一人だった牧野浩隆(元琉球銀行常勤監査役)は副知事に任用され、稲嶺知事地ともに普天間基地問題で県民を引きずり回し、未解決のまま投げ出したにもかかわらず、現在は沖縄県立博物館・美術館の館長に天下っている。
 こういう現実を見れば、小林よしのりが書く〈「沖縄タイムス」「琉球新報」の二紙が作り出す論調に真っ向から逆らう人間は沖縄では排除される〉というのが、まったくの嘘だと分かるだろう。にもかかわらず、宮城能彦が高良倉吉たちのように政府や県からもてはやされないのは、学者・研究者としての実績と能力に大きな差があるからだ。要するに御用学者としても役に立たないというだけのことで、それを沖縄の新聞に〈真っ向から逆ら〉ったから〈排除され〉たかのように描くのは噴飯ものでしかない。これも沖縄のことをよく知らない読者をだますためにデマをまき散らす、小林よしのりのいつものやり方である。
 宮城はこの間、小林よしのりの提灯持ちを務め、沖縄のマスコミを叩く、という今の日本の右翼勢力の狙いに沿って沖縄から発言することで、彼らに珍重されてきた。恵隆之介や「狼魔人」こと江崎孝らと同類で、この手の漢奸はいつの時代でもいるものだ。しかし、漢奸が民衆から嫌われ、軽蔑されるのも、時代の常だ。とりわけ『誇りある沖縄へ』で若い研究者や教科書検定問題の県民大会で発言した高校生、米兵に暴行された被害者の女子中学生などを、相手が反論できないのを知った上で言いたい放題叩いた宮城に、沖縄の中で反発が生じるのは当然のことではないか。
 『誇りある沖縄へ』の宮城の発言を読んで、これが沖縄大学の教授の発言かと呆れたが、小林よしのりを相手に調子に乗ってインターネットの匿名掲示板のような発言をまき散らしている様に、学者として自滅したいらしいな、と思ったものだ。社会学者として沖縄の基地や教育、メディアの問題などについて、きちんとした調査とデータにふまえて発言していれば、宮城に同調する者も増えていたはずだ。もっとも、それは無い物ねだりで、宮城がそういう学者なら最初から、小林よしのりの提灯持ちになって得意になることもなかっただろう。
 小林はこの漫画の最後でのところでこう書いている。

〈左翼の本質そのものが
 全体主義だから、
 左翼は無意識のうちに 
 全体主義の言動をとってしまう!

 これがソ連の
 粛正を生み、
 収容所群島を生み、
 
 中共の
 文革を生み、

 ナチス・ドイツの
 ホロコーストを
 生んだのだ!〉(『SAPIO』09年7月8日号 62ページ)。

 スターリニズムもナチズムも一緒くたにして、まさにデマゴーグの本領発揮というような書きぶりだが、小林によれば沖縄も〈全体主義の島〉ということだから、ということは仲井真知事はスターリンや毛沢東やヒトラーみたいな存在ということか。ゴーマニストの無知と錯乱ぶりには笑うしかないが、嘘は百回ついても、しょせんは嘘なのだ。高里や宮城を、粛正や収容所、文革、ホロコーストの犠牲者になぞらえているとしたら、余りにもでたらめであり、実際の犠牲者に失礼だろう。

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1 コメント

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お邪魔します (SAMU)
2009-07-13 21:56:19
「東大一直線」の頃の、批判精神とユーモアの小林よしのり は、どこに消えてしまったんですかね。大体、アメリカ軍が沖縄の農民の土地を強引に奪って、ブルドーザーで潰して行ったのが現在の基地の歴史だとか、小林は知らないのかなと。
ハッキリ言って、彼らは精神の病気ですよね。

http://blog.goo.ne.jp/blogsamu
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