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海鳴りの島から

沖縄・ヤンバルより…目取真俊

反論権と編集権またはゴーマニストの腐臭

2009-07-16 06:34:48 | ゴーマニズム批判
 那覇市の桜坂劇場でちょうど今、映画『カメジロー 沖縄の青春』を上映している。明日7月17日(金)までとのことだ。スクリーンで見られる機会は少ないと思うので、まだ見ていない人におすすめする。ただ、上映時間が平日の昼間というのは、勤め人には厳しいが。

 『SAPIO』09年7月8日号に載った小林よしのり「ゴーマニズム宣言」について、もう少し書きたい。
 小林はこの間、慶良間諸島の「集団自決」をめぐって私が琉球新報の「風流無談」で批判したことに対し、一回しか反論を書かせてもらえなかったから沖縄のマスコミは自分を排除している、と批判してきた。沖縄は〈全体主義の島〉だ、という根拠のかなりの部分が、沖縄のマスコミから相手にされない、という小林の苛立ちや被害感情からきている。
 誰にどのような原稿を依頼するかはマスメディア各社の編集権に関わることであり、社の主張や方針によって当然違いが出てくる。小林の批判に対する琉球新報文化部長や沖縄県マスコミ労協議長の反論が、古木の〈「敵」を捏造する言説、差別を流通させるメディア〉には載っている。しかし、上記の「ゴーマニズム宣言」では、このような沖縄側のマスメディア関係者の反論について、小林は無視してすませている。せっかく琉球新報の記者が古木の取材に答えているのだから、反論権を認めなかったことを批判すればいいものを。
 もっとも、それをやれば天に唾する行為となることを小林は自覚していたのだろう。小林が琉球新報に対して反論権を主張すれば、古木に対しても『SAPIO』での反論権を認めなければならない。そういう矛盾を突かれてはまずいので、小林は因縁深き琉球新報の記者たちの発言を無視したのではないか。
 しかし、これまでの小林よしのりの主張を読者は忘れはしない。小林は沖縄のマスメディアに対して、自分を排除しているから〈全体主義〉だと批判してきたのだ。ということは当然、小林は『SAPIO』編集部に古木の反論が載るようにはたらきかけるのだろう。そうでなければ小林や『SAPIO』も〈全体主義〉になってしまう。これから『SAPIO』に古木の反論が載るかどうか、注目したい。
 大江・岩波沖縄戦裁判が起こってから、被告の大江健三郎はもとより沖縄戦研究者、『集団自決』の生存者など大江・岩波書店側に立って証言した人たちへの執拗な攻撃が行われている。産経新聞や『SAPIO』、『諸君』(休刊)、『正論』、『WILL』などの雑誌で現在も行われている攻撃の中には、単にその人の主張への批判にとどまらず、人格を否定するかのような内容も目立つ。
 では、産経新聞をはじめ『SAPIO』などの雑誌が、自らが批判している彼らの反論を一度でも載せたことがあるか。とりわけ、集中攻撃を受けている大江、金城重明、宮城晴美、大城将保、林博史といった人たちの反論が、それらの新聞、雑誌に載ったことがあるのか。私は一度も見たことがない。
 小林はそれに対してどう考えるのか。これらヤマトゥの新聞、雑誌が反論権を無視するのは問題なく、沖縄の新聞が小林の反論権を認めないことだけが問題だというのか。ヤマトゥの新聞、雑誌には書き手を選ぶ編集権があるが、沖縄の新聞にはないというつもりか。琉球新報は小林に一回反論を書かせたが、それでも小林は〈全体主義〉呼ばわりする。しかし、一度も反論を書かせない産経新聞や『SAPIO』には何の批判もしないではないか。
 そういう二重基準が示すのは、小林の沖縄のマスメディア批判や〈全体主義の島〉というキャンペーンが、実にいい加減かつデタラメであり、沖縄への不信を煽る政治的狙いを持ったものであるということだ。しかし、そうやって沖縄叩きをやればやるほど、まともな読者は小林の実態に気づくだろう。マイノリティの味方面して被差別、薬害エイズ、沖縄、アイヌなど描いてきたが、今では総すかんを食らって批判にさらされているのが小林の現状なのだ。
 小林に沖縄が〈全体主義の島〉に見えるなら、それは小林が沖縄人から孤立しているからだ。わしが言うのを沖縄の人は聞くのが当たり前だ、という小林のような日本人を、沖縄では腐りナイチャーという。それにしても、ここまでシーカジャ(腐臭)のするナイチャーは滅多にいないだろう。

 なお、『SAPIO』09年7月8日号の小林よしのり「ゴーマニズム宣言」を批判したこの4回の文章では、敬称はすべて省略した。ご了解を願いたい。

コメント (2)    この記事についてブログを書く
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2 コメント

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Unknown (かむじゃたん)
2009-07-17 08:26:39
SAPIO7月22日号は
もっと醜悪です。
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確かに (目取真)
2009-07-17 12:29:01
『SAPIO』7月22日号も読みましたが、確かに酷いものです。
金城兄弟がなぜあのような状況に追い込まれたのか。
そのことを問わずに二人の個人の責任に問題を帰着させることで、軍命、強制の問題から目をそらさせようとしているのでしょう。
大江・岩波沖縄戦裁判の証人への誹謗・中傷に対しては、支援団体ももっと抗議すべきではないかと思います。
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