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海鳴りの島から

沖縄・ヤンバルより…目取真俊

「風流無談」第7回

2008-02-10 00:52:52 | 「風流無談」
 「風流無談」第7回 琉球新報2007年12月1日付朝刊掲載
 去る十一月九日、大阪地方裁判所で大江・岩波沖縄戦裁判の本人尋問が行われた。原告の梅澤裕氏(元座間味島戦隊長)、赤松秀一氏(元渡嘉敷島戦隊長・赤松嘉次氏の弟)、被告の大江健三郎氏が法廷に立つということで、傍聴券を求めて六九十名余の人が裁判所の裏庭に集まった。
 裏門の前では原告側を支援する団体がハンドマイクでアジテーションを行っていて、岩波書店や大江氏を批判し、九月二十九日の沖縄県民大会は参加者が一万三〇〇〇人だった、というデマ宣伝をやっていた。呆れながら聴いていると、さらにとんでもないことを言い始めた。
 「沖縄は歴史的にシナとのつながりが強く、日本の中で一番シナ人が多い。そのシナ人どもが中共(中国共産党)と一緒になって、沖縄を日本から独立させ、中国に帰属させようと工作している。今回の教科書検定問題も、その工作として行われている」云々。
 馬鹿げた妄想としか言いようがないが、そういう差別意識丸出しの暴言が辺りかまわず発せられるのを聴いて、原告側を支援している人たちの質が分かるように思った。
 八月四日の本欄で、この裁判を起こすように梅澤・赤松氏に働きかけたのが「靖国応援団」を自称する弁護士グループと元軍人の山本明氏であること。当初から「集団自決」の軍による強制を記した教科書の記述削除が狙いとしてあったことなどを書いた。十一月九日の裁判では、それが端なくも原告本人の口から証明されることになった。
 すでに報道されている通り、梅澤氏が『沖縄ノート』を読んだのは「去年」であり、二〇〇五年八月の提訴の段階では読んでいなかったことが、本人の陳述で明らかとなった。読んでもいない本に「名誉を毀損された」とどうして思えるのか。
 赤松氏にしても、『沖縄ノート』がこれまで版を重ねていたことを知らず、「三年前に兄の同期の山本明氏からこのことで会いたいと申し出が」あり、「今でも『沖縄ノート』が店頭に並んでいる」ことを知らされた。それが裁判のきっかけと陳述している。
 この裁判が持つ政治的性格が、いよいよ明らかになったように思う。それにしても、二〇〇四年の夏に「靖国応援団」を自称する弁護士グループや山本明氏らが、この裁判を起こそうと動き始めたのはなぜか。
 ちなみに、同じ頃の〇四年八月に小林よしのり氏の「新ゴーマニズム宣言SPECIAL沖縄論」の連載が雑誌『SAPIO』(小学館)で始まっている。
 そして、〇五年の春には自由主義史観研究会が「戦後六十年・沖縄プロジェクト」を立ち上げ、「集団自決」問題を焦点化する。自由主義史観研究会はこの裁判と密接に関わっており、原告側支援団体の中心でもある。このように右派団体や弁護士グループ、小林氏らがこの時期に沖縄に目を向け、具体的な行動を開始した理由は何だったのか。
 〇三年六月の有事(戦争)三法成立や〇四年六月の「国民保護法」の成立、憲法改悪や教育基本法改悪に向けての動きが、今回の沖縄戦裁判や教科書検定問題の背景としてあることは、多くの人が指摘している。そのような日本全体の大きな流れとともに、なぜ今沖縄か、ということに焦点を当てて考えることも必要だろう。
 その際に押さえておくべきこととして、〇五年度以降の「新防衛計画大綱」と「次期防衛力中期整備計画」が、〇四年十二月に出されたことがある。「新大綱」では初めて「中国警戒論」が明記され、自衛隊の海外活動が安全保障政策の柱に位置付けられた。また、「テロ」や大量破壊兵器など「新たな脅威」への対応やミサイル防衛が打ち出され、「日米関係の一層の緊密化」をうたい「在日米軍再編」と連動した自衛隊の強化が示された。
 加えて「中国・台湾間の紛争などを視野に入れた南西諸島の防衛力強化の一環」として、「那覇の陸上自衛隊(陸自)第一混成団の旅団への格上げが明記された」(琉球新報二〇〇四年十二月十日夕刊)。また、那覇基地のF4戦闘機のF15戦闘機への更新も示唆されている(同)。
 以後、「新大綱」に基づき、沖縄における自衛隊強化が急速に進んでいる。宮古島への陸自部隊の配備計画や下地島空港軍事化の動き、キャンプ・ハンセン基地を使用した陸自の射撃訓練など、米軍と一体化して自衛隊が軍事活動を行う拠点に沖縄が位置付け直されている。
 このように対中国との関係で沖縄の軍事的重要性が増す中で、日本軍の蛮行により作られた沖縄県民の軍隊への反発や不信感を消し去ることが、〇四年頃から政府や民間の右派グループにとって火急の課題として浮上していたことが推察できる。今回の「沖縄(戦)の歴史修正」を策す動きは、「米軍再編」と連動した沖縄における自衛隊強化を支えるためにこそ仕掛けられてきたのだ。

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