「風流無談」第19回 2009年1月10日付琉球新報朝刊掲載
仲井真知事が訪米中である。ブッシュ政権が幕を閉じる直前の訪米にどれだけの意味があるのか、疑問を抱かずにいられない。オバマ新政権に影響を与え得る人物と接触を図ろうにも、それを実現する人脈や手段を知事は持っているのか。オバマ新政権の対日政策スタッフが確定するのは春頃ということであり、なおかつ、当面は深刻な経済危機や中東情勢などへの対応に追われて、沖縄の基地問題に積極的に取り組む余裕はあるまい。
まさに最悪のタイミングで訪米しているとしか思えない。税金を使って下手なパフォーマンスをやるのもいい加減にしてほしいが、そもそも、仲井真知事は就任から二年余、基地問題に対してどれだけ熱意を持って取り組んできただろうか。
昨年十二月、知事は県出身労働者の雇用継続を求めて愛知県の企業を訪問した。さらに年末にはサルモネラ菌に感染した豚肉が県の検査を通過した問題を謝罪して那覇市内のスーパーを訪れている。経済分野では現場に足を運んで行動力を示すのに、どうして金武町伊芸区の流弾事故では現場を訪ね、不安に怯える住民と対話をしなかったのか。
発見された金属の鑑定結果は出ていなくても、現場に行って演習の危険性や被害状況を自分の目で確かめ、住民の命・生活の安全を優先して演習の即時中止を求めることはできたはずだ。しかし、知事の姿勢は消極的であり、それを見透かして米軍は平然と演習を続けた。住民の命や生活が脅かされる状況は今も続いている。
また、昨年の三月二三日に北谷町で「米兵によるあらゆる事件・事故に抗議する県民大会」が開かれたが、仲井真知事は参加しなかった。米軍関連の事故や事件が起こるたびに、通り一遍のコメントを出すだけで、仲井真知事には県民の先頭に立って抗議しようという姿勢が見られない。
選挙公約である普天間基地の三年以内の閉鎖もどうなっているのか。宜野湾市上空では相変わらず米軍ヘリが飛び回っているが、それに対し何の対処をしているのか。嘉手納基地でも住民の抗議を無視して米軍機の未明離陸が強行され、日常的な爆音被害は改善のきざしがない。ホワイトビーチへの原潜寄港も増加し、キャンプハンセンでは自衛隊の訓練も始まっている。米軍基地の「整理縮小」どころか、沖縄の基地は日米両軍が一体化して強化が進んでいるのが実態だ。
このような沖縄基地の強化とそれに伴う県民の負担増大に対して、仲井真知事はこの二年余、まったくの無為無策だったのではないか。米軍による事件・事故、住民の命さえ危険にさらす演習に対し、地元沖縄で住民の先頭に立って抗議もしない仲井真知事が、アメリカに行ったところで何ができるか。
県民の間からも今回の知事訪米に期待する声はまったくと言っていいほど聞かれない。そもそも、県民世論は「米軍基地の県内移設反対」が多数なのであり、そういう県民の声を代表しない知事が期待されないのも当然だろう。仲井真知事が県民代表として行動するというのなら、グリーンディール政策を打ち出しているオバマ新大統領に対して、環境保護を訴えて辺野古への新基地建設を断念するよう訴えるべきだろう。
しかし、実際には建設位置を沖合に移動して埋め立て面積を拡大し、より環境破壊を進めようとしているのだから呆れる。オバマ新大統領のグリーンディール政策は、新たなビジネスモデルとしてアメリカ企業への投資を促す狙いもあるのだろうが、環境保全や自然回復のための公共投資への転換は、日本・沖縄でもとっくに問われてきたはずだ。
辺野古への新基地建設による埋め立ては大量の海砂を使用し、その採取によって県内の砂浜が消失しかねないという指摘が専門家からなされている。観光客年間一千万人目標を言いながら、沖縄観光の目玉である海や砂浜を破壊しようとしているのだから、仲井真知事の主張も支離滅裂の極みだろう。そこにあるのは埋め立てや海砂採取にからむ県内企業の利権であり、辺野古の新基地建設が利権の温床となっていることは、今やあまねく知れわたっている。仲井真知事も辺野古利権をめぐる三文芝居の役者の一人なわけだが、その演じる筋書きは沖縄の自立ではなく自滅のシナリオでしかない。
この二年余の仲井真知事の政策のもう一つの特徴は、県立病院の独立法人化や宮古・八重山支庁の廃止問題など、行財政改革を理由とした沖縄島北部・ヤンバルや宮古・八重山など離島地域の切り捨てである。今月二十五日に行われる宮古島市長選挙の結果によっては、宮古への陸上自衛隊配備と連動して、下地島空港の軍事利用の動きも急浮上してくるだろう。ヤンバルや宮古・八重山に米軍・自衛隊の負担をできるだけ集中させ、那覇を中心に嘉手納より南が栄えればいい。仲井真知事の政策を見るとそう言いたいようだ。
仲井真知事が訪米中である。ブッシュ政権が幕を閉じる直前の訪米にどれだけの意味があるのか、疑問を抱かずにいられない。オバマ新政権に影響を与え得る人物と接触を図ろうにも、それを実現する人脈や手段を知事は持っているのか。オバマ新政権の対日政策スタッフが確定するのは春頃ということであり、なおかつ、当面は深刻な経済危機や中東情勢などへの対応に追われて、沖縄の基地問題に積極的に取り組む余裕はあるまい。
まさに最悪のタイミングで訪米しているとしか思えない。税金を使って下手なパフォーマンスをやるのもいい加減にしてほしいが、そもそも、仲井真知事は就任から二年余、基地問題に対してどれだけ熱意を持って取り組んできただろうか。
昨年十二月、知事は県出身労働者の雇用継続を求めて愛知県の企業を訪問した。さらに年末にはサルモネラ菌に感染した豚肉が県の検査を通過した問題を謝罪して那覇市内のスーパーを訪れている。経済分野では現場に足を運んで行動力を示すのに、どうして金武町伊芸区の流弾事故では現場を訪ね、不安に怯える住民と対話をしなかったのか。
発見された金属の鑑定結果は出ていなくても、現場に行って演習の危険性や被害状況を自分の目で確かめ、住民の命・生活の安全を優先して演習の即時中止を求めることはできたはずだ。しかし、知事の姿勢は消極的であり、それを見透かして米軍は平然と演習を続けた。住民の命や生活が脅かされる状況は今も続いている。
また、昨年の三月二三日に北谷町で「米兵によるあらゆる事件・事故に抗議する県民大会」が開かれたが、仲井真知事は参加しなかった。米軍関連の事故や事件が起こるたびに、通り一遍のコメントを出すだけで、仲井真知事には県民の先頭に立って抗議しようという姿勢が見られない。
選挙公約である普天間基地の三年以内の閉鎖もどうなっているのか。宜野湾市上空では相変わらず米軍ヘリが飛び回っているが、それに対し何の対処をしているのか。嘉手納基地でも住民の抗議を無視して米軍機の未明離陸が強行され、日常的な爆音被害は改善のきざしがない。ホワイトビーチへの原潜寄港も増加し、キャンプハンセンでは自衛隊の訓練も始まっている。米軍基地の「整理縮小」どころか、沖縄の基地は日米両軍が一体化して強化が進んでいるのが実態だ。
このような沖縄基地の強化とそれに伴う県民の負担増大に対して、仲井真知事はこの二年余、まったくの無為無策だったのではないか。米軍による事件・事故、住民の命さえ危険にさらす演習に対し、地元沖縄で住民の先頭に立って抗議もしない仲井真知事が、アメリカに行ったところで何ができるか。
県民の間からも今回の知事訪米に期待する声はまったくと言っていいほど聞かれない。そもそも、県民世論は「米軍基地の県内移設反対」が多数なのであり、そういう県民の声を代表しない知事が期待されないのも当然だろう。仲井真知事が県民代表として行動するというのなら、グリーンディール政策を打ち出しているオバマ新大統領に対して、環境保護を訴えて辺野古への新基地建設を断念するよう訴えるべきだろう。
しかし、実際には建設位置を沖合に移動して埋め立て面積を拡大し、より環境破壊を進めようとしているのだから呆れる。オバマ新大統領のグリーンディール政策は、新たなビジネスモデルとしてアメリカ企業への投資を促す狙いもあるのだろうが、環境保全や自然回復のための公共投資への転換は、日本・沖縄でもとっくに問われてきたはずだ。
辺野古への新基地建設による埋め立ては大量の海砂を使用し、その採取によって県内の砂浜が消失しかねないという指摘が専門家からなされている。観光客年間一千万人目標を言いながら、沖縄観光の目玉である海や砂浜を破壊しようとしているのだから、仲井真知事の主張も支離滅裂の極みだろう。そこにあるのは埋め立てや海砂採取にからむ県内企業の利権であり、辺野古の新基地建設が利権の温床となっていることは、今やあまねく知れわたっている。仲井真知事も辺野古利権をめぐる三文芝居の役者の一人なわけだが、その演じる筋書きは沖縄の自立ではなく自滅のシナリオでしかない。
この二年余の仲井真知事の政策のもう一つの特徴は、県立病院の独立法人化や宮古・八重山支庁の廃止問題など、行財政改革を理由とした沖縄島北部・ヤンバルや宮古・八重山など離島地域の切り捨てである。今月二十五日に行われる宮古島市長選挙の結果によっては、宮古への陸上自衛隊配備と連動して、下地島空港の軍事利用の動きも急浮上してくるだろう。ヤンバルや宮古・八重山に米軍・自衛隊の負担をできるだけ集中させ、那覇を中心に嘉手納より南が栄えればいい。仲井真知事の政策を見るとそう言いたいようだ。