読書と映画をめぐるプロムナード

読書、映画に関する感想、啓示を受けたこと、派生して考えたことなどを、勉強しながら綴っています。

いつも気づくのが遅い男の、「ラストドリーム」(志水辰夫/2004年)

2009-12-23 17:50:52 | 本;小説一般
~真っ暗な穴のなかへ落ちてゆく夢を見た。青函トンネルを走る列車で目覚めた時、彼は自分自身を失っていた。あてどなき魂の旅が始まった。ライバルと競った若き時代。徒手空拳で海外事業に挑んだあの頃。少女にいざなわれた炭鉱町の最盛期。そして、妻と過ごしたかけがえのないとき――。時空を行きつ戻りつしながら、男は人生の意味を噛みしめる。大人のための、ほろ苦い長篇小説。~

<主な登場人物>
長渕琢己(藤井一郎)、妻・明子
臼井俊之、松原正信、松原幸一・・・・日栄フーズ関係者
秋葉寛治、宍倉徳夫、小山田隆弘、宮内幸江・・・ビレッジ・ウエンナイ
*「ウエンナイ」とは、「悪い川」という意味を持つ地名。

私が読んだ志水さんの作品としては「行きずりの街」に次いで二作目。
本作の舞台は北海道・夕張市と石川県金沢市内灘町。そして、その象徴が次の風景です。


<夕張福住人車の痕跡>
http://www.asahi-net.or.jp/~re4m-idgc/YUUBARIE.htm


<内灘町>
http://www.town.uchinada.lg.jp/webapps/www/info/detail.jsp?id=51

そして、全編を通じて流れるのが、北原白秋作詞の童謡「砂山」。中山晋平の作曲と山田耕筰の作曲による2曲があるということを初めて知らされました。

<砂山 (童謡) – Wikipedia>
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A0%82%E5%B1%B1_(%E7%AB%A5%E8%AC%A1)

<砂山 (中山晋平:作曲)>
http://www.youtube.com/watch?v=A0wEXBzbbwQ


<砂山 (山田耕筰:作曲)>
http://d.hatena.ne.jp/video/youtube/dRTd3ZtHAQg


本作とこの作家について、文芸評論家の吉野仁は解説で次のように述べます。

~現代では、ロマン(もしくはロマンス)とは、恋愛や恋愛小説をいう場合のほうが多いだろうが、そもそもは、中世ヨーロッパが舞台の、恋愛、武勇などを扱った騎士道小説を指していた。すなわち、つねに敵を求めて闘い続ける男たちの夢と冒険を扱った小説のこと。~

~まさに志水辰夫の小説は、ロマンなのだ。すでに「男のロマン」とはパロディ化されたあげくの陳腐な言葉でしかないが、それでも古来から女たちが生活を守るという現実を第一とし、男たちは家の外に出てより大きな獲物を得ることを任務と矜持にしてきたのは間違いなく、男の夢と冒険は生物の根源的な有り様に関わっている問題なのである、男は冒険の旅へ出ずにはいけない。夢のない人間は、死んだのと同じだ。~


前半はミステリー小説さながらの展開ですが、中盤以降は作者のシニカルな人生観が垣間見えて、現実が重くのしかかっくるストーリーになっています。例えば、こんな風に・・・

~アカリを消して部屋のなかにうずくまっていると、ざわざわという森の音が声高な会話のように聞こえた。夜になるとあらゆるものが多弁になる。かつては人間もその会話に加わっていたはずだ、文明を過信したことでその能力を退化させてしまい、いまでは自然のことばさえ聞きとる力を失ってしまった。~

~ずるいと思われるかもしれませんけど、人間てそのときどきの暮らしむきで、考えなど簡単に変わってしまうものなんです。ひとつの気持ちを持ち続けるなんてむり。先のことは、わからないとしかいえません。~

~食品への放射線の照射問題についていうと、日本はいかなる国際会議にも参加していなかった。北海道にジャガイモの発芽抑制をするための放射線照射施設をひとつ持っているきりだ。その施設をつくったのは、世界でもいちばん早いほうだったのである。ところが不安や安全性への危惧をいい立てる勢力に世論が安全なまでの席捲されてしまい、いまではまともな議論さえされなくなっている。放射線に対するアレルギー反応がそでだけ強いのだ。現在では、実験やデータづくりのための基礎研究すらなされていない。~

「しようがねえだろうが。放射能と放射線の区別もつかなきゃ、被爆と被曝のちがいすらわからねえばかな国民と、その不安につけこむことを良心と錯覚しているあほうがのさばってる国なんだから」


この小説を読んでいて、よく聞く言葉ながら、改めてその意味をうまく説明できない次の言葉が出てきました。

「極彩色(しき)」・・・種々の鮮やかな色を用いた濃密な彩り。また、派手でけばけばしい色彩。

「つづら折れ」・・・つづら折れ(つづら折りとも)とは、勾配を登る山道が、急カーブで連続している様子をいう。英語圏では髪留めの一種であるヘアピン(Hairpin)に形が似ていることからヘアピンカーブ(Hairpin turn)と呼ばれる(近年は日本語でも用いられる事例が増えている)。

「みづく屍」・・・水漬く屍(かばね)。水につかる、みずにひたる・・・。

「鵜の目・鷹の目」・・・低いとこから見上げる「鵜の目」、高い位置から、見下ろす「鷹の目」


<16年前の「このミステリーがすごい!」第一位、「行きずりの街」(志水辰夫著/新潮文庫)>
http://blog.goo.ne.jp/asongotoh/e/1b6b3c831bd17e8797cf5e33c48ebc1f


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