読書と映画をめぐるプロムナード

読書、映画に関する感想、啓示を受けたこと、派生して考えたことなどを、勉強しながら綴っています。

平成の「二十四の瞳」、あるいは21世紀の「四十八の瞳」、「半島を出よ(下)」(村上龍著/幻冬舎文庫)

2007-11-04 03:32:54 | 本;小説一般
やっと読み終わった、というのが実感です。文庫版とは言え、上巻P500、下巻P590の大長編です。面白く読めましたが、多少疲れました。読みながら、「これ映画化するとしたらどうなるかな」と考えていました。この2011年という近未来の時代設定が微妙です。残念ながら、本書での防衛庁は、現実には今年2007年(平成19年)1月9日、防衛省への昇格を果たしてしまいましたが、残りの近未来の描写での大きな狂いは、今のところありません。

本書を読み進めていて各プロット毎の語り口に、最初違和感を感じていましたが、次第にそれが三人称で章ごとに、日本政府の要人から北朝鮮特殊部隊員まで多彩な人物の視点で進行していくことがわかってきます。これには驚きました。各章は、prologue1~2、introduction1~2、phase one1~5、phase two1~12、epilog1~3と全章で24章ありますから、24の視点で描かれていることになります。しかも、一人称ではなく、三人称であることがポイントですね。

例えば、それはphase two 7<2011年4月8日 退廃の発見>の章では、チョ・スリョン中尉(高麗遠征軍宣伝教導課、NHK福岡で高麗遠征軍の宣伝番組に出演)の視点に拠りながら、三人称で次ぎのように語られます。

「チョ・スリョンは退廃とは何かを考えてきた。だが、それは自らの足元にあった。真の退廃とは、多数のために力のない少数者が犠牲になることだ。アリラン祭が頭に浮かんだ。あの祭りは、多数派とその権力の正統性を誇示する大規模な催しに過ぎなかったと思った。退廃だけが足りなかったのではなく、退廃そのものだったのだ」。

あとがきで著者自身ガが述べていますが、本作の主要登場人物の一人である詩人のイシハラと本作冒頭で最初の視点人物となるホームレスのノブエは、過去の村上龍作品『昭和歌謡大全集』の主要登場人物であるといいます。本作が村上龍デビューの私は、これからどう読み込んでいくか考えることを楽しみたいと思います。


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