作雨作晴


日々の記憶..... 哲学研究者、赤尾秀一の日記。

 

ヘーゲル『哲学入門』第二章 義務と道徳 第五十八節[国家と意志]

2022年08月04日 | 哲学一般
 
§58
 
Der Staat beruht nicht auf einem ausdrücklichen Vertrag  Eines mit Allen und Aller mit Einem, oder des Einzelnen und der Regierung mit einander,(※1) und der allgemeine Wille des Ganzen Ist nicht der ausdrückende Wille der Einzelnen, sondern ist der absolut allgemeine Wille, der für die Einzelnen an und für sich verbindlich ist.(※2)

§58[国家と意志]

国家は、個人と万人との、また万人と個人との間に交わされた 契約 に基づくものではなく、あるいはまた、個人と政府の相互に交わされた契約に基づくものでもない。そして、全体の普遍的な意志は、明示された個人の意志ではなくて、むしろそれは絶対的に普遍的な意志であって、個人に対して本来的に(必然的に)拘束力をもつものである。

※1
ここでもヘーゲルはルソーや啓蒙哲学者たちの「契約国家観」を繰り返し批判している。

このルソーに対する批判は、ルソーの弟子にしてフランス革命の申し子、かつ唯物論者にして共産主義者であるマルクスの「階級国家観」にも同じく通用する。

一方において、実定法のみをもって国家とする法実証主義者のケルゼンたちも、ヘーゲルのこの観念的にして客観的な国家の存在には理解も及ばない。
 
※2
ルソーのこの「契約国家観」によって現実にもたらされた「絶対的な権威と尊厳とを破壊するところのさらに広汎な単に悟性的な諸種の結果」については、フランス革命、ロシア革命、中国文化革命など革命家たちが引き起こした、さまざまに悲惨な現実の歴史によってすでに実証されています。
 
この『哲学入門』における「国家」についての説明は、簡潔ではあってもきわめて不十分ですから、ヘーゲル『法の哲学』の国家論そのものにおいて検証しなければならない。いずれにしても『法の哲学』は今日においても必読の文献であるといえます。

ルソーの「契約国家説」については、『法の哲学』において次のようにヘーゲルは批判しています。重要であるので、少し長くなりますが一例として参考までに引用しておきます。

>> <<

「もしも国家が市民社会と混同せられ、国家の使命が所有および人格的自由の保障と保護とにあるとされるならば、個人自身の利益が個人のそれに向かって結合する究極目的となり、このことからまた、国家の成員たることは任意なことならざるをえない。⎯⎯ しかし国家は個人に対してそれとは全く違った関係を有する。けだし国家は客観的精神であり、したがって個人は国家の一員であるときにのみ、みずからの客観性、真理および倫理を有するからである。・・・・

⎯⎯ 哲学的考察はひとえに一切のものの内面的なもの、すなわちこのような、思考された概念を取り扱う。この概念の探求に関してルソーは、単にその形式上の思想である原理(いわば社会衝動、神的権威のごとき)ではなく、内容上も思想である、しかも思考そのものである原理、すなわち意志を国家の原理として立てるという功績をなした。

しかしルソーは意志を単に個別的意志の特定形式によってのみ解し、(その後フィヒテもなしたように)、普遍的意志を、意志の即自対自的に理性的なものとしてでなく、単にこの個別的意志から意識されたものとして生ずる共通的なものとして解したに過ぎなかったから、国家における個人の結合は契約となり、したがってこの契約は個人の恣意、臆見および表明された任意な同意にもとづき、その結果は、即自対自的に存在する神的なものをとその絶対的な権威と尊厳とを破壊するところのさらに広汎な単に悟性的な諸種の結果をもたらすのである。

(ヘーゲル『法の哲学§258』論創社版、高嶺一愚訳205頁)


今日の日本を代表するアカデミズム界隈の憲法学者たちも、樋口陽一氏や故奥平康弘氏たちに見られるように、誰一人としてヘーゲル法哲学を批判しえたものはなく、そのほとんどが実質的にケルゼン主義者であったりマルクス主義法学者です。
だから現代日本の国家の現実は、ヘーゲルの言うところの「権威と尊厳とを破壊する単に悟性的な諸種の結果」そのものとなっています。
 
 
 
 
 
 
 

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