作雨作晴


日々の記憶..... 哲学研究者、赤尾秀一の日記。

 

ヘーゲル『哲学入門』第二章 義務と道徳 第三十二節 [法と道徳]

2021年08月13日 | 哲学一般


G.W.F. Hegel
 Philosophische Propädeutik
Erster Kursus. Unterklasse. Rechts-, Pflichten-, und Religionslehre.

Zweiter Abschnitt. Pflichtenlehre oder Moral.(※1)

ヘーゲル『哲学入門』
第一教程  下級クラス 法理論、義務論、および宗教論
第二章  義務論、もしくは道徳論

§32

Was nach dem Recht gefordert werden kann, ist eine  Schuldig­keit. Pflicht  aber ist etwas, insofern es aus moralischen Gründen zu beobachten ist.

第三十二節[法と道徳]

法律にもとづいて要求することのできるのは責務(Schuldig­keit)である。しかし、道徳的な根拠から見られるかぎりにおいては、それは義務(Pflicht)である。

Erläuterung.

説明

Das Wort Pflicht wird häufig von rechtlichen Ver­hältnissen gebraucht. Die Rechtspflichten bestimmte man als  vollkommene,  die moralischen als  unvollkommene,  weil jene überhaupt geschehen müssen und eine äußerliche Notwendigkeit haben, die moralischen Pflichten aber auf einem subjektiven Willen beruhen. (※2)

義務という言葉は、法的な関係についてよく使われる。
法的義務については人は「完全なもの」であると見なし、道徳的義務は「不完全なも」とみなしている。というのも、法的な義務は一般に守られなければならないものであり、一つの外的な必然性をもっているが、しかし、道徳上の義務は主観的な意志にもとづくものだからである。

Allein man könnte eben so die Bestimmung(※3)  umkehren, weil die Rechtspflicht als solche nur eine äußerliche Notwendigkeit fordert, wobei die Gesinnung fehlen kann oder ich kann sogar eine schlimme Absicht dabei haben. Hingegen zur moralischen Gesinnung wird Beides erfordert, sowohl die rechte Handlung ihrem Inhalt nach als auch, der Form nach, das Subjektive der Gesinnung.(※4)

しかしながら、人はまさにこの完全と不完全の判断を転倒させることもできる。というのも、法的な義務それとしては、ただ外的な必然性のみが要求され、そこには心情を欠くことができたり、あるいはそこで私はまさに悪意をもってやっていたりすることもできる。それに対して道徳的な義務にはおいては、内容においても正しい行為が要求されるのと同様に、また形式においても心情の主観性が、その両方が要求されるからである。


※1
先の第一教程の第一章においては、人間の「意志」から出発して、物の占有から所有へ移行する中で、法概念の発生の必然性が叙述され、さらにその法の現実的な領域としての国家が論じられて法理論一般の必然性が明らかにされた。
§32からは、法の対象となる人間の意志における側面から、その法的な責務と道徳的な義務が考察される。まず法的な義務(責務 Schuldig­keit)と道徳的な義務(Pflicht) との異同が論じられ、両者の「完全性」と「不完全性」が論じられる。


※2
法的な義務(責務)は、その外的な必然性、すなわち客観的な「実現性」からいえば、その強制性から、責務の実行性は実力によって担保されているという点で、道徳的な義務よりも完全である。道徳的な義務の実行は、個人の主観的な意志によって左右されて、その実現には必然性と客観性を欠いているゆえに「不完全」なものである。

※3
die Bestimmung
評決、規定、定義などの訳語が当てられる。物事の意義が限定され確定されることである。
そこから、目当て、統制、割り付け、指定、使命、宿命、天命などの意義も出てくる。
die Bestimmung の概念については、すでに序論についての説明の中でも触れている。

ヘーゲル『哲学入門』序論についての説明 七[理論と実行、形式と内容] - 夕暮れのフクロウ https://is.gd/DTP3i2


※4 
※2の場合とは反対に、行為と意志というそれぞれ両者の客観性と主観性の点から、その形式と内容の統一という面からみるなら、「法的な責務」においては、心情や意図を、主観的な意志の内容をその必然的な要件とはしていないという点において「不完全」である。それに対して「道徳的な義務」においては、その実行において、行為という客観的な「形式」とともに、主観的な意志としてその「内容」、心情や意図も要件とされるゆえに「完全」である。道徳的な義務においては、その遂行にはそれに相応しい心情や意図がともなっていることを求められるからである。
立場、観点が異なれば判断も逆転するという「弁証法」の事例がここにも説明される。

法と道徳との関係については、すでにヘーゲル『哲学入門』序論についての説明 二十三〔法と道徳について〕においても考察している。

 ヘーゲル『哲学入門』序論についての説明 二十三〔法と道徳について〕
-夕暮れのフクロウ https://is.gd/cwt34d


- 夕暮れのフクロウ https://is.gd/G6auqS






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2020年東京オリンピック大会の夏

2021年08月10日 | 日記・紀行
2020年東京オリンピック大会の夏

2021(令和3)年8月9日(月)雲のち晴。

7月23日の開会式に幕開けした2020年東京オリンピックも、8月8日聖火台の灯火とともに閉会式で幕を閉じた。武漢コロナ・ウィルス禍の中2020年の開催さえも危ぶまれたが、困難のうちにも多くの人の尽力によって、一年延期されたうえさらに無観客でオリンピック競技が行われることになった。かって前例のない大会として2020年東京オリンピックは人々の記憶と歴史に残るだろう。

コロナ騒ぎで外出の自粛も呼びかけられるなか、部屋の中でのテレビ観戦ではあるが、アスリートたちの名演技や名勝負に感動することも多かった。

体操競技では金メダルこそ逸したものの男子団体競技では銀メダル、橋本大輝選手は個人総合と鉄棒で金メダルを獲得した。内村航平選手の鉄棒での最後の挑戦にもかかわらず、思いがけない落下も見た。この偉大な選手を後輩たちはしっかりと引き継いでいってほしい。

卓球も面白かった。水谷隼選手と21世紀生まれの伊藤美誠選手がコンビの男女混合ダブルス では金メダル、女子団体では中国に敗れて2位銀メダルに止まったけれども、石川佳純選手や前回のリオ・オリンピックには参加できなかった平野美宇選手の活躍も見ることができた。

水泳では200m・400mの女子個人メドレーで二冠金メダリストになった大橋悠依選手の活躍が記憶に残る。さまざまな困難に打ち勝って金メダリストとなった大橋選手の個人的な背景なども報じられていた。そのほかにも柔道や野球、バレー、サッカーなど久しぶりのテレビ観戦に釘つけになった。

折しも2020年東京オリンピックの閉会式の翌日8月9日は長崎原爆投下の追悼式典にあたる。平和の祭典の後に戦争の犠牲者への深い追悼があった。

平和も戦争もいずれも人類の歴史であり人間の真実である。戦争さえなければ、当時の広島、長崎に生を享けた多くの少年少女たちは今も生き永らえて、1964年の大会のみならず昨日の2020年東京オリンピックも楽しむことができただろう。ま新しい国立競技場の夜空に浮かんだドローンが描くきれいな東京オリンピック・エンブレムも、天空からではなくこの地上から眺めることができたにちがいない。

2020年東京オリンピックの開会式、閉会式がコロナ禍によってその形態の変更を余儀なくされたのか、そのために無観客で密集を避けた方式に変更せざるをえなかったのか。2020年東京オリンピックの開会式、閉会式のセレモニーも貧弱なものになってしまったのもやむをえないのかもしれない。

日本という国がどういう国であるのか、その歴史を誇らしく世界に知られるようにもっとアピールしてもよかったのではないだろうか。いい機会だったのに。しかし今の敗戦国世代にはそれができないでいることもわからないではない。また、2020年東京オリンピック大会を無観客開催に追い込んだ中国武漢コロナ・ウィルス禍の責任の有無も中国共産党政府は問われるべきだろう。

2020年東京オリンピック開会式をテレビで見て

アスリートの  熱き真夏の  競宴を
    夜空に告げし  五輪エンブレム 

2021年令和3年8月9日、被爆七十六周年長崎原爆犠牲者慰霊平和祈念式典の夜に

戦争も  五輪もともに 追憶の 
       夜空に消ゆる  平和式典

【4K】Drone Display - Tokyo Olympics Opening Ceremony (July 23rd 2021)




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