作雨作晴


日々の記憶..... 哲学研究者、赤尾秀一の日記。

 

ヘーゲル『哲学入門』第二章 義務と道徳 第五十五節[国家と個人]

2022年06月09日 | 哲学一般

 

§55

In dem Geiste eines Volkes hat jeder einzelne Bürger seine gei­stige Substanz. Die Erhaltung der Einzelnen ist nicht nur auf die Erhaltung dieses lebendigen Ganzen begründet, sondern das­selbe macht die allgemeine geistige Natur oder das Wesen eines Jeden gegen seine Einzelheit aus. Die Erhaltung des Ganzen geht daher der Erhaltung des Einzelnen vor und Alle sollen diese Gesinnung haben.

第五十五節[国家と個人]

個々の市民のそれぞれは、一つの民族の精神のうちに、自身の精神的な実体をもっている。個人の生存は、ただこの生きた全体の生存の上に依拠しているだけでなく、むしろ、この生きた全体(国家)は普遍的な精神的な本性をつくるものであり、あるいは、各人の個別性に対して各人の本質を作りあげるものである。したがって、全体の生存は個人の生存よりも優先され、そうして誰もがこの心情をもたなければならない。

 

 

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ヘーゲル『哲学入門』第二章 義務と道徳 第五十四節[道徳的な協同体としての国家]

2022年06月09日 | 哲学一般

 

§54

Der Staat fasst die Gesellschaft nicht nur unter rechtlichen Ver­hältnissen, sondern vermittelt als ein wahrhaft höheres morali­sches Gemeinwesen die Einigkeit in Sitten, Bildung und allge­meiner Denk- und Handlungsweise (indem Jeder in dem An­dern seine Allgemeinheit geistiger Weise anschaut und er­kennt) .(※1)

第五十四節[道徳的な協同体としての国家]

国家は、ただ法的な諸関係の下に社会を包摂するのみでなく、むしろ真に高い道徳的な協同体として、習俗や教養および普遍的な思考と行動の様式において、統一性をもたらすものである。(各個人は自分自身の精神的なあり方の普遍性を他者の中に直観し認識するからである。)

 

※1

国家は単に法的に包括されるだけのものではなく、それ以上に、一つの道徳、倫理、習俗(伝統)から生まれる共通した思考と行動の様式をもつ民族による協同体である。

 

 

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ヘーゲル『哲学入門』第二章 義務と道徳 第五十三節[国家への義務]

2022年06月08日 | 哲学一般

III. Staatspflichten

Ⅲ.国家への義務

§53

Das natürliche Ganze, das die Familie ausmacht, erweitert sich zu dem Ganzen eines Volkes und Staates, in welchem die Indi­viduen für sich einen selbstständigen Willen haben.

第五十三節[国家への義務]

家族を構成している自然全体は、一つの民族や国家の全体へと自らを拡張する。民族や国家においては、それぞれの個人は自分自身のために一つの自立した意志をもつ。

Erläuterung.

説明

Der Staat geht einerseits darauf hin, die Gesin­nung der Bürger entbehren zu können, nämlich insofern er sich von dem Willen der Einzelnen unabhängig machen muss. Er schreibt daher dem Einzelnen genau ihre Schuldigkeiten vor, nämlich den Anteil, den sie für das Ganze leisten müssen. (※1)Er kann sich auf die bloße Gesinnung nicht verlassen, weil sie eben sowohl eigennützig sein und sich dem Interesse des Staates entgegensetzen kann.

一面においては、国家は市民の心情を考慮することなく進んでいく。というのも国家は個人の意志に左右されてはならないからである。したがって、国家は個人に対してその責務を課している。すなわち、個人が全体に対して負わなければならない役割を厳密に課している。国家は個人の単なる心情に信頼することはできない。なぜなら、心情はまさに利己的なものであり、また国家の利益に対抗することもありうるからである。

— Auf diesem Wege wird der Staat Maschine, ein System äußerer Abhängigkeiten. (※2)Aber auf der anderen Seite kann er die Gesinnung der Bürger nicht entbehren. Die Vor­schrift der Regierung kann bloß das Allgemeine enthalten. Die wirkliche Handlung, die Ausfüllung der Staatszwecke, enthält die besondere Weise der Wirksamkeit. Diese kann nur aus dem individuellen Verstände, aus der Gesinnung des Menschen ent­springen.(※3)

⎯⎯⎯⎯ このようにして国家は機械 に、外部にある従属関係のシステムとなる。しかしながら、その一方で、国家は市民の心情 なくして済ませることもできない。政府の規則は、ただ普遍的なもののみを規定できるだけであるが、現実の行為、国家目的の実現には、特定の活動の仕方を必要とする。これらは、ただ個々人の同意のみから、人間の心情のみから生まれくるものである。

 

※1
個人の国家に対する義務として、納税の義務、兵役の義務、教育の義務、労働の義務などがある。現行日本国憲法においては 第三章 国民の権利及び義務 以下に規定されている。しかし、そこでは国民の権利の規定に比して、義務の規定は少ない。

※2
「機械」を「外部にある従属関係のシステム」と言い換えている。
ein System äußerer Abhängigkeiten  の 「äußerer 外の、外部にある」は、
「客観的に存在するとか、主観的な意志の及ばない」ぐらいの意味だろう。

国家は、個々人の個別的な意志を考慮に入れない。個々人は国家意志に従属する。
国家の意志を実現するための法の執行にみるように、一面において国家は個人にとっては機械的で「非情」なものである。
ロシアとの戦争を戦っているウクライナのゼレンスキー大統領も国民総動員令に署名して、十八歳から六十歳以上の男性の出国を事実上禁止した。

※3
その一方でまた、国民の、無名の個々人の心情、無数の犠牲的な愛国心なくして、国家は成り立たない。

 

ヘーゲル『哲学入門』第二章 義務と道徳 第五十三節[国家への義務] - 夕暮れのフクロウ https://is.gd/3ZX7z1

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ゲーテ『親和力』第四章

2022年06月06日 | 芸術・文化

 

ゲーテ『親和力』第四章

この第四章の登場人物も、引き続きロッテリアとその夫である男爵エドアルト、そして彼の友人である大尉である。友人の大尉がロッテリア・エドアルト夫妻の館に来ることによって、エドアルトの所有地の測量やその地所の記録を進めていく。この間に友人の大尉が取り組む仕事ぶりによって、大尉が有能な実務家であることがわかる。大尉は「仕事への真摯さと生活の自由とを切り離すことの大切さ」を友人のエドアルトに説明するが、エドアルトはそれを自分に対する非難のように聞くが同時に、大尉によって、自分の欠点が是正されたようにも感じる。エドアルトが雇っている老いた書記も、大尉のおかげでテキパキと一層仕事を能率的にこなすようになった。

このようにして友人同士の二人は昼間を過ごしたが、晩にはシャルロッテを交えてひと時を過ごした。そこでの会話や読書は、市民社会の福祉と利益と慰安を増進するような対象に向けられた。大尉の滞在以来シャルロッテにとってもさまざまな家庭内の施設が大尉の活動によって実現されていった。エドアルトの地所に多い池沼での事故に備える対策も進められた。この時の彼らの対話の中から、かって二人の友人の間に起きたらしい悲しい追憶の存在が暗示される。そうした施設とともに応急のために必要な医者についても呼び寄せることが決められる。こうしてシャルロッテは大尉の存在にますます満足を感じるようになる。

また、生活の中から有害なものを、鉛の釉薬や銅器の緑青などに頭を悩ませていたシャルロッテは、夫や大尉たちの対話や読書の中に、その解決のための質問のきっかけを得ることになる。それは夫のエドアルトが、彼らの談話な中で、響きのいい低音の声で化学的な内容の書物を朗読したからだった。その時シャルロッテは夫の朗読している本を覗き込んで見たために、夫から注意される。それは夫のエドアルトが化学の書物の中から「親和力」という言葉を読むのを聞いてシャルロッテは従姉妹や親戚の者たちとの人間関係とその連想から、その「親和力 Die Wahlverwandtschaften」という術語や外来語の言葉のより正確な意味をシャルロッテが知ろうとしたためだった。

土壌と鉱物の化学の話の中に、人間関係を連想してしまうシャルロッテに対して、大尉が応じて、水や油、水銀などを実例にして「親和力」の意味を説明し始める。ここではじめて、このゲーテのこの作品の表題である「親和力」が出てくる。この用語が実は化学関連の術語であり外来語であることもわかる。

「親和力 Die Wahlverwandtschaften」という化学における術語には、「Wahl 選ぶ」という意味と「verwandtschaft 親族」という意味が含意されているところから、シャルロッテはこの言葉の真意を知ろうとしたらしい。ゲーテがこの作品の表題として「親和力 Die Wahlverwandtschaften」を選択した意図もここに予想される。

夫のエドアルトが水や油、水銀などを実例に説明するのに対して、シャルロッテはそこに人間や社会のさまざまな集団の対立や親近性の姿を連想する。さらに大尉は、石灰石に希硫酸を加えたときの作用を、分離と合成で説明し始めるが、シャルロッテはそこにも相変わらず人間関係を連想するのに対して、夫のエドアルトは、「自分は石灰石で、友人の大尉である硫酸によって、シャルロッテとの親密な関係が解かされてしまう」という意味を含ませているようにエドアルトは感じる。

大尉がさらに自然物の相互の牽引と反発について説明し始めると、エドアルトは現在のシャルロッテ、エドアルト、大尉の三人の生活の中に、シャルロッテの姪のオッティーリエを呼び寄せることを提案する。その時シャルロッテの方もまた、家政婦が暇をとることもあって、オッティーリエを呼び寄せることを考えていたことを打ち明けながら、一通の手紙を夫のエドアルトに渡した。

 

(⎯⎯ はじめは単にゲーテの作品だということぐらいで、気分転換くらいの気持ちで、気楽にと読み始めたけれども、この作品の概要などをたまたま目にすることがあって、その内容がかなりおそろしい「不倫小説」であるらしいことがわかった。少し動揺も覚えたけれど、今さら読書と感想を記録していくことを中止する気にもなれないので、どれだけ時間はかかるかもしれませんが読み続けていくつもりです。)

 

Die Wahlverwandtschaften, by Johann Wolfgang von Goethe    https://is.gd/I2nNl5

 『親和力』 完全版 eBook : ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ, 上妻 純一郎, 實吉 捷郎: 本  https://is.gd/VHl5UP

 

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする