国際法とアラスカ会談(プーチン・トランプ会談)と日本
2025年8月15日、アラスカで行われたプーチンとトランプの米露首脳会談(いわゆる「アラスカ会談」)は、ウクライナ・ロシア戦争の停戦に向けた動きとして国際社会の注目を集めました。しかしながら、この会談には当事者であるウクライナは呼ばれず、会談の内容は、ロシアによる侵略行為を事実上容認する形となる危険性をはらんでいました。歴史を振り返れば、ヤルタ会談(1945年)において大国が小国の運命を一方的に決定した結果、冷戦構造が固定化され、小国(ポーランド)の主体性が奪われたという過去の事実があります。
2014年のクリミア併合および2022年のウクライナ本土侵攻により、ロシアは国連憲章第2条4項に明白に違反する侵略行為を行いました。これに対し、国連総会では繰り返しロシアを非難し、ウクライナの主権と領土一体の原則を支持する決議を圧倒的多数で採択しています。
アラスカ会談においては、トランプ大統領は、ロシアのこのような侵略行為を明確に糾弾せず、ウクライナを当事者として認めないままに会談は進められました。このことは、歴史的にはヤルタ会談において、チャーチル、ルーズベルト、スターリンらの大国の指導者たちが、ポーランドの扱いに見せたのと同様に、小国の主体性を奪ったままの和平という、かっての大国政治の再演を想起させるものでした。それが許されるなら、将来において同様のことが、たとえば核超大国アメリカと中国が、核戦力を保有しない軍事小国日本を差し置いて、その歴史的な処遇を取り決めるということも考えられます。
国際政治は常に「大国の政治」と「小国の自決権」という二つの矛盾する原理の間で揺れ動いてきました。ヤルタ体制におけるポーランド問題や、冷戦期のフィンランドに見られたように、大国は自らの勢力圏を確保するために、小国の主体性を制限し犠牲にしてきた事実がありました。
そうした経験から、国連憲章第1条2項や国連総会決議ES-11/1(2022)は、小国の自決権と主権尊重を国際法の根本原則として再確認しています。日本は、大国の権力政治と小国の自決権という二重構造の国際政治の現実において、国際法の立場を堅持し、正義に適った平和を追求すべきです。たんに形だけの平和を追求しても永続しません。
正義にかなう平和とは、1)国際法に基づく主権の尊重、2)当事者の自由意思に基づく合意、3)戦争犯罪の責任追及、という三要件を備えて初めて実現されるものです。アラスカ会談は、これら三要件を欠いており、「正義にかなった平和」の達成には役立ちません。日本は、この会談を承認することなく、国際法に基づく原則的立場を貫くべきです。
また、こうした国際法の理念を現実の外交政策として実行に移すためには、具体的には主に次の四つ政策が必要です。
1) 制裁と圧力の継続(特に輸出規制と第三国経由の監視)
2) 人道支援と復旧支援の拡充(エネルギー・医療・教育・地雷除去)
3) 戦争犯罪の責任追及(ICCとの協力、証拠保全)
4) 国際秩序の制度的再建(G7声明、国連総会、安保理改革)
これらの政策を体系的に組み合わせながら、日本は国際法の理念を現実にする外交を展開すべきだと思います。