アートの周辺 around the art

美術館、展覧会、作品、アーティスト… 私のアンテナに
引っかかるアートにまつわるもろもろを記してまいります。

Don't Follow the Wind

2015-11-16 | 展覧会

東日本大震災から4年を迎えた今年の3月11日、Twitterである展覧会が始まったことを知った。リンクの貼られたWEBサイトにアクセスしてみると、真っ白い画面に音声だけが流れる。

「Don't Follow the Windは、東京電力福島第一原子力発電所付近の帰還困難区域内で開催されている展覧会です…」

放射線量が高く、今なお立ち入ることのできない地域で開催されている国内外のアーティスト12組による国際展。この展覧会は、これから後、帰還困難区域の封鎖が解除されて初めて見に行くことができる。それは、3年後なのか、10年後なのか、もっと先なのか…。

発案者はChim↑Pomだと聞いて「さすが!!!!!」と思った。これこそ、まさにアートができること。震災から4年がたって、今そこにある現実を、まるごとそのまま提示する方法として、こんな秀逸なアイデアがあるだろうか。

この展覧会のことを知ってから、タイトルの意味をずっと考えていた。「風になびくな」なのか「風化させるな」なのか…。Twitterでいただいた情報によると、福島第一原発の事故後、住民の多くが北へ逃げようとしたなかで、長年の経験から冷静に風向きをみきわめた釣り人が東京方面に逃げた事実から、展覧会名にとられたいうことだが、いろいろな意味が込められているようだ。

最初はいったい何が展示されているのか、誰が展示しているのか、さっぱりわからなかったこの展覧会のサテライト展示「ノン・ビジター・センター」が、9月にワタリウム美術館で始まった。そのニュースを聞いて初めて、これが実在の展覧会であることを実感し始めたのだ。好評につき予定の会期より延長されたため、先日の東京ツアーで見に行くことができた。

展示されているのは、それぞれのアーティストの作品のまさに「断片」。少し詳細な説明がある作品もあったが、その全容は依然つかめないままだ。それより、会場全体を使って、この展覧会の特殊性がとても強調されていた。

「拒絶」「隔絶」がキーワードか。3階のEVが開いた瞬間の衝撃。3階の小さなスペースにほとんどの作品が展示されているのだが、ここには立ち入ることができない。鑑賞者は特設の不安定な階段を上ってガラスの外から作品を眺めるしかないのだ。よく見えない、映像の音も聞こえない…。「近寄れない」ことを実感させる展示方法。

ところが、3階の奥に事務所があるらしく、私が見ているあいだに2回ほどスタッフがそのスペースをスタスタと横切っていかれた。「隔絶」が漂う空間にあって、これが逆に救いのようで、なんだかホッとした。

展覧会のことをもっと知りたくて、Don’t Follow the Wind: 展覧会公式カタログ2015を購入。これは、めっちゃ読み応えあり。というか、このカタログ自体も展覧会の一部なのではないかと感じる。冒頭の椹木野衣さん(椹木さんもグランギニョル未来というアーティスト集団の一人としてこの展覧会に参加)のテキストがとっても興味深い。「美術・美術作品・美術の力」と「放射能・放射性物質・放射線」の接点について。ランドアートを提唱したスミッソンがいうところの「サイト=現場=よそ」の作品を「ノン・サイト=美術館=ここ」に翻案することについて。そして西洋とはちがって、自然災害にまみれている日本列島内の「ノン・サイト」の不確かさについて…。

他にもChim↑Pomの卯城さんはじめ実行委員会のメンバーによる座談会なども大変興味深かった。やはりアイデアだけでは乗り越えられない壁がいくつもあって、資金的な問題だとか、たくさんの困難を克服して実現にこぎつけたことがよくわかる。さまざまな人とのつながりが生まれたおかげだと、彼らは言う。福島の地域の人はもとより、このプロジェクトに賛同する人、それは日本の国の枠を超えて。

大変申し訳ないことだが、関西にいると福島は遠い。いろいろなニュースを見聞きすることで、その状況は知っているつもりではあるけれど、この展覧会の存在を知り、実際にいつ見られるのかわからない作品のことを想像することで、ぼんやりしていた視点がフォーカスされるような感覚がある。震災後、4年がたってもなお、足を踏み入れることのできない地域がこの日本に存在することを、改めて思い起こす。そんなことって、あっていいのだろうか…?

いつかこの展覧会がオープンする日のことを想像する。それは、カタログの座談会で語られていたように、もしかしたらひっそりと始まり、見に行くには防護服が必要ってこともあるかもしれない。それでも、想像し、そして願う。帰って来た地域の方々が、笑顔で展覧会を訪れる日が来ることを。

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