12.徘徊暮らし(5)
それから、北へ向かったけれど、山ばっかりで、お腹はすくし、まだ少しばかりおっぱいも張ったりして、体力的にも精神的にも少々疲れてしまって、枯れた松の木の根元で寝込んでしまったの。どれぐらい経ったのかわからなかったけれど、目覚めた時はもう辺りはまっ暗くなっていたのよ。すると、耳元で落ち葉の音がガサガサして何かが居るのに気付いたの。寝たふりして静かに様子を見ていたら、野ネズミが2匹でちょろちょろしているの。お腹もすいていたので、反射的に1匹捕まえて頂いちゃったの。山の中にもこんな美味しい連中が居るなんて思いもしなかったので、つい、満腹感と安堵感から満足感に変わっちゃったのよ。そんなに贅沢をする必要もないので、何とか生きていければいいと思って、暫くひとりで山暮らしを始めることにしたのよ。
山でののんびり暮らしを始めて、すぐのことだったけど、あたいまた妊娠していたのよ。N牧場に時たま顔出ししていた黒い猫で口や鼻の部分とお腹の白い奴がいてね。一晩しっぽり付き合ったことがあったのよ。意外と健康に自信があるあたいなので、こんなことしたら、種の保存というらしいけれど、あたいも確実に結果を出して子孫繁栄に貢献できているのよね。だけどだーれもそんなことを評価してくれないなんて、寂しいものよ。おじんやおばん、牛小屋のおっちゃんやおばちゃんらは、自分らの孫が出来たと言っては、それをネタにワインやお酒飲んで馬鹿騒ぎして、喜んでいたが、やはり住む世界が違うのよね。生まれる命には代わりはないのにと、いつも思っているの。せめて男前のあいつの性なのだから、「良かった」と言ってくれたらと思っても、そんな常識なんて無いのもあたいらの世界だものね。